第5話 異世界テンプレ・ハーレムルート
テンプレってあるよね。
フラギルの言葉に騎士はしばし放心し、ハッと我に返って落ちた剣を拾い上げながら言った。
「それだけのために私と戦ったと?」
「無論。あのように不味い感情を撒き散らす兵を放っている親玉は一体何者だと思っていたが、その親玉までも不味くてはな。どうだ、我に救われてみる気はないか?」
フラギルの手が騎士の方に向かって伸ばされる。
騎士は剣を鞘に戻したあと、しばし無言であった。
しかし不意に。
「ーーふはっ、ははははは!!」
腹を抱えて笑い出した。最初は腹が痛いのかと思えるほど小刻みに震え、そのあとは耐えきれなくなったのか笑いが大爆発したかのように天を仰いで笑っていた。
そして周りのゾンビ兵たちも大声で笑っている。中には地に伏し、転げ回っているものもいるほどだ。
フラギルは、この者たちから流れ込んできた感情が不味いものでなくなっていることに気づいた。
『ふむ、これはなかなか美味』
『ですが主よ、これバカにされてはいませんか?』
『えぇ……むしろこれで協力の流れにならないのか、ティナ?』
『ですがペルギム、こんなに笑い転げることがありますか?』
『ペルギムの方が正しいとは思うがの、どっちじゃろな』
騎士はしばらく笑った後、ゾンビ兵たちの笑い声の大合唱の中でもよく通る声で言った。
「この身に堕ちてからより、これ程笑ったのは初めてかもしれません。助けになるーーあなたの言葉でどれだけ我らが救われたか。いいでしょう、貴方が言うこの私の感情ーー我らの恨み、怒り、悲しみ、そのすべての元凶をお話ししましょう。貴方のおかげで皆がこの怨恨をしばし忘れることが出来たこと、感謝します。」
そしてその場にガシャン、と鎧を鳴らしながら座りこんで話し始めた。
◇ ◇
世界は人間と魔物、総称としては魔族と呼ばれる者たちがいました。
その魔族を統べる魔王と、我々人間は長い年月の間争っていた。
しかし両者の力は拮抗しており、ある種の停滞期に入っていました。
ーー勇者が現れるまでは。
両者の拮抗状態が続いていればもしかすると、融和の道を歩んでいたのかもしれません。
ですが勇者は、人間と魔族がお互いを見張り、ある意味両者が共存していたコルデートの街の総督を殺してしまったのです。しかも魔族と内通していたとして、人間側の総督も。
その所業に魔族側は憤慨し、聡明であった人間の総督を偲ぶ声明を添え、人間側に警告を出しました。
それに対し人間側はなぜか勇者を処刑することなく、あろうことか魔界侵攻軍なるものを結成し、その旗頭として将軍の席に勇者を座らせてしまったのです。
そうです。そうなのです。
勇者の持つ力は、それはもう強力な魅了の力。もちろん勇者の持つ力はそれだけではないのですが、やはり一番強力な力と言ってもいいのでしょう。
魔族に対抗するため一致団結していた世界の王や皇帝を、勇者はその大半を魅了して自らの傀儡としてしまっていたのです。
……今思えば評判が良く、誰からも慕われていた総督を偲ぶ声が人間側からあまり出なかった、というのは異常だった。当時の騎士はそのことに気づきながらも、人間と魔族の確執は自身の思っていたよりもずっと大きなものだったのか、などと思いながらその戦争に参加していました。
それから人間と魔族の戦いは三年続き、そして両者の屍の山が多々生み出された末、人間側が勝利を収めました。決め手となったのは、魔王の娘の手引きだっただとか。
魔族は当然の如く皆殺しにされ、逃げ延びた者を追討するため新たな軍を結成したりと……。
この時より魔族はこの世界から姿を消しました。
そして魔族を駆逐し尽くした人類は歓喜に包まれました。人間はこの世界で最も優れた種、人間はこの世で最も清らかなる魂を持つ者、などと吹聴し、それはもう勇者を持ち上げて。
