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第15話 祝勝会

 何重もの城壁に囲まれた街の中心に、そして他の場所より何段か盛り上がった場所にラトベリア王国の王城はある。

 今、その王城では、宴が開かれていた。

 広間の奥で、玉座に座る王が盃を掲げる。


「勇者様の魔蟲の長討伐を記念して・・・乾杯!!」

「「「「「乾杯!!」」」」」


 乾杯が終わると、さらにその会場が騒がしくなった。

 皆の顔には笑顔が浮かび、肌の色や人種を超えた一体感のようなものが、広間一体に広がる。


「いや〜勇者様のおかげで人類は救われた!」

「はっはっは!本当になぁ!!」

「我らが部族の無念・・・見事に晴らして下さった」

「俺たちより先に逝った者たちも、満足しているかな・・・」


 あちこちで勇者を褒め称える声が聞こえる。

 そんな声の中でも一際、目立つグループがあった。


「当然ですわ。だってヒロキ様は、私の将来の夫になるお方ですもの」


 エリューナ姫の声が、人だかりの中心から聞こえてきた。 

 それと同時に、周りの子女たちから、きゃあきゃあと黄色い声が上がる。


「しかし、姫様は他にもライバルがいらっしゃるのでは?」

「当然ですわ。でも私、負ける気がしませんの。おっと」

 

 あらやだ、心の声が抑えきれずに・・・と言ったふうに、エリューナ姫は扇子で口元を隠す。

 幸いと言ってもいいのだろうか。誰も、エリューナ姫の言葉に反応する者はいない。

 むしろ信奉するような、暖かい視線が周りの令嬢達から送られる。


「・・・思えばあの時、勇者召喚式の日から私たちは、結ばれる運命だったのですわ」


 周りから黄色い声が再び上がる。

 エリューナ姫の笑顔が、さらにまばゆくなっていく。


(運命・・・か)


 王は、盃に浮かんだ自分の顔を見て思った。


(エリューナが、あれほどまでに元気になるとはな)


 ふと、目線を上げると窓から見える星々が、ちかちかと瞬くのが見える。

 その星を見て、王は、勇者がこの世界に降り立った時のことを思い出した。


◇ ◇ ◇


 玉座の前で、何やら数人の魔法使いが儀式を行っている。

 それを心配そうに見守る、王と貴族達。

 ーー今日は勇者召喚の儀式の日。 

 この世界を掌握せんとする、魔蟲の長の進撃は止まることを知らず、世界の版図の九割以上を食い尽くした。

 最後に残ったラトベリア王国も、主義主張や思想の壁を越えて人類の力を結集させ、魔蟲軍に戦いを挑むも、ここのところは連敗続き。


「第一王子オノモス様、第二王子ケランタ様、並びにゴルーモー将軍がお討ち死になされました!!」

「「「なぁ!?」」」


 英雄や賢者と呼ばれた王子、将軍達が軍を率いたのにもかかわらず、先の戦争でまさか、王女一人を残して全員戦死するとは、誰も思いもしなかった。


「そんな、兄様達が!?」


 そして、その残された王女もあまりのショックで寝込んでしまった。

 召使いからは、そのまま兄達の後を追うのではないかと、心配されるほどに。


「我々はどうすれば・・・」

「終わった、か」

「まだだ! まだっ、何か・・・」


 大臣達は顔を突き合わせ、日夜議論を繰り広げるが、良い考えなど浮かぶはずもなく、何も打開策はない。

 この世界の人類全ての力を合わせても、敵うこと無き圧倒的な力は人々を、絶望の海に沈めた。

 そんな中、伝説に残る程の強大な力を持った人間をこの世界に召喚する、人智を超えた大魔法が突然、天から与えられた。

 絶望に打ちひしがれていた者は当然、その術式に飛びつく。そしてすぐさま、その術式を起動しようとした。

 しかし、


「儂はその外法を使うことには、反対じゃ」


 王がそれを拒否した。


「なぜですか! これを使えば、あの憎きクソ虫共を駆逐できるのです。それを、なぜ!?」


 周りの者たちから避難や疑念が、当然の如く噴出する。

 王は、渋面を作り、一字一句を吐き出すように言った。


「その世界の者は我々の窮状を、救う義理など無いのだ。そもそも、虫どもを蹴散らしたとて、その後、その者をどうするのだ? 元の世界には返すことができず、その力で次代の魔王になるやもしれん」

