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第11話 もっちもち大戦

 魔道具談義をしながらも、しっかりと道中に点在する宝箱を開けていくフラギル一行。 

 宝箱を開けるたびに、


『これは?』

『回復ポーションじゃのぅ。飲んで美味ければ上物じゃ』


『これは?』

『スタミナポーションじゃねーか! 懐かしいな』


『これは?』

『パンですね。私たちは昔、それ無しでは生きていけませんでした』

『大事なものなのだな』

『ええ。まぁ、あなた様にとっては不要なものかもしれませんが』


 フラギルの中にいる三人が、懐かしむ物品が色々と出てきた。

 しかしながら、宝探しの道中全く警戒していないので落とし穴や矢の罠、槍天井などの罠にかかりまくる。


カンカンカンカン、キキキキキン!ゴン!!


 ・・・その悉くが、全く効いているようには見えず、罠の残骸がフラギルの周りに散らばるだけであったが。

 何せフラギルには耐久力があるのだ。


『おっ、今度はマナポーションか』


 フラギルは、そのマナポーションを瓶ごと丸い体の中に飲み込んだ。

 結局、宝探しの成果は回復ポーション6本、マナポーション2本、スタミナポーション3本、調理するときに火のいらないフライパン、パン3つ。そしてーー


『なんだこれは』

 

 最後に開けた宝箱の中身から、フラギルがつるりと鈍色に光る表面に吸い付くようにして持ち上げた、金色のポーションであった。


『何だこりゃ』

『魔法薬の類いでしょうか?』

 

 ペルギムとティナがまじまじと、フラギルの持った瓶を見つめる。


『それ、エナジーポーションではないか?』

 フラギルが見つけた中で唯一、魔道具らしいフライパンをいじっていたゼルが二人の後ろから背伸びをして、金色のポーションを覗き込む。

 フラギルに吸収された物品は全て解析され、中の人が触って効果を実感できる程にまでなっているのだ。


『エナジーポーションだと!? 万能回復薬とも呼ばれるアレか? 俺はそんなもん使ったこと無いぞ』

『アレじゃのう』

『魔力、気力、体力その他諸々が色々回復する!?』

『アレじゃ』

『かなり希少なものだろう?』

『そうかもの』

『凄いな!!』


 エナジーポーションの効果を小耳に挟んでいたペルギムが、実物を見て興奮する。


 そんな様子のペルギムの横で、フラギルが一人、

『??????』

と首を捻っていた。

 

 魔力や気力、体力などはフラギルに理解ができるのだ。魔力と気力は錬金術でも使うし、体力が尽きれば最悪、そのまま死んでしまうからだ。

 ちなみにフラギルに吸収された者の記憶によると、一般的に魔力は魔法、気力は武技を使用するのに使うらしい。先ほどのパーティーが行なっていた戦闘でも確認済みだ。

 

『なぜ、ポーション系統を全て混ぜないのだ・・・?』


 錬金術師の記憶を持つ者としては、効能が瓶ごとに分かれているのが気になったらしい。


『フラギル様、フラギル様。ポーションは基本、混ぜると効果を打ち消しあうのですよ』


 ティナがフラギルの疑問に答える。そして、


『私も神聖なる技を使用した後には、その力を回復するために専用のポーションを飲んだものです。あのエナジーポーションは、それすらも回復するのでしょう。』


エナジーポーションの効果とその凄まじさを改めて説明する。



『次の宝箱を探しに行こうぜ!! こんな貴重なアイテムがあるんだ。他にもあるだろうな!!』


 目の形がエナジーポーションになったペルギムが、ティナの話が終わったのを見計って、フラギルを急かす。


『そうじゃの』


 ゼルも、ペルギムの言葉に追随する。冷静な様子を装ってはいるが、その目はの形はやはり、エナジーポーションになっている。


 ティナは相変わらず、ニコニコと微笑を浮かべている。


『では行くか』

 フラギルは、約2名の欲望を乗せてコロコロと、開いた宝箱の前から出発した。

 



 しばらく転がっていると、行き止まりの場所に宝箱を一個見つける。その右横に細い通路も見えた。


 パカリ、と宝箱の蓋を開ける。

『ふむ』


『さぁ、なんだ!?ーーポーションか』

 ペルギムが肩を落とす。良いことはそう何度も続かないものだ。

 

