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第24話 絶望粉砕、進化の証

グロ注意

「少し姿が変わった程度で!」


 とフラギルに殴りかかるサバニキス。フラギルの圧に少し引いてしまった己に対する叱咤しったを込めて、サバニキスは拳を振り抜いた。

 その拳撃は空気を切り裂き、白い筋をまとって突き進む。

 対するフラギルは盾を構え、サバニキスの一撃を何事も無かったかのように受け止めていた。

 ギリギリと両者の力が拮抗し、両者の視線がチリチリと交差する。

 そんな中、フラギルの内側からティナの咽び泣く声が聞こえてきた。


『フラギル様ぁ〜、よくぞご無事で!』

『ティナか。貴様こそ無事だったのか?』


 ティナの目尻には大粒の涙がたまり、鼻もズビズビとなっている。しかし口角は三日月のように曲げられていた。

 サバニキスとの戦闘中に中の三人が全く喋らなくなったので心配していたフラギルだが、三人の無事が確認できた安堵からか、笑みの代わりに横顎をパチパチと小さく打ち合わせた。 


『お主、もしや聞こえておらんかったのか? ワシら、このサバなんたらがお主と戦い始めた時からずっと応援しておったのじゃがな。最初から聞こえておらんかったのか……』

『う、うむ。しかしだなゼルよ』

『しかしもカカシもねぇ! 来るぞ!!』


 ペルギムの声にフラギルの意識が戦闘に引き戻される。

 見ると、サバニキスが残りの三本の腕を一斉に盾に叩きつけ押し切ろうと、今にも拳を放とうとしているところであった。

 フラギルはその攻撃ごと盾を押し込み、サバニキスの体勢を強引に崩す。


「な!? おそれるべきはその耐久性か!!」


 笑いながら倒れ込むサバニキスに向けて盾が振りおろされる。だが人間であれば直撃したであろう重い一撃は、ブリッジ状態で地面に手をつきカサカサとスライドしたサバニキスには当たらなかった。


「シィヤアァ!!」


 しかもバネ仕掛けのように飛び起き、攻撃を外した隙を見逃さず攻撃を加えてくる。

 中の三人には、この素早いサバニキスにいかにして攻撃を与えるかが課題のように思えた。

 近接格闘のエキスパートだと自分で言ったペルギムが、ゼルとティナの無言の圧力により、おずおずとフラギルに向かって提案した。


『なぁフラギル、俺のアドバイスーー』


 しかし、そこはフラギル謹製きんせいの鎧である。攻撃を見事に弾き、攻撃を加えたサバニキスの体勢が崩れるだけの結果となってしまった。

 空中に浮き上がったところへ再度振るわれた盾の、地面を抉り取るかち上げの一撃がサバニキスに回避させる暇も与えずクリーンヒットし、サバニキスは空中へと吹き飛ばされた。

 フラギルの作った壁からっ逆さまに落ちるサバニキス。


『……は、いらないみたいだな』

『あとで教えてくれ』

『おう、いいぜ』

 

 地面に着地したサバニキスは、どうすればフラギルの装甲が破れるか思案する。

 グチャ、という音が足元から聞こえた。見ると、そこら一帯には大量の死体が人間、蟲人分け隔てなく散乱していた。


「ならば数の暴力で押し切る、か。スマートでないが、まあいいか」


 サバニキスはやれやれと言ったふうに額をおさえ、地面に手をつき詠唱した。


「<魂蟲葬列軍セクト・センチネル>」


 あちらこちらで死体がウゾウゾとうごめき、その内側からワラワラと産まれ出てくる蟲兵達。

 死体の数は十分以上。以前、サバニキスが死体処理部隊を蟲兵に変えた時とは比にならない数の蟲兵が城壁の外で雄叫びをあげる。

 

