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第23話 喜びのために纏うもの

◇ ◇ ◇


「……」


 サバニキスは玉座の上で、自分が召喚した蟲兵達が豪雨の如き光弾に殲滅されている光景を、肘をついて眺めていた。

 城はつい先ほどから勇者パーティーの襲撃を受け、今も勇者が奮戦しているのだろう。ズズン、ズズンと城全体が揺れていた。


「勇者が俺の城に来たが……」


 サバニキスは勇者の始末と現在起こっている不明の攻撃を天秤にかけ、玉座の上でしばし黙考した。

 しかし、ドゴォォォッという音にサバニキスの思考が遮られる。音のした方へ目を向けると、光弾の射出量がさらに増え、汚れを洗い流すシャワーであるかのように蟲兵達を殲滅するのが見えた。

 その光景を見たサバニキスは玉座からスッと立ち上がり、側に控えていたバフリーに向かって言った。


「あちらの方が面白そうだ。勇者の処理は任せた。足止めでもかまわん」

「は! 抹殺して参ります!!」


 サバニキスは目の色を変えたバフリーを背に羽を広げ、玉座の壁を盛大に破壊しながらラトベリア王国の王城へと飛んでいった。


「魔蟲王!! お前の企みはここまでだ! お前を倒す!!」

「観念しなさい!!」


 バフリーがその姿を見送った後、しばらくすると勇者パーティーが玉座前の大扉を吹き飛ばしながらバフリーの前へと雪崩れ込んできた。

 バフリーは勇者を見て妖艶に微笑む。


「うふふふふ、遅かったわね。魔蟲皇・・・サバニキス様ならばこの場にはいないわ」

「「「「ーー!?」」」」

「ほら、見て? サバニキス様がこの壁を突き破って、真っ直ぐあなた達の守るべき城へ飛んでいったのよ」


 バフリーが指し示した大穴から見える景色には、炎上するラトベリア王国の首都の姿があった。

 絶対の安全の象徴たる光の壁は脆く砕け散っており、その明滅する光はこの国の灯火が消え掛かっていることを暗示しているように見えた。

 光線を吐き出す魔導兵器もほとんどが沈黙し、最後の一基が吐き出している光弾は舞い散る火の粉の如く地面に落ちている。その光が最後の希望のように見えた。

 ーーしかしその光すら消えた。 


「お父様ぁ!?」

「な……」

「今頃はサバニキス様がーー」


 バフリーが指し示した先で、まばゆいばかりの閃光がドゴオオオオオォォォッッッ!!という爆発音と共に勇者達の目をいた。


「ーー向かわなければ」


 つぅ、とガイウス卿の顎に一筋の汗がつたった。


「行かせると思って?」


 ブワっとバフリーから紫色の鱗粉が舞った。その鱗粉を纏い、玉座へ登る階段を空を舞いながらフワリと優雅に跳び降り、勇者達の前へとバフリーは立ち塞がった。

  

「押し通るわ!!」


 そこへエリューナ姫の強力な火炎弾が打ち込まれる。

 しかし、バフリーの展開した魔力障壁によって床を焦がすのみに終わった。

 火の粉をはらい、炎を薙いだバフリーが杖を地面に突き立てて言う。


「そうそう、言い忘れておりました。私の名前はバフリー!! 魔蟲皇サバニキス様の右腕にして将来のきさき!! あなた達は私とサバニキス様の結婚式に使うブーケを飾る、一片(ひとひら)の華にして差し上げましょう!!」


 言い終わるなり、ドウ!とバフリーから魔力放出がなされ、それ自体が攻撃であるかのようにビリビリと空気を震わせた。

 エリューナ姫は腕が良い魔術師であったため、その魔力がいかに強大かを知ってしまい、目を大きく見開き顔を引きらせた。

 勇者の聖剣を握る手に力が込められる。


「魔蟲王ぅぅぅ!! クッッッソがぁぁぁーーーーーッッッ!!」


 勇者の怒声は光線の如く壁の穴を吹き抜け、城下にて倒れ伏した蟲兵の山をビリビリと震わせた。


◇ ◇ ◇


 自分で作成した壁の上に立っているフラギルは、光弾を撒き散らして攻撃する方法に一定以上の成果があったと判断し、射出しゃしゅつする腕の回転速度をさらに引き上げ、蟲兵達を大量に殺戮していた。