「そんな・・・」


 そうして、一度は勇者召喚の術式は封印された。

 ーーしかし今現在。


「儂も結局、我が身可愛さ・・・というわけか。儂は愚かな王なのじゃろうな」


 ほおは痩せこけ、目には隈の入った王が、粛々と進められている召喚の技を、虚ろな目で眺める。その姿はどこか、小さく萎んで見えた。


「英断でございますよ。陛下は我々臣下の被害を最小限にするために、召喚を行うことを即決してくださいました」

「儂はもし、勇者様が召喚されたら全力で頭を下げ、泣いて懇願するつもりじゃ。」

「・・・それは」


 後ろに控える、老いた執事の目が驚きで開かれる。  

 この世界に残った最後の王が、恥も外聞もなく勇者に頼み込むのだ。

 王として民を守るのか、一人の人間として異界から人を拉致してくるのか。そんな王の葛藤が執事には、痛いほど感じ取られた。


「エリューナは今日もいないのだな」

「はい・・・相当に衝撃を受けなさったのでしょう」

「無理もない。静養するように、改めて厳命せよ」

「承知いたしました」


 魔法陣から漏れ出てくる光が強くなり、魔術師が紡ぐ呪文の声が大きくなる。


「儂は・・・勇者を懐柔するためならば、なんでもやってやろうぞ!!」


 そう言って王は玉座を握りしめながら、覚悟を決めた目で光を睨みつけた。

 そして時が来る。


「〜〜満ちて汝、世界を救う光とならん!!<勇者召喚サモン・ヒーロー>!!」

「「「<勇者召喚>!!」」」


 召喚陣から光が噴出し、中から一人の人影が現れる。

 王は、玉座から身を乗り出し、その人影の元まで走り寄り、跪いた。


「おぉ・・・勇者殿・・・我が国・・・いえ、人類最後の国である我がラトベリア王国を、魔王の手からどうか救ってくだされ!!」


 ・・・そこから先は、長いようで短かった。

 異界から召喚された勇者は、見知らぬ人々の願いを聞きいれ、文句を言うことなく立ち上がった。

 そして、あれよあれよと言う間に周りの害獣を討伐し、幹部を討ち取り、魔蟲の長をも駆逐した。  

 またその間には、エリューナ姫を部屋から引っ張り出し、無力感に囚われた騎士団を再建させ、絶望の最中にあった教会を救ってみせた。

 気づけば、勇者の背中には多くの人が慕い、ついて行くようになっていた。

 ある者は、異界に召喚され、不安を感じる勇者を支えようと盾を持ち、ある者は勇者を神の代行者と崇め、ある者は少しでも力になればと、勇者をあえて危険な場所に自分もろとも、連れて行った。

 勇者は自然と、この世界の人の、心の拠り所となっていた。


◇ ◇ ◇


(儂も老いた。勇者様に次代の王となって頂くのが良いやもしれぬ・・・)


 王の目から盃の中に、涙が落ち、酒を揺らす。 

 王の体を、安堵や幸福感のようなものが包んでいく。


(勇者様は本当に、伝説にて語り継ぐべきお方であった・・・) 


 この広間で開かれている祝勝会が、世に言う天国のように思われた。

 しかし、


「伝令ッ、伝令ーーーッ!! 魔王が復活しました!!」


 天国を踏み荒らす悪魔のような知らせが、一人の伝令兵によってもたらされた。


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