第3話 フラギル様は話の通じるお方でございます
「……」
騎士が無言で手を振り下ろす。その号令と共に一斉に攻め込んでくるゾンビ兵。
そのゾンビ兵達は騎士から強化の魔法でももらったのか、青いオーラを纏ってフラギルへと群がった。
『少し強くなった、か?』
そう言いつつも先ほどの通り、己の拳と足でゾンビを吹き飛ばしまくるフラギル。
しかし。
『いくらなんでも多すぎじゃァ!』
いくら吹き飛ばそうとゾンビ兵が織り成し、迫ってくる壁、壁、壁。
喚くゼルの後ろで、ペルギムが呟く。
『こんな時には散弾銃が欲しいぜ』
『ほう? ペルギムよ、なんだそれは』
『こーゆうもんだ』
ペルギムの手の上に長い筒状の物が生み出される。
『まさかまた、こういうのを使うことになるなんてな』
筒、と言っても細長いただの筒という訳ではなく、そこに木のパーツやらが色々とくっついている。
そしてペルギムはその筒の端を両手で支えるように持ち、そこについた小さな突起を人差し指で引いた。
するとガガァン、と大きな音と共に、筒の端のもう片方から火が噴き出た。
『フラギル様お助けをー!』
その音量や光に驚いたティナが盛大にひっくり返る。
ペルギムはそんなティナ様子を見て頭を抱えたが、すぐにフラギルの方を見て口角を上げた。
『ティナすまん……。だがまぁ、俺が言いたかったことは分かったよな?』
『ああ』
フラギルの目には、ペルギムの構えた筒の先っぽが発火した瞬間、大量の鉛玉が射出されるという光景がはっきりと映っていた。
そして。
『つまり、こう言うことであろ?』
フラギルの腕が数えるのもバカらしくなるほど生成され、多連装ミサイルの如く、その拳をゾンビ兵たちに向けて打ち込んだ。その外見、地獄にあると言われる剣山か、はたまたハリセンボンか。
『おぉ……これぞ世界を滅ぼす破壊の雨……』
『絶対に違うと思うのじゃ』
どこぞの百裂拳よろしく、その拳はゾンビ兵たちを発泡スチロールかなにかのように、軽々とカッ飛ばしていく。
「ゴォォォォ!」
『ついに動いたな』
しかしその光景をゾンビ兵の後ろから見ていた騎士が走り出し、その攻撃の間を縫うように、時にその手に持った剣でそらしながらフラギルに肉薄してきた。
当然、フラギルはその騎士に向ける拳の弾幕を厚くする。
しかし雨あられと降り注ぐ拳一つ一つを騎士は捌き切り、どんどんフラギルの方へと迫ってくる。
「ならばこの拳、全て喰らうがいい!」
そう言って、フラギルは数多もの腕を全て騎士へと向けて打ち出した。
先ほどフラギルに押し寄せたゾンビの壁を粉砕した、ファランクスの如き針の壁が騎士に迫る。
ーーきっと騎士はこの濁流に押し流される。
中の三人はそう思った。
が、しかし。
「グォオオオオオ!」
『『『な!?』』』
「おぉ」
騎士は走りながら見事なスライディングを見せ、土を跳ね上げながらその針の壁を真正面からまとめて斬り上げてしまった。
斬り上げた剣は、フラギルが最初に見た時よりも分厚く、そして長大であった。
フラギルはその剣が煙を吹き上げ元の大きさに戻って行くのを、時間の流れが遅くなるのを感じながら眺めていた。
(なるほど、剣の大きさはこの者の思うがまま、と)
フラギルの無数の腕は切断されることはなかったが、大きく跳ね上げられてフラギルの体勢が崩れてしまう。
ガギィっと繰り出された騎士の一撃が、防御のはがれたフラギルの体に突きたてられる。
すぐさまフラギルはその剣を振り払い、自分の体を元の人型形態に戻しながら殴りかかった。
「シャァァァァァ!」
「ゴォォォ!」
金属質の拳と剣がかち合う硬質な音が、何度も両者の間で響く。
そこから両者は数度打ち合っていたが、手加減して勝てるような相手ではないとフラギルは判断したのだろうか。
「<威砲>」
かつて魔蟲皇サバニキスを散々苦しめた<威砲>が解禁された。
ただ、フラギルは前回のように口からビームを吐くのではなく、光剣のようにビームを握りしめてブオンブオンと振り回している。
その光線にはおよそ終わりがなく、地平の彼方まで続く焼け跡や、向こうに見えていた山を焼き切るなど、甚大な被害が生み出された。
普通の人間であれば、それはもはや天変地異に挑むのと同義。
しかしそれでもその光に喰らいつく、禍々しい鎧の騎士。
「我が同胞の魂、砕けてもなお振るえ! <怨念収縮斬>!」