 宝箱の中身を回収し、フラギルは帰ろうとすると何やらズルズルと引きずるような、湿った音が横の通路から聞こえてきた。


 そして、スルスルとフラギルの前に、お互いの体が触れ合いそうな距離まで近づいてきた。

 

 見た目は淡水色の水饅頭。その不定形の体は1秒ごとに、ふるんふるんと波打っており、少し突けば崩れそうなほどだ。

 そうーー


『スライムじゃな』


 迷宮の代名詞だ。


 スライムが自身の体から、触手のような物を生成し、フラギルに触れようとしてくる。


『お、なんだ? <慈兆磨練ヘイヴェル>』


 それに応じ、フラギルは自分も触手を作り、そのスライムの触手に絡ませた。


 淡水色と鈍色の線が、螺旋を形成する。


 手触りはスベスベとした絹のよう。そして、柔らかそうな見た目に反し、グニィっとしたハードグミのような弾力感がある。


『おぉー』


『お主、結局そのヘイヴェルとか言うのは錬金術なのかの? ワシの魔法が使えんで、なぜお主に錬金術が扱えるのじゃ? そもそも、それは錬金術なのか?』


 ギュッギュとスライムの触感に感じるフラギルに、ゼルが質問をした。


『<慈兆磨練ヘイヴェル>に関しては、錬金術といっても良いのだろうな。何せ、錬金術師たちが残した知識の集合のようなものだからな。』


 フラギルはそれに対し、触手をフ〜リフリと振って答えた。


『魔法に関しては、知らぬとしか言いようがないな』

 

 魔法は、自然の中にある魔力などを取り込んで使いはするが、基本的に自身の中にある魔力を練って放出する。そのため、体内の魔力を放出せず、循環させて戦う剣士や闘士などでも一応、放出系の武技を応用して<灯火トーチ>などの初歩的な魔法は使えるのだ。


『なるほど、お主は属性に愛されておらぬのか?』


 ただし、初歩的な魔術が使えるからと言って、それだけでは魔術師にはなれない。

 魔術師になるためには、高い属性への適性が必要なのだ。剣士などが下手に属性を扱おうとした時、例を挙げると火属性では、体内で循環し、制御できずに大爆発、体はビスケットの屑もビックリの無惨な姿と成り果てる。

 そうした危険な属性を極めたものは賢者、大賢者などと呼ばれる。 


『知らぬ。 貴様がそう言うのならば、そうなのでは?』

『俺が思うに、フラギルは格闘家や剣士の類いだと思うぜ? 現に、魔力のようなもので体を変形させて、さらにその力で動いているんだからな。』

『あ〜・・・そっちの方じゃったのか。しかし、<灯火トーチ>すら使えんのは・・・』

『主は、人間とは根本的に構造が違うのです。魔法が使えなくとも、フラギル様の威光に翳りなどありません』


 初歩的な魔術すら使用不可能なフラギルの状態に、頭を悩ますゼル。それをバッサリとティナが切り捨てた。

 そもそもティナはフラギルを神と崇め奉っているので、魔法とはまた違った神聖な技をフラギルは使用すると考えているのだ。



『大体、今、主は弱体化なさっているのですよ? 私をお助けになった記憶すらない状態ですからね?』

『そ、そうじゃな。すまぬ、フラギルよ』


 しょんぼりとゼルが俯く。

 そこへすかさず、フラギルからフォローが入った。


『ゼルよ。貴様が教えてくれた術式はなかなか役に立ったぞ?遠距離攻撃が欲しくなったら、即座に撃てるくらいには・・・な。また教えてはくれぬか』

 

