第12話 ゴーレム騎士、新たな扉を開く
『む・・・』
転移の光が徐々に消え、フラギルは周辺の状況を確認する。
『ーー知らない天井だな』
上を見ると灯火が見えたが、先ほどまでとは違い、石像の皿の上に青い炎が踊る、どこか高級そうな見た目の灯火である。
『あんなせせこましい場所に罠があるって、おかしくないか?』
『そうじゃのう。しかも、転移罠じゃ。幸い、周りに敵はいないようじゃな』
ショックから回復したペルギムとゼルが、転移罠に対して愚痴を言う。
実際、あのような床と壁のちょうど端にあった罠は、普通は作動させようとしてもできず、なぜあのような場所にあったのか理解できない。
『だがのう・・・あの罠の目的は、この門の前に強制的に連れて来させるためのモノじゃったようじゃな』
ゼルがが指し示した方向には、青白い炎が通路の両端に整然と並び、階段を登った奥には一際大きな篝火が見え、そしてそれを支える白柱が、青白く、火に照らされているのが見える。
そして、それらを従えるかのように睥睨する門が、ドス黒いオーラのようなものを放ち、鎮座していた。
その門の意匠は、いかにもと言ったふうに禍々しく、門が放つ瘴気のようなものは、見るものを怖気づかせる。
『やっべ〜な、コレ』
『主よ・・・?』
ペルギムとティナは、心配そうにフラギルの方を見る。
そもそも、この転移罠は一方通行。フラギルの鈍色のまんまるボディが転がっている魔法陣より、後ろはない。
この門へは一方通行、帰り道などない。準備をする時間は無限にあれど、補充は効かないため、前に進むしかないのだ。
『行くしかあるまい』
『そうじゃの』
ゴロリゴロリ、ゆっくりと門の前までフラギル一行は転がっていく。
ピトリ、とフラギルは門の出っ張った部分を、触手を生成して掴む。
『開けるぞ?』
そう言ってフラギルは、投げたヨーヨーが持ち主の手に返ってくるように、高速でその玉体を門へと射出した。
不吉さを全面に押し出した門へと、フラギルの体に近付いていく。
『二つに割れたゴマ!!』
『何だソレ』
『ボスに挑む前に唱えるおまじないじゃ。これを唱えると、無事に帰還できるどころか、大量の宝物を手に入れることができるらしいぞ』
『ちなみにゴマの色は?』
『黒じゃなかったかの。砂漠の呪文らしいからな』
『ホーン』
そして、着弾。
ーーゴォ〜〜〜ン!!
鐘を叩き潰すほどの大音量をもって、部品が所々舞い飛び、少しへこんだ門が勢いよく跳ね開かれる。
そしてフラギルは、ターザンのように触手を巧みに動かし、その丸い体をスタイリッシュに着地させた。
『何が出て来る!?』
『さあ来い、なのじゃ!!』
身構えるペルギムとゼル。
しかし、部屋は暗く、物音もしない。
『何もないの、ですか・・・?』
『・・・』
フラギルは警戒しながら、そのかぼちゃ程の大きさの体を前に転がす。
すると、
ーーボボボボボゥッッッ!!
部屋全体に紫の灯火がついた。フラギルが小さすぎたので、部屋に侵入した扱いにならなかっただけらしい。
そして炎に照らされ、部屋の主が明らかになる。
「ギイゴゴゴ」
中央で唸りを上げながら仁王立ちしている、黒騎士のゴーレム。黒騎士、と言っても禍々しさは感じられず、むしろ正統派の騎士鎧といった装いである。
右手には片手斧、左手にはタワーシールドを装備し、どちらも黒く輝いている。
『おぉ・・・』
感嘆の声がフラギルから漏れる。そして、
『コレでは、我の方が負けているみたいではないか』
自分のでかい饅頭のような体を見た。
不満で、発光部分が強く明滅する。
「グウゥオオォーーーーン!!」
『ゴーレム護衛兵、と言ったところか?』
『お宝を守り抜かんとする騎士、か』
雄叫びをあげ、ゴーレムが突撃してくる。
『<慈兆磨練>』
フラギルも、スライム戦の時のように体を糸状に分割させ、打ちつけようと放出する。
だがしかし、カキンカキンと引っかき傷すらつけられず弾かれる。
そして、ゴーレムは振りかぶった斧をフラギル目掛けて、振り下ろしてきた。
ーーゴカァン!!
