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第10話 ハイパー勘違い

『おー、やってる、やってる。 あそこのパーティーの連携はなかなか良いな』


 ペルギムが、危なげなくゴブリンの群れを殲滅している様子を見て楽しそうに評価する。


『パーティー・・・。 我らもパーティーと言えるか?』

『言えんじゃろ。 実質一人なんじゃし』


 フラギルが、ペルギムの言葉を聞き、自身の中に存在していた知識に照らし合わせる。だが、そのパーティーの定義がフラギルにはイマイチ理解できなかった。

 そして、どこの世界に、体の内側もパーティーメンバーだ!!という概念があるだろうか、と思ったゼルは笑いながらフラギルに返答した。


『ぶつ・・・、ぶつ・・・』


 ティナが何か言っている。

 フラギル含めた三人が、その言葉に耳を傾ける。


『そんな・・・バカな・・・。ここはダンジョン?』


 どうやらティナは、まだダンジョンと判明した時のショックから抜け出せていないらしい。

 そんな様子のティナを見たゼル様が


『お主〜? ここが神を敬う場所かの〜?』


 と、言いながら自分の体を曲げ、横から抉りこむように、ティナの顔を覗き込み、煽り散らかす。

 それを受けたティナはキッ、と目を釣り上げて、自身の勘違いを訂正しようと反論する。


『だってあんなに飾り付けてあったんですよ!? 大体これではメイヘネ教と被っているではありませんか!!』

『どういうことだ? まだ権能があるのか』


 フラギルがティナの言葉に反応する。

 フラギルはティナから、信仰する神が持つ権能の一端を聞いていたが、そのどれもが今の状況に合致しているとは、一片たりとも思えなかった。

 ・・・若干、フラギルの声がうんざりしたような感じだったのは、気のせいではないだろう。


『ダンジョンはあなた様の領域!! それを勝手に他の神が使うなど断じて容認できません!! 潰しましょう!!』


 どうやら、ダンジョンはフラギルの領域らしい。ティナがあまりの悔しさに、大地よ砕けよ、と言わんばかりに地団駄をふむ。ティナがふみふみしている場所には、大地と呼べるようなモノは無いのだが。

 この言動には流石に、マズイ。わざわざ厄介ごとを起こしに行くのは、全員にとって不利益だ。

 そう判断したペルギムが厳しい顔を作り、ティナへと向け


『やめとけ。何も知らないやつに向かって、なんてこと言いやがる』


と言って咎める。


『はっ!! そ、そうでした!! も、申し訳ございません、フラギル様!! 我が主よ!!』


 ペルギムの言葉にティナはハッと正気に戻った。そして、正気を取り戻したと同時に、ティナが神と敬うフラギルが、気を悪くしたのではないかと想像し、ティナの顔が泣く寸前まで顔をくしゃくしゃになる。


 つぅ、と鼻水のようなものがティナの唇にかかる。

 流石にマズイ、ヤバーイ! とフラギルの意識にピキーン!!と静電気のような直感が走る。

 しかし、だ。


『良い。そのダンジョンとやらの管理を他の者が行うのならば好都合だ』

『と、おっしゃいますと?』

『今は探索活動に注力したい。そもそもそのような話、初めて聞いたぞ? すごいのだな、メイヘナ教にとっての我は』


 流石は神と崇めらるだけのことはある。すぐさまティナの傷を癒すフォローを入れる。しかし、咄嗟に自分がフォーローを入れたことにフラギルは、フラギル自身に対して疑念を抱いた。


(なぜ、なぜ? 泣かしてはいけないと考えた?)