「<喰撃命令イケ>」


 サバニキスの号令で、一気に蟲兵達がボロボロになってしまった城壁に向かって、地を震わせながら突撃してくる。

 この世の地獄を結集させてもあまりあるこの光景を見て、それでもサバニキスは何事もなさそうに言った。


「この形態になってから出来ることが色々と増えてな」


 城壁に向かって歩を進める。そして足先に地面の端が触れても、さらに一歩踏み出した。

 当然、何もない空中に踏み出せばそのまま落ちる。


「<白亜壁パヴェル>」


 しかし、地面から盛り上がるように生成された白い壁が、その足をしっかりと受け止めた。

 白壁は光壁を外周を覆うかのように展開され、新たな城壁の一枚としてその威容を蟲兵達の目に刻み込む。


「今更壁を作ったところでどうする! こちらは飛行部隊も作ってあるのだ。行け!」


 それを見たサバニキスの命令により、飛行蟲部隊が一斉に空へと舞い上がる。

 しかしフラギルも、ただ頑丈な壁を作ったわけではない。

 飛来する蟲兵たちを見据えつつ、フラギルは片手を大きく天へとあげた。


「<不撓筒ウカノウ>」


 それに呼応するかのように白壁の上に、等間隔で何かが無数にボコリと生えてきた。

 それは簡素な柱の上に、フラギルの頭がのっているという意匠であり、少々間抜けにも見える。

 しかしそのオブジェ一つ一つが眼を不気味に光らせ、蟲兵達を睨みつけている。

 そのあまりに異様な光景を見たティナが驚きの声をあげる。


『フラギル様が一杯!? これは一体』

『要は発射術式を刻み込んだ自動射撃塔だ』


 そう言って天へと向けたフラギルの手が、地へと振り下ろされた。

 それと同時に放たれる、幾本いくほんもの光線。


「<万地覇導並列砲ノセス・ヤロ・ハレマ>」

 

 一斉に放たれた光線は硬質な悲鳴をあげ、地を白一色に塗りつぶした。

 空を征き、攻め込もうとした蟲兵達も例外では無く、グリンと上を向いた不撓筒ウカノウによってチリも残さず消滅させられる。

 上下左右、縦横無尽に間断かんだんなく放たれるレーザー。そして、壁の上で謎の動きをしているフラギル。

 ある者が見ればこう思っただろう。

 ーーライブでもやってるのか?

