第9話 迷宮探索初心者
申し訳ございません。普通に9話目を投稿するのを忘れていました。
神殿内にあった洞窟の中をフラギル一行は、砂粒ほどの大きさになり、転がりながら進んでいく。
洞窟内は灯火が天井に等間隔で並んでおり、うっすらとその周囲を照らしている。見るからにでこぼこ、ジメジメとした洞窟内にティナは内心、聖域といえどこの程度か、と呆れていたが、表情にすら出さずに微笑の仮面を外さなかった。
『明かり以外ほとんど整備されておらんではないか』
『全くだな』
だからといって、他の二人が黙っているというわけでもないのだが。ゼルなど、あからさまに失望した表情をし、見下しすぎて天を仰ぎそうなほど、背中を反らしている。きっと、思い浮かべていたのはもっと荘厳な光景だったに違いない。
『貴様らとは、習慣が違うかもしれんではないか? 実際、言語はすでに違うようであるし』
水たまりの上をチャプンと通り過ぎながらフラギルが言う。その言葉通り確かに、長い年月の末に神を祀る様式がこのように変容したのかもしれない。
『うーん? そう・・・なのか? いや、だがしかs』
『主が言ったのですから』
考えるそぶりを見せたペルギムの眼前に、ティナがさながらカーリングストーンのようにシュバっと滑り込み、弾き飛ばす。
前を進む武装集団から聞こえる馬鹿笑いが、洞窟の壁にグワングワンと反響する。その武装集団は四人組で、男女混合。男二人、女二人。前衛二人の男女に男の後衛一人、弓を携えているがおそらく斥候職であろう女が一人といった構成だ。
しばらくの間、その武装集団の後をフラギル達はコロコロと後を追っていった。
ふと、その武装集団が足を止める。
自然とフラギル達は警戒体制に入る。
『我、気づかれたか?』
『こっち見てないし、大丈夫だろ』
武装集団の前衛と思わしき者達は、何か叫びながら剣を抜き放ち、後衛の者が放つ色とりどりの光が一人一人の体に降り注ぐ。
それを見たゼルが興奮気味に
『強化魔法かの!? 興味深い!! もうちょっと近くに寄ってみるのじゃ!!』
と言ったが、ティナにそのお口をセーブされた。
『黙っていましょう』
口をモガモガとさせるゼルを横目に、ティナはフラギルに向かって言う。
『普通の神殿やそれに類するところなら、剣を抜く暴挙などあり得ないのですが・・・』
『そうか』
武装集団は油断せずに前方を警戒している。そのことに司祭であるティナは、違和感を覚えた。
ーーヒタヒタヒタ
前方の暗がりから、足音のようなものが聞こえてくる。その足音の主が洞窟の明かりに照らされ、その全容が明らかになる。
「グギャッ、グギャギャギャギャギャアァ!!」
前方にいる武装集団に比べるとあまりに小さく、貧相。装備などはただの木の棒。前方の者たちとあまりにも違う顔つき、緑の肌、しかし二足歩行。そんな生物が一体、木の棒を振りかざしながらその集団に駆けて行った。
『ゴ、ゴブリンじゃと!?』
『な!?』
『・・・!?』
ゼル、ティナ、ペルギムは一様に目をむいて驚いていた。
ーーギャアアァッ!! ギィイ!!
さらに奥の暗がりから複数のゴブリンの声が聞こえてくる。
それに気づいた武装集団が先ほど突撃してきた一匹のゴブリンを、手早くリンチする。前衛二人の乱刃と後衛の光弾の乱射を受けたゴブリンはたちまち肉塊と化す。そしてドチャ!!と地面に落ちる前に、光る玉のようなものを落とし、塵となって消滅した。斥候の女は、何本かの矢を射て後続のゴブリンを牽制していた。
それを見たフラギルの中の人たちは、この現状を正しく理解する。
『ここってダンジョンじゃーん』
『そのようじゃの』
ペルギムは顎を引き、うんざりしたような顔を隠そうともしていない。ゼルもそれを見て苦笑した。
『なんということでしょう・・・。まさかこのような場所だったとは』
ティナは手で顔を覆い隠し、大袈裟に天を仰いでいる。
『ダンジョンだと? 何かまずいことにでもなったのか? おっと』
フラギルが三人の反応を見て興味を抱いたのか、体から漏れ出る光を強くした。そしてすぐに元の光量に戻した。
ダンジョンのことをフラギルが知らないということを想定していなかったゼルが、納得したかのように手を叩きながら頷き、ダンジョンについての説明を行う。
『あー、なるほどの。ダンジョンとは、アレじゃ。ワシらが命をかけて中の魔物と戦い、その魔物達の素材やダンジョン内にある宝物を得ることのできる場所じゃ。』
その説明を受けフラギルは思案する。
『そのような情報は記憶に・・・あるな。なるほど、その宝物、なかなかに強力な物もあるようだな』
『そうじゃの。魔剣、宝剣、魔道具はもちろん、魔法を記したスクロールなど色々あるからの。どうじゃ、このダンジョンを探索せんか?』
『それを見つけるのに一体どれほどのゴミを拾えばいいんだ・・・』
うんざりとしたようにペルギムが言う。
宝物の下には、数多ものゴミが存在する。破損しているもの、使用方法の不明なものはまだマシな部類だ。中には、持っている時間が長いほど重くなる皿や、入れた水を臭くするだけのカップなど様々だ。それらはとても宝物とは言い難いため、ペルギムはゴミと言ったのだ。
しかし、流石はゼルといったところだろうか。
『そこらへんはホレ、フラギルがおるじゃろ? ワシら以外に吸い込まれた者は、ほぼ全員錬金術師じゃろうし、そやつらの記憶があるのならばまぁ、効果の書き換えくらいは容易いじゃろ。何せ、曲がりなりにもこのフラギルを、実験材料にしようと求めた者たちじゃからの!!』
しっかりと対処法を考えていた。
『それもそうか。あと、その実験材料としてフラギルを求めた奴らの中に、お前も含まれるだろ』
意図的に話に含めなかった痛いところをつかれ、ゼルは咄嗟に、ペルギムから目を逸らした。
「ギィイヤァあああ!!」
ゴブリンの悲鳴とともに、剣が閃き、色とりどりの光が煌めき、爆発する。その度に、木の棒やら牙やら、何か石のようなものがゴトリ、ポトリ、カツーンと落ちていく。
奥から武装集団に向かって突撃していたゴブリンの集団が、徐々に殲滅されていくのがフラギルから見えた。