そしてついに、人間全てを統べる王として、いや、皇帝として勇者が祭り上げられたのです。
……勇者が皇帝の座に就いてからは、それはもう非道いものでした。
勇者はこの世界全土にあろうことか、魔族との戦いに従軍した兵士たち全員の処刑命令を下したのです。
当然、戦争に参加した者たちは反抗しました。しかし各国の王は魅了され、勇者の走狗となってしまっている。
必然、騎士たちは自らの身を守るべく、そして勇者を討伐すべく全世界に呼びかけて反乱軍を結成しました。
しかし呼びかけに応じ、立ち上がった者はごく少数。他の大勢はその日に処刑されたか、進んで処刑を受け入れ、その順番が後回しになった者だけだったのです。
多勢に無勢。しかも勇者の魅了の力によって、少数の反行軍の中から裏切り者すら出しつつ、騎士たちは勇者に敗北し首を落とされました。
◇ ◇
「ーー路傍の虫を踏み潰すかのように、勇者に命を刈り取られたことこそ我らの無念。そして、まだこの世界に生きている全ての者をかの勇者から救うことこそ、我らが宿願なのです」
騎士の話を聞き終えたフラギルが、目の光を消しながら言った。
「よし分かった。今すぐ其奴を血祭りにあげてくれよう」
そう言って拳を握るフラギルに、騎士が制止の言葉をかける。
「待ってください。これは私の、いえ我々(・・)の復讐なのです」
「む……?」
振り上げた拳を緩やかにおろし、訝しむフラギル。
騎士はフラギルが落ち着いたのを見て、言葉を続けた。
「奴の所業に対して貴方がここまで怒ってくださるのは嬉しいのですが、止めは私達が。これを聞いた貴方が私たちを殺すと決断したとしても、譲ることはできません」
「むぅ、そんなことはしないが」
騎士は悔しそうに肩を震わせ、地面を見つめる。
「奴を討つためには、私には、我らにはまだ力が足り無いのです……。なのでそうすぐには……。」
「むぬぅ」
「ーーそれでも良いのですか?」
騎士が鎧を鳴らしながら立ち上がり、兜の中の二つの燐光をこちらに向けてくる。
いつの間にかゾンビ兵たちの笑い声は消えており、辺り一帯が静けさに包まれていた。
フラギルはその静けさを切り裂くかのように目を光らせ、一度は解いた拳を再び強く握りなおした。
「まあ良い。最後に美味を味わせてくれるというのならば。少々、勇者には因縁もあるからな」
「何と……では!」
「あぁ、これからよろしく頼む」
「いえ、こちらこそ」
騎士が右手を差し出し、フラギルはおっかなびっくり、その手を取って握手した。
騎士はフラギルの手をしっかり握りしめてぶんぶん振り回し、兜の奥で光る眼光を細めながら言った。
「正直に申しますと、貴方様のよーー」
しかし、その言葉が終わらないうちに騎士の姿がフラギルの前から消えてしまった。しかもフラギルの周りにあれほどいたゾンビ兵も、まとめて消えてしまっている。
残された多くの天幕が、風に吹かれてバタバタとはためく。
「ファ!?」
フラギルは目の前から騎士が消えたことについて、ただただ惚ける事しかできなかった。
しかしすぐに騎士たちがどこに行ったのか、フラギルには理解できた。
『『『ファー!? なんでここにー!?』』』
『なぁ!? な、何者だ! というかここはどこだ!』
フラギルの中にいるはずの三人の悲鳴が聞こえたと同時に、騎士の声も同じように中から聞こえてきたのだ。
しかもなぜか、ゾンビ兵達の大勢の気配も伴って。
『『『『ギャアァァァァァ⁉︎』』』』
「……ふむ、なぜだ」
誰もいなくなり、スカスカになった天幕の間を縫うようにをすり抜けてきた風が、フラギルの頬を撫でた。
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