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第21話 全ての人の願いに駆られて

「せえぇぇぇい!!」

「「「ギシャァーーー!?」」」


 勇者がドームの中から極太の斬撃を飛ばし、地面に湧いていた蟲兵達を粉砕している。


「皆さん、行ってきます!」

「おう、行ってこい!」

「キャー! 勇者様ガンバッテー!!」


 巻き上がる土煙を背に、勇者一行は飛行して敵の城へと乗り込んでいった。

 城塚合蟲ウルハトスの上で何度も爆発音と共に爆炎が上がる。

 

「「「「「ウオォぉぉぉ!!」」」」」


 それを見た冒険者達から歓声があがった。


「やっぱり、最初から勇者様に任せておけばよかったんだ」

「そうだな、見ろよあそこ」

「へ! やっぱり蟲どもはあの壁を突破できてねぇな」


 勇者が出陣した後、蟲兵達は勇者から逃げるようにガリガリと光の壁を引っ掻いていた。そして、その光の壁に焼かれて金色に燃えていた。

 再度大きな爆発が城塚合蟲ウルハトスの上でおこり、冒険者達からも大歓声があげられる。

  

ーーズズぅーン 


 炎に包まれた城塚合蟲ウルハトスが地響きを上げて傾いた。


「「「「「勇者様バンザーイ!!」」」」」


 本城や兵士達両方が殲滅され、まさに形勢逆転。誰もがそう思っていた。


「グオォォォーーー!!」


 ビリビリと暴風のような雄叫びを城塚合蟲ウルハトスがあげ、いきなり城壁に突進してきたのだ。

 もちろん、轟音を響かせながら<聖大神堂ホーリー・カテドラル>にぶち当たる。

 悲鳴こそ上がりはしたがこの世界の人類の誰もが、城塚合蟲ウルハトスの金焔に包まれる姿を幻視した。


ーーガシャァァァン


 しかし現実は無情である。<聖大神堂ホーリー・カテドラル>は確かに城塚合蟲ウルハトスの顔面を焼いたが、手から滑り落ちた金魚鉢のように儚い音を立てて城塚合蟲ウルハトスの激突した部分が砕かれた。

 キラキラと魔力の残光が夜空に散り、城塚合蟲ウルハトスの複眼が人類を睥睨する。

 しかし人々はその光景に絶望する暇すら与えられなかった。


「オオオォーーーン」


 城塚合蟲ウルハトスの雄叫び一つで、その量を今までどこに隠していたのか疑うレベルの蟲兵達がゾワゾワと湧き出てきたのだ。


「お、おい・・・あれは!!」

「おい、嘘だろォ!? 今まで温存してやがったのか!」


 しかも蜂の巣を一万個は突いたかのようなレベルで、飛行する蟲兵達も城塚合蟲ウルハトスから飛び出していた。

 人類はサバニキスに嵌められていたのだと気付いた。


「う、撃てェーーーッ」

「“竜の牙”全員! ブレスを放てェ!!」


 城壁に設置された兵器から青白い稲妻が放たれ、空に舞い上がった飛竜の口から発射された数本の火閃が蟲兵達を焦がす。

 しかし、そんなものは大河に放った墨汁一滴のようなもの。ポタリ、ポタリと何体か脱落したが蟲兵達は気にした様子もなく、大きなうねりとなって天地を埋め尽くし人類へと殺到した。


「なんとしてでも守り抜けェ!!」

「「「「「応ッ」」」」」


 人間側も懸命に応戦するが、やはり勇者がいなくなった穴は大きく、瞬く間に押し込まれる。

 そんな状況の中、モーリスパーティーも懸命に戦っている。


「はぁっ!!」

「ギャァーー!」


 オルベスが大剣を振るたびに蟲兵が二、三匹は真っ二つになっていた。

 モーリスは仲間のことが心配なのか、何度も大丈夫かと叫んでいる。

 

「おいオルベス! 大丈夫か!」

「大丈夫だ! 問題ない!」

「オルベス、虫は嫌いなんじゃなかったっけ・・・」

「今はそんなこと言っていられないだろジェーン!?」 

「でも、前の迎撃戦は虫が見たくないからって・・・」

「私、一応参加しただろ!?」

「でもオルベス、戦わなくてホッとしていた」

「・・・」


 ジェーンの言葉には答えず、オルベスはただ黙々と蟲兵を切り刻んでいた。

 しかし、人類が蟲兵の進撃を抑え込むという状況が長く続くことはなかった。


「上から来ます!」

「「「!!」」」


 魔法は使わず、支援と回復に専念していたナカルトの叫びと共に、Aランクパーティー“竜の牙”が乗っていた飛竜が飛行部隊の蟲兵にビッシリと取りつかれて落ちてくる。


「くっ・・・」

「「・・・」」


 瞬く間に骨と化した竜の亡骸を尻目に空を見上げると、制空権をとった蟲達がこちらを見下ろしているのが分かった。

 蟲達の苛烈な攻撃が容赦なく地面に降り注ぎ、それと同時に蟲達が急降下してくる。


「ぐぁっ!?」

「ナカルト!」

「くそぉ! 離れろォォォ!!」


 蟲兵に噛み付かれたナカルト。モーリスが即座に弾き飛ばしたからか、幸いにも腕がちぎれるという事はなかったが、青く腫れ上がりピクリとも動かせなくなり、足も変な方向へと折れまがっていた。