 それを聞いたゼルが


『もちろんじゃ!!』


と、顔を上げ、元気になったのは言うまでもない。

 そして顔を上げたことにより、


『お主・・・いつまでそうやっておるつもりじゃ?』


スライムとフラギルの触手が絡み合ったままの状態に気づく。


『と言うかソレ、溶けておらんか?』

『なにィ?』


 フラギルが慌てて確認すると、確かにフラギルの方の触手がドロドロと、手のひらの上に乗ったアイスのように溶け落ちていた。


『スライムよ、離してもらおうか』


 そう言って触手をグッ、と引っ張ったが


ーーグニィ、ビローン


 スライムが絡みついて離れない。


『離してもらおう』


 スライムがフラギルを解放しようとしない。


『・・・』


 フラギルは無言で跳躍し、勢いをつけて振り払おうとする。


ーーバチィ〜ン、ビッタンビッタン


 二つの団子が空を舞い、地を駆けずり回る。


『おおおおお?』


 ゼルが、揺られた時のことを思い出し、顔色が悪くなっていく。

 そして、ようやくブチン、と音を立ててスライムの触手が切れた。しかし、


『おいおい、マジかよ。こいつ売ったら高くつくかもだな』


 スライムの体表にはハリネズミのようにわさわさと、触手が形作られていた。

 これには思わずといったペルギムが、呆れたように言う。


ーーヒュオン


 そして、触手がフラギルに向かって伸びてくる。


『む』


 フラギルはその触手をペィンと、自身の触手で受け流す。

 ぺたり、と地面に落ちた触手。そして再びフラギルに手を伸ばさんと、スライムの体へと帰還していく。

 見ると、スライムが、まるで千手観音のように触手を広げゆっくりと、フラギルに近づいてくるのが確認できた。


『ほう? やるのならば容赦せぬぞ。<慈兆磨練(ヘイヴェル>!!』


 スライムが臨戦体勢であることを感じ取ったフラギルは、すかさず体を変形させ、スライムと対峙する。


『これで、貴様と同じだ』


 フラギルの見た目は、やはり数多もの触手が生えた姿であるが、不動明王の光背のようにうねり、戦意の高さを示す。



ーーペチペチペチ・・・


 まずは、軽いジャブからだ。お互いに触手数本を打ち合い、相手を牽制し合い隙を伺う。 

 しばらくして、スライムが待ち切れなくなったのか、触手を寄り集めて殴ってきた。


ーーべチィン!!


 と触手の拳が真っ向からぶつかりあう音が、迷宮の通路に響いた。

 それを契機として戦闘の激しさが増していく。


ーーぺぺぺぺぺ、ペチペチペチーーー!!ビローン!!ビタァーン、ボギャア!!


 両者、触手を鞭のようにしならせ、芝刈り機も真っ青の回転速度で撃ち出していく。

 時に、相手の触手に自分の触手を絡ませ、ひっぱり、体制を崩そうとしたり、投げ飛ばした後に追撃を仕掛けたが躱されたり。

 フラギルなんかは、移動するのに転がることをやめ、高速移動を実現させるため何本もの触手を使い、カサカサと迷宮の床を走った。


ーーポグチャア!!


 そして、高速で蛇行しながら這い回るフラギルが放った鋭い触手の一撃は、スライムの触手で作った多重防御を練り捻りながら打ち破り、飛沫を振り撒きながら盛大に吹き飛ばす。

 べチャリ、と地にのびるスライム。


『はあぁ!!』


 フラギルは好機と見て体をバネのように伸縮させ、スライムに飛びかかり、触手を乱れ撃つ。


「!!!」


 スライムも即座に反応し、天に向かって触手を乱射する。 

 両者の間に数えるのもバカらしくなってくるほどの触手が交差し踊り狂い、くんずほぐれつ、拮抗する。

 その触手撃は、フラギルの体が浮くのではないかと思えるほどの凄まじさである。

 しかし、それも長くは続かない。


ーービッ


 スライムの触手が千切れとんだ。暴風のようなフラギルの乱打に、相対的に脆いスライムの体は耐え切れなかったのだ。

 それを皮切りに、ポトリポトリと雑草が刈り取られるようにスライムの触手が落ちてくる。


「〜〜!! 〜〜!!」


 スライムの無言の悲鳴が聞こえてくるようだ。

 だんだんフラギルの触手がスライムに近づいてくる。それと連動して、スライムの体が削れ飛び、どんどん小さくなってくる。


『終わりだ』


 乱打の末、フラギルがスライムの前に触手を突きつける。そのままスライムに止めを刺すかに思われたが、ススス、とフラギルが触手を自分の体に戻した。

 その先ではスライムがデロ〜ンとのし餅のように延び、形を保てないでいる。

 結局、フラギルが止めを刺す前に、スライムが戦いを続けられなくなったのだ。

 動かないことを確かめるように、フラギルがスライムをチョイチョイと突く。


『ふむ、なるほど? 我が触っても味は感じないな』

『そう言う問題じゃったかのぅ・・・』

 