鎧をチリチリと焦がしながらも手にした剣に黒紫の靄を纏わせ、その周りの景色が歪んで見えるほど超高出力のエネルギーが騎士の鎧に纏わりつく。そしてそのオーラが一際輝いたと思ったと同時に、騎士は流星のように尾をひきながら地を砕き、その勢いそのままにフラギルの元へと突撃していった。
「貴様今、何か喋っーッ!?」
「問答無用!」
困惑と驚きにより動きが止まってしまったフラギルに、騎士の剣が迫る。
フラギルは咄嗟に生成した盾で受け止めたが、強度不足でバリバリと砕かれかける。
「ならば短縮版だが! <属性変甲>、土装形態!」
そう口にしたフラギルの体が発光し、赤銅色の鎧に包まれる。
フラギルは慌てて変身したが、その形態になったことにより強化された盾で騎士の剣をしっかりと受け止めることができた。その盾の向こう側では剣を突き立てている騎士の、その身に纏ったオーラが糸が解けていくように霧散していくのが見えた。
力を使い果たしたのだろうか。騎士はその場でガラガラと音を立てて地面に崩れ落ちてしまった。
「む、無念……」
騎士が倒れ込む瞬間、フラギルには騎士がそう言った気がした。
『やはり……?』
「この恨みすら果たせず、私は……」
兜の間から漏れ聞こえてくる声に、フラギルの疑念が確信に変わる。
『まさか、言葉が通じる……だと?』
『『『マジデスカ』』』
サバニキスの侵攻を受けていた街で生活していた人々の会話はフラギル一行にはさっぱり分からなかったが、この騎士は違う。
かの魔蟲皇の言葉と同じく、発音は違えどその意味がフラギル達に理解できたのだ。
倒れ伏した騎士にフラギルが近づき、その騎士兜をツンツンと指でつつく。
『なるほど、こいつも不死者の一種じゃ』
『何? 他のゾンビ兵のように動きが鈍い、ということは無かったが』
『そりゃお主、此奴は中身が無いからの。怨念が鎧に取り憑いて動かしている、所謂、生霊戦鎧というやつじゃ。鎧の中身は詰まっておらぬから体の可動域の制限も無いし、要はお主の人型形態に近いもの……なのかもしれぬの』
『ふぅむ』
『完全に同じ、などとは言えんがの』
フラギルはゼルの言葉を聞き、鎧の中身を確かめるために騎士兜を両手で持ち上げた。
するとやはり兜の中に収まっているはずの頭は無く、騎士鎧の中を覗き込んでも、黒々とした空間が広がっているだけだ。
『の? わしが言った通りじゃろ。なんせ取り憑いておるだけなんじゃし』
フラギルが騎士にあれやこれやする姿に、遠巻きに見ているゾンビ兵たちの視線が突き刺さる。
ゾンビ兵の一人が剣を持って走り出そうとするのを他の者が止めるなど、案外意思疎通が取れているのではないかと思える光景も何度かあった。
『む、鎧が』
『そろそろ再起動するのじゃ』
しばらくすると、フラギルの手に持った騎士兜が震え出し、まるで掃除機のプラグのように飛んで騎士鎧の元の位置に戻った。
すると騎士の鎧から黒紫色のオーラが噴き出し、ギギギと鎧を軋ませて騎士が立ち上がった。そして剣に手をかけ、フラギルに向かって油断なく言った。
「……なぜ、生かした」
兜の隙間で青く光る眼光が戸惑いを示すように揺れている。
その騎士の言葉は確かに、フラギルたちに意味の分かる言葉として認識できた。
しかしそのことにフラギル一行が感動し、側から見れば沈黙しているようにしか見えない間を騎士は焦らしているのかと思い、声を荒らげてフラギルに剣を向ける。
「貴様は一体何者だ! なぜ私を生かした!」
「ーーなに、貴様の感情、思念が我にはあまりにも不味かったゆえ、な」
フラギルの言葉に騎士は剣を向けながらも、沈黙によって疑念をフラギルによこす。
「何か恨みや怒り、そういった類いがあるのでは無いか?」
ピクリ、とその剣の鋒が揺れる。
「……だから、どうだと?」
「我にとってそれはすこぶる不快なのだ。それに、不味の元を消すというのも良いが、そのように不味くなってしまった原因を消せば旨くなるのでは、と思ってな」
不味いものの近くにいるのはやはり、フラギルにとって相当ストレスがかかっていたのだろうか。ドドォ、とフラギルの体から特に意味もなく光が噴き上げられる。
息をしないはずの騎士の、息を呑む音が聞こえた。
「では、もしや。いや、まさか」
「ああ、その不味い感情を解消するため、手を貸してやろう」
カラァン、と騎士の手から剣が転がり落ちた。
「我が名はフラギル。ーー汝、我に幸福を捧げよ」
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