 しかしこのまま光弾を撃っているだけで制圧し、蟲兵達を全滅させることができるーーということはなかった。

 フラギルの頭上でキラリ、と何かが光った。


「上か。ーーッ!?」


 フラギルは上から来た攻撃を察知し、自身の回転する腕にぶつけて衝撃の受け流しを図ったが、それを突き抜けた攻撃がフラギルの右肩を円状に貫いた。

 そしてフラギルの背後に土煙を盛大にあげて何かが壁の上に着地した。


「ふむ、お前が人間どもの最終兵器……の割には俺たちの見た目に似ているな!」


 ボバッ、と土煙を突き抜けて、攻撃の主が再度突撃してくる。

 その刺々しい姿形は鉄之処女アイアンメイデンを表裏ひっくり返したような、全身凶器の戦闘機のよう。そこから否応なしに想起そうきされる、古の大英雄・ヘラクレスの名を冠した甲虫かぶとむしの猛々(たけだけ)しき風貌。この者こそがまさに、魔蟲皇サバニキス。

 ガギィッとフラギルとサバニキスの拳が空気を切り裂きぶつかり合う。


シャァ!!」

ァ!!」


 威力は両者拮抗しているかに見えたが、フラギルの拳がピキピキと音をたててひび割れ、バキャァァァンと打ち合わせた右腕が甲高い悲鳴をあげて砕かれてしまった。  


「ほう? これは……!!」

 

 フラギルは砕かれた右腕を隠すように半身になり、無事な左腕に力を込め拳を振り抜き、体勢の崩れたサバニキスの顔面に三本の爪を突き立てようとする。

 しかし、その攻撃はサバニキスの左側面に生えている二本腕にがっちりと握りこまれ、腕の半ば程からし折られてしまった。


「ーー!?」


 しかも、サバニキスの右腕の先ほどの攻撃では使われなかった一本が変態的な軌道でフラギルの胸部装甲に迫り、浅く切り裂いた。


「<威砲アーブラス>」 


  フラギルは仰け反った姿勢で威砲アーブラスを口から横薙ぎに放ち、サバニキスを強制的に飛び退かせた。

 光の暴威がここら一帯の音を消しとばし、瓦礫を散弾のように飛び散らす。

 はねをなびかせてト、と着地したサバニキスが、両腕を砕かれうつむいたフラギルに向かって言った。


「いったいお前は何者だ?」


 それに対しフラギルは上体を起こし、サバニキスの複眼を見据えて言った。


「貴様の頭部の意匠、実に素晴らしい」


 一瞬、両者の周りで戦闘の喧騒けんそうが無くなった。


「……は?」


 サバニキスの思考が止まり、口が僅かに縦に開かれる。

 そんなサバニキスの放心をよそに、フラギルの口が横に開かれる。


「そう、その中でも特にその口部。前顎の部分など素晴らしい」


 <慈兆磨練ヘイヴェル>でも使ったのだろうか。フラギルの損傷した腕がみるみるうちに生えてきた。


「そのカタチ……模倣させてもらうとしよう!! <慈兆磨練ヘイヴェル>」


 そう言うなりフラギルは自分の顔を掴み、改造の句を唱えた。

 光に包まれたフラギルの横開きの口はガシャンと目の下程までスライドし、その空いた空間を埋めるようにサバニキスと似たような、しかし天へと向かって屹立するつのは取り除いた、わしの嘴のように鋭い口が形成された。

