クーデター 中編
連れて来られたのは地下監房だ。
地下監房には例のフェリーで騒動を引き起こした3人組が待っていた。
3人組の筆頭格御堂昴がゲスな笑みを浮かべて東条紗枝の髪を引っつかみ地面に叩き伏せた。
「何する気! さっちんに手を出すな!」
種島沙耶が果敢に飛びだして御堂昴に殴りかかったが御堂昴の護衛の二人のうちの一人、グレイトと呼ばれていた男がその巨腕で彼女の拳を受け止めてカウンターで腹に一撃を入れた。思い切り吹き飛んだ彼女を俺が受け止めて彼女の生死を確認した。
生きてはいたが苦痛に顔をゆがめて気絶した。
「てめぇら、ゆるさねぇぞ」
「おっと、特にあなたは動かないでください神咲辰也」
背後に銃口を突き付ける狩野芳樹中佐の姿。
生徒の軍勢は全員が丸山修三が向けた銃口におびえ切って歯向かう気力をそがれていて援助を求めることもできない。それも仕方ない。目の前で共感を射ち殺した奴らには向かう努力があるのは度胸が据わってるか単なる馬鹿だ。
それに種島沙耶が今しがた飛び出して撃たれなかったのは運が良かったからではない。彼らは生徒が今動いて歯向かったとしても余裕で殺せるという自負があるからだろう。
俺はそれがわかった上で歯向かうのをやめておとなしく沙耶を抱きしめなて殺気を無くして言った。
「俺らをどうする気だ?」
「この監房に入ってもらう」
狩野中佐が冷めた目つきでそう答えてさっさと入れと生徒に促した。
数十名の生徒たちが監房に入れられていく。
肩を負傷して昏倒した星姫大佐や腹を殴られて昏倒した種島沙耶も中に無理やり放り込まれる。
「おっと、神咲、お前は別の監房だ」
「なに?」
俺が入ろうとしたのを狩野が食い止めて生徒一同を閉じ込めた監房を施錠する丸山。
そして、丸山は何かのスプレー缶を監房内に放り込むと生徒一同が昏倒していく。
「何を放った!」
「大丈夫だよ、ぼくの切り札君。これはただおとなしくしてもらうための麻酔薬さ」
「なんだと?」
「死んではいないからね」
まるで、丸山は顔に似合わない、少年の声で受け答えをした。
丸山ではないのか?
狩野が丸山の視線を受けて俺の背に銃口を突き付けたまま歩くように背中を押す。
「……東条さんはどうする気だ?」
「俺の玩具になってもらうんだけさ、へへっ」
御堂昴はその質問にげひた笑みで答えを返すと髪を掴まれたままの紗枝がおびえて泣きながらしゃくり声をあげた。昴は恍惚し彼女の頬に舌を這わせる。
彼女の顔が青ざめる。
俺は3人組と丸山に狩野の携帯武器を探る。
御堂のボディーガードは武器の携帯はなく腕力で物を言わせるタイプの様子。狩野はワルサーP99という種類のポリマー製フレーム拳銃だ。弾数は15発。予備の弾丸は見当たらない。
最後に丸山も武器の携帯は見られないが薬品物の所持がある。
御堂昴も銃を携帯してるが改造してるために種類が不明であり弾数も不明だった。
(ちっ、厄介だな)
奥歯をかみしめながら監房を出て廊下を歩いていく。
そして、奥の部屋の大広間。講堂につく。
その講堂にはステージ上でいくつもの管をつながったカプセルがあった。何かの実験機材のように見受けられた。
「さぁ、君の居場所はあそこだ」
銃で示されたのはカプセルの中だった。
あそこに入れと言われてそうはいるわけにもいかない。
明らかに不穏な空気を感じ取れた。
「なぁに、心配いらないさ。君は英雄になるんだよ。神咲くん」
「英雄だと?」
「そうさ。君は自分の能力がどういったものか知ってるかい?」
「……」
「すべての能力を操る能力」
「は?」
丸山は喜々とした笑みを浮かべて機械を操作した。
ステージ上の大型パネルモニターに何かが映し出された。
外の凄惨な光景だ。生徒同士が争い合い続ける戦場。
「君はこの戦場を止めたくないかい? 君は僕が与えたとっておきの能力が備わってる。それが能力支配さ。その能力をもってすれば君は生徒たちを全員君の支配下において止められる。戦争もなにもかも。なによりも、その能力の凄さはまだある」
モニターが切り替わる。ここ数日の俺の訓練の様子だった。
「これは僕が撮影した訓練の様子さ。君が見せた異常なスピード。これは君が持つ能力によって起こる身体異常。身体が限界を超えた力を引き出されてるんだ。つまりは副次的能力だね」
「……何を企んでる? 俺にこの能力を与えた? 戦争を止められる? ふざけるなよ。戦争をおっぱじめたのはお前らで戦争を止める? 矛盾してるじゃねぇのかよぉ」