その威力は、フラギルと共に下の床までも破砕し、瓦礫を撒き散らす。
しかし、斧に断ち割られたように見えたフラギルだが、体を変形させ、黒騎士ゴーレムにからみつく。
「ゴ!?」
『こいつを刺せば、倒せると思うか?』
『あまり効果はなさそうじゃがの。ヘイヴェルは試したのか?』
『鉱物系統であるから、先にやったが無駄であった』
『ほう? そうか、案外不便じゃの』
『我もそう思うが、錬金術だからな。さて、こいつをどうする?』
黒騎士ゴーレムの上で、有効打を探す会議が開かれる。
『ねじ切ればいいと思われます、主よ』
『なるほど』
そして、一瞬で出されたティナのえぐい倒し方の案が、フラギルの体内会議で即決された。
ギリギリと、鎧をフラギルが締め付ける。
「ゴゴンゴゴ、ンゴオォォ!!」
自身を束縛する縄を振り解こうと、もがく黒騎士ゴーレム。
斧と大楯があちらこちらに振るわれ、破壊された明かりが地面に落ちる。
『あぁっ、主よ!! 主よ!!』
しかし、フラギルの鈍色の戒めは、恍惚とした顔のティナの乱舞と共に、さらに包帯の如くガッチリと離されること無く極まっていく。
そして極みに近づくとともに、ゼルとペルギムの好感度は、ティナからドン引きという形で離れて行く。
『『・・・うげぇ』』
ただ、長年の付き合いで、耐性があったのが救いだろう。
「グゥ、オゴゴゴゴ」
ギリギリパギン、と嫌な音を鳴らし、黒銀に光る粉末をサラサラと落としながら、ゆっくり、黒騎士ゴーレムの腕が後ろにーー人間ではありえない方向へーーと曲がっていく。
手指も同様に、フラギルが黒騎士ゴーレムの戦闘力を落とす目的で、曲げていく。
ガシャアアアン、と迷宮の床に、手斧と右手が落ちた。
タワーシールドは、逆に一緒になって左手にグルグルと固定されている。
『やったのか!?』
『やったのじゃ!!』
ペルギム、ゼルが拳を握りしめ、快哉を叫ぶ。
しかし、ティナの笑みが、凍りついた。
『アッ』
ティナの生きていた時代より、どんなに優勢でも逆転されてしまう禁句を二人が口に出して、しかも大声で言ったからだ。
「ガカアアア」
『我もやっ、ーー何?』
『『な!?』』
黒騎士ゴーレムの口から光が漏れ出す。
そして黒騎士ゴーレムが、戒めごと吹き飛ばす極太のビームを口から放った。
「コガァァァァァァ!!」
『タァーーーッ、ァアーーー!!』
フラギルが、糸の切れた凧のように、ビラビラと吹っ飛ぶ。そして、迷宮の石畳を粉砕し、線状の跡を残しながら、床に打ち落とされる。
その体は赤熱し、延びた体からは、薄らと煙が出ている。
『主よ!?』
『アチ、アチ! 火事だァー!!』
『ワシらは熱くないじゃろ』
『あ、ホントだ。って!フラギル、お前燃えてるが大丈夫なのか?』
中の三人はなんともないようである。
そして、フラギル本体はというとーー
『ーー熱に耐性のあるフライパンをかざしたのだ。問題ない』
見ると、前に宝箱から出てきたフライパンが、触手に絡まれながら顔前にかざされており、一緒になって赤熱化していた。
『そういう問題かのう・・・』
『主の御技を疑ってはいけません。それよりも、攻撃がきますよ?』
スライムのようにひしゃげたフラギルの横を、先ほどよりかは細い光線が通り過ぎる。しかし、威力は床を軽々と削り取るほど。
『の、のじゃアァ!?』
黒騎士ゴーレムは、狂ったように口からビームを放出している。その威力は、ドラゴンの息吹を想像させ、機関銃の如く辺り一体を灼熱の地獄へと塗りつぶしていく。
そのうちの一本の光線がまた、フラギルの近くの地面を吹き飛ばす。
『なかなか素晴らしい光景だ』
そう言ったフラギルの体がフライパンを掲げながら、元の球体へと戻っていく。
遠目に見た姿は、真っ赤なダンベル。
しかしそれだけ的が大きくなり、ゴーレムの吐く光線が当たりやすくなる。
現に、ゴーレムは見逃さず
『カガハァァァァ!!』
とビームを正確に乱射した。
しかしフラギルは、至極真面目にフライパンを振り回す。
『フンフンフンフンフン!!』
ーーカコココ、カカキキ、カキンカキン!!