 サバニキスの口が驚愕によって、さらに開かれる。

 改造が終わり光の消えたフラギルが、新たに作った口を試すかのようにしばらく開閉し、満足したかのように言った。


「先ほどの質問に答えよう。我が名はフラギル。それ以上でも以下でもない」


 時が止まったかのようになった戦場に、喧騒が戻って来た。


「して貴様の名は? そもそも我と話が通じるのだな。ここの者との会話は難しい、時期尚早だと諦めていたのだがな。なぜだ?」


 サバニキスがハッと我をとりもどす。そして霧散してしまっていた、周りを威殺すような覇気を取り戻してフラギルの質問に答えた。


「あぁ、俺の名はサバニキス、<魔蟲皇>サバニキスだ。俺は全ての世界の者と会話することのできる権能を持っているのだ」


 ピクリ、とフラギルの目の中の光が揺れた。

 その反応を見て、サバニキスはさらに饒舌じょうぜつになっていった。


「この権能は我らの信奉する闇神様から与えられたものだ。どうだ? 俺たちのほうに来ないか?」


 バッ、とサバニキスの四本の腕が広げられる。それはもう、まるでこちらに来るフラギルを受け止め、抱きしめるかのように。


「種族が違っても大丈夫だ! なんせ闇神様は寛大だ。そもももお前ならその姿でーーゲェ!?」

「<威砲アーブラス>」 


 そんなサバニキスに極太の光線が地面を砕いて撃ち込まれた。

 ガキィン、と硬質な音を立ててフラギルの口が開かれる。


「その誘いに我が乗ると思うのならば、一生そこでほざいていろ」

「……そうか」


 光が収束し、二発目が射出される。

 それを契機に、戦闘音を置き去りにする拳撃の応酬が始まった。

 乱打の嵐の中、サバニキスとフラギルの声が響く。


「なぜ、なぜ、なぜお前は闇神様の救済を拒む!」


 サバニキスの剛爪が、削った銀色の装甲片をピッと弾く。


「ーー人間を殺すことが救済と?」

「そうだ! 人間はどこまでも愚かな種族。我らを排斥し、あまつさえ殺そうとした!」

「……」

「だからこそ! 闇神様はこれを憂い俺たちに力を与え、人間を殺し、生まれ変わらせ、その縛鎖から解放しろ(・・・・・・・・・・)とおっしゃられた!!」

「ふむ?」

ゆえにこれは救済だ!! お前はなぜこの慈悲の執行を止めんとするか!!」


 サバニキスはフラギルの右腕を掴み、ギリギリと火花を散らしながらフラギルの顔を覗き込む。

 右腕越しに目が合った。


「ーー我を不快にさせたからだ」

「ーーは?」


 思わず腕を握りつぶし、ほうけてしまったサバニキスにフラギルの強烈な蹴りがお見舞いされる。

 

「貴様らが攻めて殺しに来る。それで人間の感情が絶望に染まるーーこれがすこぶる不味かったゆえ、な」


 フラギルは、吹っ飛んで膝をついたサバニキスを見下ろして言を重ねた。

 だが次の瞬間、視界に捉えていたサバニキスの姿が消え、フラギルは四肢を引きちぎらんばかりの破壊の嵐の中にいた。


「ふぅぅぅざァァァけぇぇぇルぅぅぅーー」


 四方八方から破滅の拳が雨あられとフラギルへ向かってくる。


「なぁァァァァァァーーー!!」

「ぐぅッ」


 フラギルは咄嗟にガードを固めたが、鉛筆削りにれたボールペンのようにゴリゴリと地面を震わせ、体がちびていく。

 サバニキスは自分が怒りにのまれるのを自覚していた。

 自分が生み出した蟲兵を殲滅され、計画の邪魔をされた。そして何よりもそれを成した理由がサバニキスから見ればほんの小さな、ちっぽけな我欲。その程度のものに救済の手が振り払われたのだ。

 サバニキスの怒りに呼応するように拳撃の速度が高まっていく。 


「ハハハハハ! そりゃあ顔面を改造したくらいで、別に強くなったわけでも、硬くなったわけでもないからな! フハハハハハハ!!」


 そしてついに。


「ハハァーーーッ!」

「ガァ!?」


 フラギルの薄くなった腕ごと、その腹に輝く宝玉をサバニキスの拳が背中までぶち抜いた。

 弾け飛んだ銀片が舞い散る。

 フラギルは回復を捨て、サバニキスへ向けて<威砲アーブラス>を接射しようと口を開いた。


「させるかァ!」


 だがその発射口を握りつぶされてしまった。

 出口を潰され逆流したエネルギーがフラギルの頭の中でゴォと渦巻く。


「がァァァ!?」


 一瞬で広がった光焔球に、ビリビリと大気を震わす衝撃波。

 サバニキスはその爆発から瞬時に逃れたが、発生元のフラギルは違う。その爆発をモロにくらってしまったのだ。

 フラギルの視界がグラリ、と揺れた。


「……?」


 

 ーー首がもげた(・・・・・)。衝撃に耐えきれなかったのだろう。 

 首が地面に向かって落ちていく。フラギルにはその時間が何倍にも引き延ばされたかのように感じていた。

 落ちていく視界には頭が元々ついていた首、えぐられて損傷した肩、無数の深い引っ掻き傷のついた胸、と自身の戦いの結果が映った。

 そしてぶち抜かれて空洞になってしまった腹。その穴からは昨日までは整然と立ち並んでいた街並みが燃え、黒煙を噴き上げている様子が見えた。


(我は装着者の、皆の笑顔を守れたのであろうか)