 と。

 蟲兵達は皆、聴衆、観客と化し、まるでフロアが沸き立っているかのように、土塊と一緒に宙に舞い上がった。

 サバニキスとて例外ではない。


「何ィーーーッ!?」


 光をバシバシと浴びて後ずさる。

 吹き飛んでいく蟲兵を横目に、これは悪手だったかとサバニキスは考え、切り札を切ることに決めた。


「チィイ! 仕方ない、力を貸せ! <この一身に億の魂(ティラグナ・ミラジ)>!」


 その術は合体の技。そしてそれは種としての力を合わせ、強大な敵に立ち向かうための個の力を完成させる、協働の術。

 サバニキスの口から唱えられた瞬間に、蟲兵達は自分の命を顧みずサバニキスへと殺到する。

 サバニキスに触れた蟲兵達はくずれ溶け合い、彼らが信ずる王を高く、高く押し上げていった。

 王が見る高みは白壁を越え、ラトベリアの城をも越える。

 その姿にフラギル達は言うしかなかった。


『『『『Oh……big』』』』


 と。

 一体の巨大な蟲兵の姿がズズン、と大地に顕現する。

 乱反射する装甲の一つ一つが溶け合った蟲兵の残骸なのだが、意思はブレることなくサバニキスの意思のもとで統一されていた。


「そんな小細工など、この力で捻り潰してくれる!!」


 空を切り裂き、小山のようになった拳が打ち下ろされる。

 轟々と唸りながら落ちてくる拳は、螺旋を描きながらフラギルへと接近した。

 フラギルは、変容したサバニキスの姿を見て悟った。


「皆の力を合わせて、か」


 俯くフラギルに向けてガキン、ガキンと不撓筒ウカノウが発射口を向け、連結していく。

 そして顔面には顎をした盾が仮面のように装着される。

 フラギルは重くなった頭部を支えるかのように膝を曲げ、降ってくる拳と相対した。


「好都合だ」


 不撓筒ウカノウの一本一本がまばゆく光り輝き、その光がフラギルへと集まっていく。

 そして、ガパリと開いたフラギルの顎盾へと収束した。


「ーー<万地覇導直列砲ノセス・レキ・ハレマ>」


 天に向かって光が打ち出され、さながら大蛇のように合体した蟲兵の巨体に喰らい付く。


「ぐァァァァァァァァァァァァ!?」


 当たった所から徐々に剥がれ落ちていく装甲。サバニキスはそれをかき集めるかのように両手を必死に動かしたが、端々から霧散していく。

 バガン、べギリィ、と破砕音を響かせ貫通し、極太の光は合体の核となったサバニキスをもろにとらえた。

 大爆音と共に地面に叩きつけられ、転がるサバニキス。


「ガァア! まだま……ァ!?」


 煙を吹き上げながらきしむ体を動かして起き上がるサバニキスだったが、その視界には先ほどまで高くそびえ立っていたはずの白壁がなくなっていた。

 目に映るのはただ、目的としたラトベリア王国の街並みのみ。

 サバニキスは震える体に鞭をうって、ギギギと機械仕掛けのように目線を上げる。

 見ると、上空ではフラギルがはねを広げて浮遊していた。

 ーー白壁と共に。


「……まさか……あれは」


 白壁が取り払われて視界が開けた中、地に落ち銀鎖だけとなってしまったペンダントをチャリ、と拾うオルベス。

 手に握りしめた銀鎖についていた石が今、この光景を生み出している。

 その憶測に辿り着いたオルベスは、驚きのあまりその場にへなへなと座り込んでしまった。

 ーーそして驚いたのは魔蟲皇サバニキスも同様。


「馬鹿な!?」


 白壁に設置された不撓筒ウカノウの一本一本が地面に向かって光を吐き出し、ロケットエンジンよろしく白壁を浮き上がらせているのだ。

 それをサバニキスが視認したと同時に、サバニキスの足元の地面がボコボコと盛り上がりサバニキスを捕まえようとする。

 当然、サバニキスはその程度の戒めは意に介さず破壊できる。

 しかし瞬時に地面は盛り上がり、まるでトリモチが捕えた虫を逃がさないかのようにサバニキスを離さなかった。

 サバニキスが空へ逃げようとしても離すことは無く再生し、塔のようになってしまった。

 そこに倒すべき敵がいることを示すかのように。


「壁の向こうの者たちを絶望へと向かわせることが貴様の救済、覇道であるならば、我は貴様の覇道、貴様の想いを粉砕しよう」


 白壁が円錐状に変形していく。

 円錐の頂点はサバニキスへ向けられ、フラギルは円錐の底面へと降り立った。

 フラギルは底面に手をふれ、同化させながら言った。


「数多くの者たちの思いを受け止めた壁だ。その想い全てを、貴様にくれてやる。畏れ見よ、これこそまさに覇の終極。<粉砕覇道クセス・ネロ・ハノー>」


 その言葉が終わったと同時に、円錐を支えていた光線が180度回転し上へと噴射された。そして唸りをあげて、サバニキスへと落下した。

 サバニキスは戒めを解くことは叶わず、ただその一撃を正面から受ける他なかった。

 だがそれでも。


「がァァァ!! <流した血・偽(グイリリア)>ァ!」


 それでも足掻あがく。

 あちこちに散乱した蟲兵の死体から浮き上がった黒紅の光球がサバニキスのもとへと飛来し、その体の中へ次々に入っていく。

 炎のようなオーラを纏ったサバニキスは残像が見えるほどの速度で四本の腕を動かし、その拳撃全てを円錐に集中させた。

 強化された拳は確かに円柱を砕いた。しかし円錐は即座に修復され、空気を粉砕しながら落ちてくる。


「ーー!! ーー!!」

 声に出ない叫び声のようなものをあげ、サバニキスは全力をもって円錐を受け止めるしかなかった。

 しかしさすがは魔蟲皇。光を噴き上げ落ちてくる円錐とその力が拮抗し、円錐の落下がピタリと止まった。

 ビリビリと風圧が吹き荒れる。

 轟々と噴き上げる円状に並んだ光柱の真ん中に降り立ったフラギルは、その状況を知覚して一言。


「では、すり潰す。回れ(・・)


 鍵をひねるかのように腕を回すと、それと同時に噴射されている光線が斜めに傾いた。その光景まさに、光のうず

 サバニキスは掴んだ円錐がガリガリと動いていくのを感じた。

 サバニキスには先ほどフラギルに殲滅された蟲兵たちの力だけではなく、人間に倒された蟲兵たちの力も宿っている。すなはち、軍の全力をもって相対しているのと同義なのだ。

 しかし、そうであるのに。


(死んでいった者達の力を借り受けていてもなお、押し切られるだと!?)


 円柱はドリルのようにとどろき回転し、サバニキスの腕を持っていきながら大気を掘削する。

 

「ギィぃぃやァァァあァァァァァァ!!」


 腕をもがれたサバニキスはそれでも受け止めようと、蟲の主君たる象徴の角を押し付けて抵抗した。

 ギャリギャリと火花とも弾けた甲殻ともとれる欠片が舞い散り、サバニキスの体が戒めを徐々に砕きながらもめり込んでいく。

 その戒めの塔の先端に円錐の頂点が触れた時。


「————— ア」


 宇宙之覚醒ビッグバンのごとき爆光が、音もなく地を砕きながら広がった。


⭐︎ゲッダン⭐︎


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