光線の軌道が、フライパンによって軽い音をたてつつ、強引に変えられていく。
そして、折り曲げられた光線は爆発しながら、部屋の壁や床を無惨に抉っていった。
フラギルは真っ赤に燃えるフライパンと共に、光に満ちたファイヤーダンスを踊る。
そして、踊りながらも自身の体を改造する。
『<慈兆磨練(ヘイヴェル>』
カッ!!と光が部屋全体を照らした。
そして、その光が収まった時、フラギルの球形の体があった場所にはフライパンを縦にくわえた、四足歩行の小さな化け物がいた。
蝿のような頭が、鋭い四足に支えられていると言った見た目である。
しかし蝿の頭といえど、丸っこいフォルムではなく、後頭部から先端に向かって鷹の頭ような形状である。また、虹色に輝く特徴的な二つの複眼は、楕円ではなく尖っており、フライパンをくわえる顎は横に開かれ、その刺々しい歯は、凛々しさと荒々しさを醸し出している。
その異形の後ろで、ビームによって派手に爆発が引き起こされた。
『う、美しい・・・』
爆炎に照らされた神々しいフラギルの姿を見たティナは、手を組み合わせ、フラギルを拝み倒さんばかりだ。
『な、これは・・・』
『蝿がモチーフだ』
『なぜなのじゃ?』
『捕まえるのに、なかなか苦労したからな』
フラギルの頭にぶんぶんと飛び回る姿がフラッシュバックした。そしてついでに、ティナがギョッとする。
簡単に捕まえたように見えたが、実は蝿を捕まえるその瞬間まで、フラギルは触手を調整していたのである。
『命中しにくくなればと思ったのだ』
しかし、蝿のイメージが顔のところまでは良かったが、胴体が曖昧になってしまった。
結局、即席でできたのは、蝿の頭に4本の鋭利な足が生えた化け物である。
「ガァァァアアア!!」
黒騎士ゴーレムは、フラギルに対してビームを放つのを止める気配がない。
ビームの豪雨の中を、足が4本になり機動力が上がった気がするフラギルは、カサカサと縦横無尽に駆け抜ける。
およそ、蝿をモチーフにしたとは思えない地上速度は、追従する光弾の嵐を軽々と回避することを可能にしている。それと同時に、別の黒くてすばしっこい虫、Gを連想させることを強制する。
当たらなかった光線で崩壊した瓦礫が、ゴーレムの元に降り注ぎ、一瞬、ゴーレムの吐くビームに絶え間ができる。
その隙を逃すほど、フラギルは甘くない。
『ゼルよ。放出術式、使わせてもらうぞ!!』
『お、おう?』
そう言って、フラギルはフライパンを収納し、自身の体を4本の足でしっかりと床に固定して、支えた。
ガパリ、とフラギルの顎が横に開かれる。
『喰らうがいい。<威砲>』
ーーキイィ、ヤアアアァァァーーー!!
一瞬の溜めの後、絶叫のような音と共にフラギルの口からビームが放たれた。
人間の頭ほどの大きさのフラギルが放つビーム。自身の体よりも太い光線を放ったのは、さすがと言えるだろう。しかし、ゴーレムの放つビームより細く、さほど威力は高くないと思われた。
『主よ!?』
ティナが目を剥く。
しかし予想に反して、そのビームは空気を押し除け、黒騎士ゴーレムの装甲をやすやすと融解、少しその体を浮かせながら貫通し、迷宮の壁に突き刺さった。
ズドォッとゴーレムが地に落ち、床にヒビを作る。
そしてその上にガラガラと瓦礫が降ってくる。
フラギルの勇姿を見届けたティナ。
『んーーー↑ーーー!!』
両手をだらりと下ろし、奇声を上げながら昇天しかけた。
戦闘シーンでございます。
メタルとマテリアルがくんずほぐれつ・・・。アレ?もしかして新しい性癖を開拓した?
バカめ、それは合金だ!!(?????????)
・・・などと、書いている最中に考えておりました。
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