「矛盾か……。確かにそうかもしれないが、この戦争を作り上げたのも、実験の余興さ」
「余興だと?」
「そう。君により血を見せて体内の能力を活発化させる。まぁ、見事にうまく言ったし邪魔ものも排除できたわけだけどね」
俺は飛びだした。
真っ先に彼の首筋に手を伸ばしたが背後からふくらはぎを撃たれてその場に転倒をする。
「ぐがぁああああああ」
「おい! 狩野君丁重に扱うんだ。彼は貴重な存在なんだよ」
「ですが、撃たねばアルス様がやられていました」
「僕は平気さ。彼をねじ伏せるくらいできる。さて」
丸山はべりべりとその覆面を引っぺがして銀髪の少年の顔をのぞかせた。
「っ! 変装?」
「そうさ。最初からね。君があっていた丸山修三はこの僕さ。本物はとっくに死んでる。君がフェリーに乗る以前から」
「っ!」
「今回の計画には研究者になり済ます必要があったし人材も必要でそこの狩野君に協力要請し君を選んだ」
「え、選んだ?」
「実験の要、この秘密の軍事学校とは名ばかりの秘匿研究の能力者たちを我が国の戦士にするための実験さ。君に与えた能力支配はそのために必要。そして、君はうまくその能力に合うDNAや身体情報だった」
俺はここに来るまでの経緯を思い出した。
父親が持ってきた軍事学校の入学試験。狩野中佐が父に話をもちかけてそれが俺をこの学校に来させた。
丸山いや、アルスは俺に能力支配の能力を与えたフェリーの出来事やフェリーのテロ事件。
「フェリーでの騒動あれはまさか、この余興のように俺を覚醒させるために?」
「まぁ、そうだったが君はあの時にはまだ力を解放しなかったが君に能力支配による発作が現れないかと言う観察も兼ねていた。結果、君は発作も何も起こさない見事な適生者だと判断したのだよ」
「っ! 何もかもがそんな実験で……ふざけるんじゃねぇぞぉ!」
殴りかかろうとした時に悲鳴が上がり後ろを振り返る。
東条紗枝の衣服を引っぺがして御堂昴が股間をいきり立たせて迫っていた。
俺は素早い動きで彼の背後に迫った。
その頸をひっつかんで頸動脈絞めていく。
「動くんじゃねぇぞ!」
ボディーガードマンが慌てて止めに入ろうとしたのを恫喝して食い止めた。
ボディーガードの二人にアルスや狩野すら目で追えないほどの異常なスピードだった。
敵対者4人はどうするべきかと考えるのかと思えば――
「くくっ、面白い。やっていいよ。つか、やりなよ。君は人を殺し血を見れば見るほど能力が覚醒するんだ」
「なに?」
「だからやればいいさ。彼はもう用済みだしね」
その時、腕の中の昴が悲嘆に暮れた表情を浮かべていた。
「くっ! 東条さん、君は早く逃げろ! コイツらは俺が食い止める!」
二人組のボディーガードマンが食い止めようとするが昴の方を見てその行く手を阻もうとしない。
アルスも何も言わず見送った。狩野も何もすることはない。
「小娘一人逃がすくらいどうってことない。昴君、君もごくろうさま」
俺はみょうに気にかかった。アルスの言う血を見れば能力が強まるというセリフに感化されて腕を緩めて昴を解放した。
「ん? なんだい? 仕留めないのか。残念だ」
すると、アルスは懐から何をか取り出してそれを振り投げた。昴の背中にその物体、注射器は放たれた。
中の液体が瞬時に昴の中に入り込み昴が喉をかきむしって頸動脈を切った。血が噴き出したかと思えば今度は昴の体がどろどろと溶け始めて骨と血みどろの肉と化した。
「昴坊ちゃま!」
「昴様!」
二人組のボディーガードが怒りに狂いアルスに飛びかかったが狩野が銃弾を浴びせた。心臓に一発。
あっけなく二人は即死だった。
「さすが狩野君だね。僕が認めただけの男だ」
「っ!」
狩野の素早い射撃の腕を見て彼がただの事務担当の軍人でないことが分かった。
そう、彼もまた腕の立つ戦地の住人の軍人だ。
足元に赤い血だまりが流れ込んできてそれを見た途端に脳内を熱くあぶられるように支配されていく。それは次第に痛みを伴い目から血の涙を流す。
「さぁ、始まった。君の能力を見せてくれ。狩野君、彼を中に入れなさい」
「はっ!」
ふらついたからだで狩野の腕を振り払うこともできずに俺はそのままカプセルの中に入れられてしまう。
次第に脳の熱は強まって意識は持っていかれてしまい視界は暗転した。
最終に向けて物語は進行します。もうしばしお付き合いくださいませ。




