第20話 恐れ見よ、天地震わす覇の調べ
グロ注意
人間を滅亡の寸前にまで追い込んでいる、魔蟲の軍勢が攻めてくる日。
このラトベリア王国が落とされてしまえば、人類の営みは終焉を迎える。
しかし最後に残された人間たちは希望を捨てず、反抗の意思を持ちながら決戦の今日を迎えた。
「虫けらどもをぶっ殺せェーーーッ!!」
「「「「「ウォォォォオ!!」」」」」
士気は最高。皆、覚悟を決めて開戦の時を待った。
ーーしかし
「・・・蟲ども、来ないっすね」
「そうだな」
昼になっても来ず、太陽が地平線に揺らめく時間になっても来なかった。
「今日は来ないのか・・・?」
兵士たちの空気が少し弛緩する。
ーーズズゥゥン
しかし、そんな空気を破壊する地響きが夕焼けに照らされてやってきた。
「虫・・・。巨大な虫・・・?」
勇者の卓越した視力で見えた光景にはサバニキスが生み出した、城を背負った巨大な虫が爆進してくるのが見えた。
「とりあえず、届くか?」
勇者はそう言って、飛ぶ斬撃を放つ。
その斬撃は空気を切り裂き、激烈な風圧を孕みながら虫を城ごと切り飛ばさんと迫る。
しかし巨大な虫は勇者の一撃を喰らいながらも、まったく意に介した様子も無く城壁に向かって進み、城門から少し離れた場所で口を開けて、ゲロゲロと口の中から蟲兵を吐き出した。
「ゲェっ」
「「「ぎゃあぁぁぁ!?」」」
この光景に勇者一同、顔を引き攣らせる。
「えぇい、怯むな! 殲滅せよ! 放てェーーー!!」
「<ファイアボール>!」
「<アイスバレット>!」
「くらえ、<サンダーボルト>!」
「おぉぉ! <パワーショット>!!」
「<レインアロー>!!」
叱咤により衝撃から回復した魔法部隊や、弓兵部隊が城壁に這い寄る蟲兵どもに遠距離攻撃を仕掛ける。
命中した蟲兵は悲鳴を上げながら地に伏したり、空へ吹き飛んでいった。
「広域殲滅魔導砲、発射ァ!!」
さらに、城壁に設置された龍の鉤爪のような形状をした大砲から、バチバチと爆雷が放たれ、大地と蟲兵を諸共に焼却していく。
蟲兵たちの剣が舞い、グレイブが舞い、首や腕や脚が宙を舞う。
そんな調子でバリバリとしばらく撃っていると、蟲兵の侵攻が途切れた。
「終わったのか・・・?」
兵士の一人がそう、ポツリとつぶやいた。
だがしかし、侵攻を諦めたなんてことはない。この程度で諦めるようならば、人類はこれほどまでに追い込まれていないのだ。
「城に攻め込むなら、城で攻め込めば多分落とせるだろう。突撃だ、城塚合蟲」
玉座に座る魔蟲皇の声が、巨大な虫の聴覚器官に届いた。
城塚合蟲の脚全てに力が込められ、地面がひび割れる。
「ギュオォォォ!!」
そして地響きと共に、城壁に向かって城が突撃していった。もちろん、それを阻止しようと人間側は色とりどりの攻撃を加えたが、何の障害にもならなかった。
城と城壁がぶつかり、この世界にいる全ての生物が一瞬、宙に浮いたような感覚を覚えた。
城壁は瓦礫を盛大に飛ばしながら砕かれ、土煙や人間だった肉塊が巻き上がる。
悲鳴と苦悶の声が、あちらこちらであげられた。
即座にガイウス卿が指示を出す。
「救護、回復を急げ! 来るぞ!!」
「「「ギシャァーーー!!」」」
見ると、城壁とちょうど同じ高さに蟲の城が存在しており、土煙では隠せぬほどの威圧感を放っていた。
ガシャン、とガイウス卿の周りの兵士が盾を構える。その目線の先から蟲兵が土煙を掻き分け、哄笑のような鳴き声を上げながら、混乱する兵士に向かって城壁の上を疾駆してくる。
「ヒィ! や、やめっ! オゴぁ」
「「「グキャァーーー!」」」
蟲兵は怯む兵士を手当たり次第に殺していく。しかも、他の者に見せつけるかのように笑いながら、倒した兵士をグチャグチャと喰らっていった。
「あっ」
弾き飛ばされ、城壁の下に落ちた者は、さらに不幸である。生きたまま・・・。
「がっ!? あ、アガガがああぁぁァーーーオっ!?」
それでも人間側にはあとがない。
この城が落とされれば愛する家族、恋人、友人全てが滅殺される。そんな不退転の覚悟が、かろうじて戦線の崩壊が防がれていた。
しかし、そんな人類の絶望は続く。
ウルハトスの突撃結果を見たサバニキスが、自身の座る玉座の肘掛けを指でトン、と叩いたのだ。
「ーーグウオォオーーーン」
一拍置いて、ウルハトスは体を震わせながら全身の噴出口からガスを噴射した。
辺り一帯に、緑色の煙が立ち込める。
「ゴハっ、毒・・・!?」
「しまっ、がはぁ!」
前線から離れた位置から蟲兵を攻撃していた魔導士の顔面を、その緑煙がなでる。すると魔導士は目や鼻、耳や口から血を流して倒れ伏した。兵士たちは体力があるおかげか、倒れこそはしなかったが動きが鈍くなり、そこを蟲兵に引きづり込まれ絶命する者もいた。