 フラギルは満足そうにピッカピカと明滅する。

 フラギル一行はそのまま、スライムの上をコロコロと転がり、向こうにあった通路へと入っていった。

 そうしてスライムを乗り越え、通路の出口まで転がった先には、冒険者と思わしき死体がうずくまっていた。

 

『むっ・・・』


 少し、光を曇らせながらも死体に近づくフラギル。

 その死体の右側の通路の奥に、一際輝いて見える宝箱を見つけた。

 通路を上から見下ろせば、トの字ような形であり、ちょうどその中央に死体が位置している。


『おぉ!? あれはなかなか希少そうなオーラを放つ宝箱じゃな!!』

『そうだな!!』


 どうやら、ゼルとペルギムはこの死体には興味はないらしい。

 ティナは膝をつき、手を折って、祈っている。


『む』


 蝿がその死体の周りを舞っている。死体を餌とし、産卵場としているのだ。

 蝿にとってこの死体は、一つの世界と言ってもいいだろう。

 そのことを理解したフラギルは、自分の特性とこの蝿を重ね合わせた。


『人間を食らって生きる蝿なら、我もこの蝿と似たようなものか』


 ブンブン、と飛んでいた蝿を上手にキャッチし、フラギルはそれをよく眺める。

 ゼルがその言葉にびっくりして、フラギルの元へ駆け寄った。


『な、なぜでございますか!? しゅよ!!』

『我は人間の感情を食らっているようなものであろ? 蝿と似たようなものだ』

『違います!! 貴方様は、感情を喰らうと仰っても、奪うわけでは無いではありませんか!!』

『蝿とて、今喰われている死体に何ら害を与えておらぬぞ? 死んで、そのことを認識してすらいないのだからな』


 そう言ってフラギルは、その蝿を中に取り込んだ。


『ーーそれでも、しゅは蠅とは違います』

『それくらいは分かっている』

 

 フラギルは泣かれるとマズいと思い、ティナの言葉に注意を払いつつ、ティナ以外の二人の目線をチラチラと気にするように光の濃度を変え、無言でその死体の横を通り過ぎた。


(蝿か)


 フラギルの内心は、宝箱やそこから出てくる魔道具よりも、蝿のことで占められていた。

 コロコロと宝箱が見える通路に入る。

 宝箱はスポットライトでも当たっているかのような、無視出来ない存在感を放っている。

 半ばに差し掛かった頃、上から黒い鉄球が落ち、ゴロゴロと重苦しい音を響かせながら、フラギル一行めがけて転がって来た。


『なんじゃ、フラギルの親戚ではないか』


 ゼル様は呑気であった。これまでの罠をフラギルは無傷で切り抜け、今度の罠も傷つかないという油断もあったのだろう。

 他の二人も同じ雰囲気であった。


『ふん』


 フラギルも特に気にすることなく、自分の体をストッパー代わりにして止めた。

 ガリガリ、と少しフラギルの丸い体が後退する。

 フラギルにはやはり、傷一つない。


『とりあえず、その鉄球と床の間から、向こうに抜けようぜ』

『そうですね。主よ、蝿にはこのようなことは出来ませんよ?』


 ティナはまだ、蝿の話を引きずっている。信じる神が突然、“私は蝿である”と言ったようなもので、引きずるのは仕方ないのかもしれない。


『蝿、蝿・・・』


 よほどショックだったのだろう。ティナは俯き、その先にある虚空を見ながらブツブツと呟いている。

 フラギルは、ペルギムの言う通りに鉄球を避けて進もうと、隙間を通り抜けようとした。そして、カツンと床の端に体が当たった。


 ーーカコン


 何かを踏むような音。

 それと同時に、フラギルを囲うように床から光の壁が出てくる。


『『『『アッ』』』』


 中の三人は素早くその状況を理解したが、間の抜けた声しか出せなかった。

 フラギルは、何か不味いものを踏んだとしか分からなかった。

 瞬間、フラギル一行は光に包まれ、シュオンと言う音と共に、どこかへ転移させられた。


一応戦闘シーンです。どうでしょうか?

超速餅つきをイメージして書いてみました。

1月2日と3日は投稿をお休みさせていただきます。

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