第2話 億年あってもダイジョウブ
雲一つない大空に突然ヴブン、と唸りをあげて巨大な穴ができる。
その暗く脈動する穴から、一条の虹光が線を引いて落ちてきた。
「ぬわぁァァァー」
『『『おぉぉぉー!?』』』
その光の中心にいるのは、勇者の必殺技をまともに喰らい、消し飛ばされたはずのフラギル一行だ。
四人の叫びを孕んだ虹色の光は、空を切り裂きながら地に落ちる。着弾の瞬間にはそこら一帯が白に染まった。
「目がァァァァァァ!?」
そしてあるはずのない感覚器官を労わる声と共に、フラギルの視界も白に染まった。
そこから先、フラギルの意識が飛んだ。
『ーー我が剣、あなた様に捧げましょう!』
『……こんなんじゃったか?』
『ーーカチコミが怖いやつなんていないよな! 奴ら全員ぶっ○すぞ!!』
『『『『『OHHHHHHHHHHHHHHH!!』』』』』
『……なんかやばいやつができたんだが』
『ーーフラギル様……万歳! 勝利あれ』
『『『『『フラギル様、ばんざァァァァァァァァァイ!!』』』』』
『『……ティナは通常運転か』』
フラギルの意識が戻ると、何やら三人の話し声の他に、大勢の人の声が聞こえた。
フラギルは回復したことを示すように、三人に気づいてもらえるようにピカピカと点滅した。
ティナが真っ先に気づき、その顔に満面の笑みを浮かべる。
『主よ、お目覚めになられたのですね!』
『あぁ』
『お主、大分と寝ておったの。35から7年くらいじゃったかのぅ、まぁお主からすればご馳走を奪われたようなもんじゃし、ふて寝する気持ちも分からんのではないの』
『なっ!?』
ゼルの言葉に、フラギルは慌てたように周囲を見回す。
フラギルが地面に着弾した時に、捲れ上がって禿げてしまった大地はそのクレーターの原型は残しつつも、青々とした草花が見渡す限りに生い茂っていた。
風に揺られた花が、フラギルの表面を優しく撫でる。
「……」
フラギルは光を消し、その光景をしばし無言で眺めていた。
しばらくした後、フラギルは再び意識を内側へ向けた。
『ーーして、貴様らはいったい何をやっているのだ』
フラギルの内側ではゼル、ティナ、ペルギムの他に、無数の小人が群をなしてひしめき合っている光景が見える。しかも、『俺、この戦いが終わったら結婚するんだ……』などと、小人一人がわいわいと喋っている。
『フラギルはチェスを知っておるかの?』
『あぁ、記憶にはある』
『それの駒を今作っておったのじゃ』
『それにしては駒が多いようだが』
十万体以上はゆうに超えているのではないかと思われるほどの小人の数に、フラギルは無言になることでゼルに次の説明を要求した。
そもそもチェスは一対一のはずであるのにゼル、ティナ、ペルギム、と三人に対応しているかのように色分けまでされているのだ。
ゼルは人山のうちの一人を首根っこをヒョイと掴み、フラギルに分かるように持ち上げる。
『そうじゃの。まぁざっくり言えばチェスの駒を無茶苦茶多くした遊戯じゃ。ちなみに名前は<億年戦盤>じゃ』
『ミリ……?』
『主が考えを巡らせるほどでもございません。これはゼルが作った暇つぶしの名前なのですから』
『フラギルが覚醒するまで何度もルールが追加され結局終わることがなかった、俺たちの暇を潰し続けた最強の暇つぶしゲームなんだぜ。背景ストーリーまで考えて駒を作ると、面白さがより上がる』
そう言って、ペルギムが何もないところに手をかざすと、その先でグラサンをかけた厳ついニイチャンが出てきた。
『あぁん? なに見てんだコラ』
『……まぁ今はなにも考えずに作っているけどな』
『おー? やんのかゴルルァン』
『……本当になにも考えずに作っているんだ。参加人数に制限はないし、フラギルもやらないか?』
ペルギムが自身の手をペシペシと叩く小人を押さえつけながら、フラギルを誘ってくる。
三人が<億年戦盤>の準備を進めているのを見て、面白そうだと思っていたフラギルは当然。
『やろう』
『うっし!』
『おぉ!』
『なんということでしょう!(私の駒全てをフラギル様に捧げようかしら)』
承諾した。
そしてフラギルは見よう見まねで、三人のように駒を作ろうと手を伸ばす。
『むぅ……』
しかしフラギルの前に現れたのは、現代アートのように捻くれ曲がったよく分からない物体であった。正直、なぜ自立しているのか理解できないほどである。
フラギルの横でポンポンと駒を生成していたゼルがその様子を見て、呆れたように言った。
『お主、きちんとイメージして作ったのか?』
『一応は、な。だが……』
しかしイメージと言われても、という風に明滅するフラギル。
ゼルはしばらく考えた後、その場でグルグルとゲームがバグった時のように、重力と地面に喧嘩を売って縦横無尽に回転し始めた。
『だからイメージ、確固明瞭とした意思が必要なのじゃ』
バグった挙動のゼルから射出された駒は、地面にグシャと打ち付けられながらもすぐに立ち直り、平然とした様子でゼルの駒が集まっている隊列に加わっていった。
『まずは自分の体をどうやったら動かせるか、そのイメージを掴むところから初めてみれば良いのではないかの? それに慣れれば、お主の思い描いたものが形になるかもしれんの』
ゼルの言葉に従って、フラギルは自分の体を動かそうとする。
この時フラギルはこの意思体の操作に、本体の体を動かす時に似た操作感覚を覚えた。
そうしてぐるぐると回りだしたフラギルを見て、ゼルが満足そうに声をかける。
『そろそろ感覚を掴めたかの。掴めたと思ったら作成開始じゃ』
ゼルの言葉からしばらく経った後、フラギルからポンポンと駒が射出され始めた。
『どれどれ』
地面に落ちた駒をゼルが拾い上げ、その後ろからティナとペルギムが覗き込む。
その駒の外見は蛸に蝙蝠が合体したような、まさに邪神といった意匠であった。
『おぉ!? なんぞこの光ィ! やんのかッ、ブベラァ!!』
『あー、俺の駒が潰れた……』
『『『『『おお、これぞフラギル様の恵み! フラギル様、ばんざァァァァァァァァァイ!!』』』』』
『さすが我が駒』
フラギルが光り輝きながら回転する様、まさにミラーボール。フラギルの中はちょっとしたディスコのようになっていた。……駒である小人たちにとっては、その体と同程度の大きさをもった奇形のオブジェが流星群のごとく降り注ぐという、終末世界でしかなかったが。
そして落ちてきたオブジェを崇め狂喜乱舞するティナの駒たちは、ティナの顔に満足そうな顔を浮かばせつつ、この場のカオスっぷりに拍車をかけていた。
ちなみに、元気に回るフラギルは気付おらず、三人は忘れていた。
『もういいのではないか?』
『まだまだじゃの〜』
『主よ、もっとです!』
<億年戦盤>。それはゼル、ティナ、ペルギムがフラギルの目覚める前までずっと暇を潰し続けてきた最強の暇つぶしゲーム。
それ即ち。
『もういいか?』
『まだまだだ』
駒をそろえることにすら、何年も要するのだ。
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