 しかし、そんな疑念もティナの涙によって、あっさりと押し流された。


『そ、そのようなことは!! そ、そのような・・・そんな、ウッ、ウグッ』

『オゥ?』

『『アッ』』

『ううう、ヒック。ウワアァああァァァ、ンンオオィオオィオッイー!!』


 ティナが顔をふせ、土下座のような格好で泣く。

 アチャー、と言っていそうな様子で、虹色の部分を明滅させるフラギルに対し


『あー、泣かしおった』


 ペルギムと一緒になって口を押さえていたゼルが、やれやれと言いったふうに天を仰いで言った。


『我のせいか?』

『ただの自爆だろ』


 ペルギムの言葉が止めとなり、ティナには無いはずの涙腺が決壊する。


『ううううう、ダッ、だいたい“メイヘナ教“じゃなくて“メイヘネ教”ですぅ〜〜〜うッ!! ホホゲホゲッ!!』


 どうやら、フラギルに宗教の名前すら覚えていてもらえなかったことが、ティナにとってあまりにもショックだったらしい。


 そんな気まずい雰囲気を解消するように、ゼルが言う


『フラギルよ、宝探しも兼ねてこのダンジョンを探索しようぞ、な?』

『・・・』


 無言で、フラギルの光る虹色の丸い部分が、上下に振られた。


 コロコロコロ〜〜


 そうして、フラギル一行は、前方の四人組パーティーを静かに通り過ぎていった。


◇ ◇ ◇


 ゴブリンの群れを討伐し終えた冒険者パーティーのリーダー格が、剣をしまいながら声を張り上げて、討伐した報酬を回収している仲間に向かって質問する。


「おーいジェーン。さっきから何か目の端でチラチラ光っているんだ。罠の類かもしれねぇ、あっちの地面だ! 少し調べて見てくれねぇか?」


 ジェーンと呼ばれた人は、弓矢を装備した斥候職であった。


「うー? 分かったわよ、モーリス」


 獲得物を収納した小袋を腰にかけ、モーリスと呼んだ男の指差した方を調べに、ジェーンが、フリフリとツインテールを振りながら歩いて行く。


「んー? 何も無いわよー?」


 そして、迷宮の地面に手をつき、顔を横向きにつけ、辺り一帯を調査する。

 その姿は少々、エッッッ!!であった。

 後ろから見れば、お尻が大胆に突き出され、調査のために首が振られるたびにフリフリと揺られ、前から見れば、大きすぎず、小さすぎないちょうど良いサイズの“Oh!π(パイ)!“が地面にギュムッと押しつぶされている様子が、まざまざと見ることができたであろう。


 その姿に思わずといったふうに、いつもパーティーを組んでいるはずのモーリスが鼻を伸ばす。


パアアアァァァーー


 モーリスの頭が緑色に光り出す。

 次の瞬間、


 ーーゴン!!


「アッ!?」


 もう一人の前衛に頭を殴られた。一瞬、緑色の光が拳を押し留めたような気がするが、モーリスの額からはブゥ、と膨れたたんこぶが発生する。

 モーリスは、殴られた時に下を向いた頭を元に戻さず、器用に目線だけをギギギ、と殴った者へと向けた。

 ーーそこには、見事に割れた腹筋の海と、その先に見える二つの巨大な楽園島が存在していた。


「お、オルベス・・・ぅ」


 そしてさらに目線を上へと上げると、その楽園の主が鬼もかくや、と言った表情で睨んでいた。

 オルベスの真っ直ぐに伸ばした金髪は、怒りのオーラによって振り乱されている。 


「おい・・・今の指示は、お前の欲を満たすためのものか・・・?」


 左目が薄く閉じられ、右目は限界まで開かれている。紅の目の光が、迷宮の暗がりで、妖しく尾を引いた。

 そして、ゆっくりとオルベスの手が、その体に見合った、巨大な禍々しい大剣の持ち手に近づいていく。


「い、いや待て、待って! 待ってくれ! 誤解だッッ、です!」


 モーリスは慌てて両手を前に突き出し、違う、違うと激しく振った。

 モーリスの整った顔に、汗がダラダラと伝ってくる。ハンサムの基準に十分入るであろう顔が、台無しだ。


「全く、お前と言うやつは・・・。少しはナカルトを見習え。なぁ?」


 そう言って圧倒的機動力でオルベスが、回収作業を行なっていたナカルトを引き掴む。そして、そのまま脇にガッキと、引き寄せた。

 ナカルトの右頬が、オルベスの左側の楽園島の砂浜に、打ち上げられていた。


(あたってる、あたってる!!)


 そう思いつつ、モーリスは目を血走らせて、ナカルトの顔を見た。

 ナカルトの目はモーリスから見て、右手側の上部、迷宮の灯りの方を向いていた。

 しかし、それも無駄な抵抗のようだ。 ナカルトの右目の端部分が、現在進行で、極楽浄土の地に埋もれていっているのだ。

 一応、オルベスも防具を身に纏っているのだが、あまりにもその面積が小さい。


「ソウダナー、ウン。モーリスー、カイフクハイルノカー」

「頭の回復をしてやってくれ。ついでに、その欲も一緒に治るかもしれない」

「ワカッター。<ヒール>」


 モーリスの体全体が白く光る。虚な目をしていても、自分の役割を果たす男、ナカルト。

 オルベスがジェーンを呼び戻しに行くために、ナカルトをその腕から解放する。ナカルトはそのままヨロヨロと何歩か歩いたが、ふらつきながらもしっかりと立った。


「ナカルト、だ、大丈夫なのか・・・?」


 モーリスがふらつくナカルトを支えようと近づく。

 だが、


「オトコノユメハ、パラダイス」


 ダメだったらしい。

 ナカルトの意味不明な返事を聞いた、モーリスの目に涙が浮かぶ。


「ナァァァカァァァルウゥぅぅトおぉぉぉ!!」

 

 正義に燃える漢、その正義の威光の輝きを増したモーリスの雄叫びが、迷宮の中に木霊する。

 モーリスは、あらゆる男を誘惑する楽園島への怒りに涙する男なのだ。けして、羨ましいなどという心は無いのだ。決して。

 ピカピカとモーリスの体が、蛍光灯よりも白く輝く。

 結局、モーリスからは、先程感じた違和感など、オルベスに殴られた痛みと共に、綺麗さっぱり消えてしまっていた。


◇ ◇ ◇


 フラギルが迷宮の床を転がり続けている間、ゼル、ペルギムの二人と一緒になって、魔道具談義をしていたところ、完全復活したティナがその談義に参加してきた。


 ティナは自身が持っていた魔道具、いや、ティナの言葉を借りれば神器を自慢し、その言葉に反応したゼルとペルギムの二人が、自慢の応酬を行う。


 フラギルはそんな三人を見て満足したように、穏やかな虹色で光っていた。


ここまで読んでくださり、誠にありがとうございます。

今年は長いようで、ものすんごく短い一年でしたァ!!

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