 ーー否。


 最近までは、心の底から笑っている人しかいなかった。

 しかし今そこにただようのは戦っている兵士たちの絶望、戦況を見聞きした避難した者の絶望、指揮をとる者の諦めにも似た絶望。様々な暗い感情が形容のできぬ不味さをはらみ、フラギルへと流れ込んでくる。

 男も、女も、老人や子供。夫婦、独り身、恋人同士、兄弟姉妹問わず皆殺しにされる。

 そんなふうに倒れに倒れ、人が死滅した後の世界は。


(あぁ・・・きっと)


 人が死に絶えた世界はきっと。


(空虚なのだろうな)


 フラギルの目がチカチカとまたたいた。

 

「否否否ァーーーッ!!」

  

 バキィ、と音を響かせ、以前迷宮でゴーレム騎士を倒した蝿頭形態に自身を変形し、その四本の脚でフラギルは自身の体を駆け上がった。


「守れ!」

「とどめだフラギル!! 心配するな、お前の身体は持って帰ってやるよォ!!」


 サバニキスが地面に踏み砕きながら拳を構え、突進してくる。

 されどフラギルにその姿は見えず、見えるのはただおのれの輝きのみ。

 己の四つ脚でガッチリと体を掴み、今度こそもげるものかと言わんばかりにフラギルは声を張り上げる。


「<属性変甲メライン>!!」

 

 フラギルの目の前に、先ほどサバニキスに破壊された宝玉が光り輝きながら生成される。


「無駄なことを!!」


 サバニキスは先ほどと同じように、今度は宝玉ごとフラギルの頭をつらぬこうと拳をふるった。サバニキスの脳裏には、自分の拳がフラギルの顔面を真ん中からくり抜いている光景がうかんでいた。

 しかし、実際は宝玉に弾かれ、サバニキスは丸めたちり紙のように吹き飛ばされてしまう。


「なぁ!?」


 フラギルの周りでは体を包み込むように骨組みのようなものが唸りをあげて生成され、プラモデルよろしくその先端には装甲が形作られていく。


「近づけないなら遠距離はどうだ!! <空割>」


 土塊ごと吹き飛ばさんとサバニキスが腕を振るい、数多もの兵士をほふった空刃を放つ。しかし、ある種の要塞と化した骨組みの前に微風そよかぜのごとく散らされ無為に終わった。

 そして全ての装甲がフラギルに装着され、骨組みがバラバラと崩れ去り土けむりがもうもうと舞う。

 その中で光る二つの眼光を見据え、サバニキスは言った。


「改めて聞こう。お(まえ)は一体何者、いや、なんなんだ?」

「我が名はフラギルーー」


 土煙がはれ、その全容が見えてくる。

 銀色の身体におおい被さる赤銅の鎧。その姿は騎士のごとく雄々しく、守り通す者の体現であった。

 土煙を薙ぎ払ったフラギルは背中についた鎖を揺らしながら、自身の顎をした盾をドコォォォンと地面に突き立てた。


「我は悪を為さんとする暴威から皆を守る盾であり、その赤銅の鏡鎧は襲撃の輩である貴様らの絶望を映し出す。我が背には雀踊有りて一切の悲哀なし。故に我こそ喜びの護衛騎士ガーディアンーー」


 絶望の夜明けを告げるがその背に昇り、ガキョォォォンと響く音と共に宝玉が挟み込まれ完成に至る。 


「ーーフラギル・土装形態グランドフォームなり」


 朝日に照らされきらめくその姿はまさに、人類の希望であった。


最後まで読んでくださり、ありがとうございます。

 「はぁ・・・はぁ・・・もっと啓蒙を高めたい!!」・「力になるため、この身を捧げたい!!んほぉぉぉンン!!」と思われた方がいらっしゃいましたら、ぜひぜひ高評価(下の星をポチッと)、ブックマーク、いいね等よろしくお願いします。

 また、「啓蒙が足りん!!ここはこうした方が、もっと主の御心が伝わる!!」・「誤字るとはナニゴト!?」という箇所がございましたら、ぜひ報告をお願いします。

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