「うぅ・・・」
自分が倒れれば、次は愛する者達が魔蟲の手にかけられる。分かってはいるのだが、兵士たちの動きが見るからに精彩を欠けていく。
「<ハリケーンウォール>! <ボルケーノゾーン>! 皆様は<ウィンドブロー>を!」
「「「<ウィンドブロー>!!」」」
エリューナ姫が毒煙を払うために竜巻の壁を、蟲の侵攻を止めるために溶岩地帯を魔法で召喚した。そして、魔道士達はエリューナ姫が散らした毒煙を、戦っている兵士たちを通り越して蟲兵達の頭上へと吹き飛ばした。
その後ろで、兵士たちを治癒するために回復の光を飛ばしまくっていたメリッサが勇者に向って、短距離通話魔法を介して提案する。
「勇者様、ここは一度撤退して体勢を建て直しませんか?」
「・・・」
勇者は黙々と蟲兵を切っては捨てていた手を止め、辺りを見回す。
こんな絶望的な状況でも兵士たちは逃げ出さず、血に塗れながらも必死になって戦っているのが見えた。
「「「ウォおおおおお!」」」
しかし、それは相手も同じ。
「「「「「「ギヂャアーーー!!」」」」」
しかも、相手は恐れや疲れを知らないかのような勢いで、もはや何体もの蟲兵をゴミクズのように消し飛ばした魔砲塔すら破壊してしまっている。
「ーー撤退」
勇者は形勢が不利だと悟り、メリッサの提案に乗った。
「撤退だ! 殿は俺がやる! 皆、ポータルを使って一時撤退するんだ!」
「勇者様!?」
「ヒロキ様ァ!?」
「大丈夫、絶対に帰ってくる。ガイウス卿は超位挑発だけ撃って帰還してくれないか?」
「それはいいが・・・。別にこちらに残っても構わないが?」
「ーーそれは困る。死んでほしくはないんだ」
「ーーツッ、了解した。 聞けェ!! 総員、撤退! ポータルの位置は朝に確認した位置だ。いいな!」
「「「「応ッ!!」」」」
傷つきながらも兵士たちは整然と、ポータルを通って撤退していく。
そしてエリューナ姫とメリッサもポータルを通って撤退した。
「こっちだ! <超位挑発>!! ・・・私の仕事はここまでだ。だが、お前がちゃんと帰ってくるか見張らせてもらうぞ、良いな?」
「それくらいなら・・・でもなぜ」
挑発にのった蟲兵達が地響きを上げて勇者達二人めがけて殺到してくる。人間は獲物、餌である、ということを体現するかのような光景であった。
それでもガイウス卿は穏やかに微笑んだ。
「ふふ、大体他の隊長格も撤退しては、私しかポータルの開閉権限を持っている者がいないじゃないか」
「・・・あ〜」
勇者が頭をポリポリとかく。その手を下ろし剣を握りしめると、剣から白い光が溢れ出してきた。
「とりあえず、減らせるだけ減らす。<武勇の一撃>!!」
勇者が白い光を纏った聖剣を振り下ろす。その剣先から放出された光の大瀑布は、蟲兵たちをまるでちり紙のように消し飛ばしていった。
しかし、同時に城壁の残骸や家の瓦礫も吹っ飛ばしてしまっていた。
「帰るか」
勇者はその光景を一瞥し、短い時間手を合わせ、大爆発の余波を背中で受けながら避難用のポータルへと向かっていった。
「あぁ、しかしやはり威力の調節は苦手か?」
「じゃなきゃ、ガイウス卿は吹っ飛んでます」
「そうだよな」
その後王国・教会保護用である、秘法の<聖大神堂>が城町の中程まで張られ、黄金のドームが魔蟲の侵攻を防ぐこととなった。
その術式の発生元である城では作戦会議が開かれていた。
大臣各々が意見を言い合い、戦闘の結果を話し合っている。
「最初からあれが張れていればよかったのだがな」
「しかたないではないか。あれはこの国が難民を受け入れるよりも遥か前に設置した術。範囲が足りん」
「なんなのだ・・・あの巨大な城を背負った虫は」
「あれが魔蟲王の本気・・・」
以前、勇者が魔蟲王討伐へ向かった際にも蟲どもはここに攻めてきた。
しかし、今回破壊されてしまった外周部での戦闘だけで前回の戦闘には勝っていたのだ。
勝ってしまったがゆえの油断があったのだろうか。単に相手の戦闘力を見誤っていただけなのだろうか。
王はそう考えながら、大臣達の様子を見て言った。
「勇者様は周りの被害を気にして、そのお力を発揮できておられぬ様子。なれば以前と同じ策を用いて魔蟲皇を討伐しよう」
「城の防備は・・・あの壁がありましたな」
「城に備え付けられた兵器も、外周部より数段上・・・」
「ならば良いな?」
「「「意義なし」」」
そうして、勇者が城壁に埋まっているあの城蟲に向かって突撃し魔蟲皇を討つ、というシンプル極まりない策が可決された。
◇ ◇ ◇
『不味い』
世界のどこかで無機質な声が響いた。
◇ ◇ ◇
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