 同様に、周りの冒険者たちも空から急降下してきた蟲兵に組み伏せられ、こちらは喉をかき切られるなどされて絶命してしまう者が多くいた。

 オルベスにも一匹の虫が襲いかかってくる。


「!?」


 いつものオルベスならば問題なく対処していただろう。しかし、蟲達がオルベスのトラウマを刺激したのだろうか。

 反応が遅れた。


「危ない、オルベス!」

「ッ!?」


 ジェーンがオルベスを突き飛ばす。

 パッ、とオルベスの頬にジェーンの血が飛び散った。

 



「離れろ! <中位挑発ミドル・ハウル>!」


 モーリスがそう、叫んだ。

 挑発に反応した蟲達の視線がモーリスの方へ向く。


「「「ギシャァーーー!」」」

「あがっ、あガガガがぁ!?」


 モーリスの愛用していた盾が瞬く間に穴だらけとなり、身につけた鎧に伝わる衝撃がモーリスを激しく揺らした。


「ぐぅっ!」


 モーリスはマズイと思い、自身で発動した挑発を切り、挑発をかけた盾を城壁の方へ力一杯投げ、多くの蟲兵にその盾を追わせた。だがそれが限界で、そのまま地面に倒れ伏してしまった。

 ドクドクとモーリスの鎧に空いた穴から血が流れ出てくる。


「ああっ、あぁ、あぁ・・・。やめろ、やめろ、私からこれ以上・・・」


 オルベスの胸にさげられたペンダントが、紅光に輝く。


「止めろオォァァァァっァァァァァァァァあぁぁぁ!!」


 その光に吸い寄せられるかのように、盾を追わなかった蟲兵達が殺到した。

 赤い光が爆発し、蟲兵達も爆散する。

 発光源のペンダントの中でフラギルは、不快感に身を捩らせていた。


『不味い』


 しかし、不快感を感じてはいてもフラギルはオルベスを助けようとはしなかった。


『我の正体を表して良いものか・・・。そもそも今の我は装備品・・・』


 もちろん装備品として、オルベスに身体強化などのブーストをきっちりかけてはいるが。


『主がそうお決めになったのならば、それで良いのです』

「ぐぁっ・・・」


 外ではオルベスが蟲兵に吹き飛ばされ、地面に転がるのが見えた。

 オルベスはヨロヨロと立ち上がるが、前方に蟲兵が砂糖に群がる蟻のように立っているのがオルベスには見えた。

 オルベスの背には倒れ伏した仲間がいる。


「ーー来るな」


 無意識にオルベスの口から言葉が漏れた。


「来るなっ、来るなァ! うわァァァァァァ!?」


 へヒュン、ヒュンと大剣が無様に、軽く振るわれる。

 もちろんカキン、と情けない音を立てて蟲兵の体を引き裂くこともできなかった。


(私の国を滅ぼして、私の父上や母上を殺し、兄様や姉様まで・・・)


 フラギルにオルベスの、いや人々の絶望が流れ込んでくる。


(いやだ、死にたくない!)

(帰りを待っているお母さんが・・・)

(恋人が・・・)

(子が・・・)

『・・・』

『だ、大丈夫かの?』


 カラァンと大剣が地面に落ち、オルベスは力無くへたりこんでしまう。

 オルベスの金色に透き通る髪の間から、蟲兵が剣を構え、その鋭利な刃でオルベスを切りさこうとしているのが見えた。


(ーー死?)


 オルベスの目が閉じられ、心が闇一色に塗りつぶされた。


『・・・不味い』

(ブチィッッッッッ!!)


 世界のどこかで何かが切れる音がした。


ーーガキィィィン


 そして響く金属音。


「え」

「「「ギシャア?」」」


 オルベスが目を開けると、そこでは銀色の糸のようなものが蟲兵の剣を受け止めていた。

 フラギルが体をスライムのように変形させ、蟲兵の攻撃を受け止めたのだ。


『昨日の時点で装着者が不味くなっていることは感じていたが、まさか他の者もここまで不味くなるとはな』


 剣が銀糸によって細切れになり、パラパラと地面に落ちていく。


『流石に我慢の限界だ。原因の排除を行う』

 

 フラギルの体が虹色に輝く。

 そんなフラギルの姿を見た中の三人は会心の笑みを浮かべ、静かに拳を握りしめていた。


『汝、我に幸福を捧げよ』

この作品を読んでくださり、誠にありがとうございます。

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