クーデター 前編
数時間後に緊急招集がかかり、一般生徒及び特異生徒は全員、グラウンドに集った。
前方には重苦しい表情でこちらを伺う教官たちの顔ぶれ。
教官の中央には役所で一番上官にあたる星姫大佐の姿があった。
彼女は威厳ある姿を見せながら真ん中に立ち全員が敬礼を行う。
「休みなさい」
後ろ手に腕を組みながら彼女の言葉を全員が固唾を飲んで待った。
彼女は背後の教官たちと目配せ合いを行いついに先刻起こった事情を語りだした。
「本日昼、我々教官一同が講義中に席を外したことは皆知ってるであろう。その原因は管理庁室で起こった事件が原因である」
語られた内容に一同が騒然となった。
それも『事件』という言葉は不穏なものを感じさせ緊張を走らせる。
「現在、官長を殺害した犯人をこの島から出すわけにはいかない。よって、今日より吾々教官は見回りを行い全学生に夜間の寮内監禁を命じる。夜間外出の希望の際は教官を通して理由を述べたうえで行え」
緊急通達に全生徒が動揺をすれば教官の激怒の声がかかった。
だけど、生徒にしてみれば自分らが疑われて黙っていたもんではない。
何名もの生徒が理由を問いただしたり教官の容疑に関しての問いただしもしていた。
だが、一向に星姫大佐は取り合うつもりがない様子だった。
代理の管理庁は今後は星姫大佐が行うことや授業などは今後も通常通り行われることを通達する。
犯人が長期休暇まで見つからない場合は生徒を外部に出すことも禁止という伝令も伝えられますます生徒の鬱憤もたまった。
教官一同は伝えるべきことを伝えてさっそうと解散を通告した。
そこで一人の生徒が発砲をする。
教官数名がその生徒に向けて銃を下ろすように促した。
「てめぇら、教官がやったことを俺ら生徒に罪をなすりつけて終わりにしようたってそうはいくかぁ! 俺はここから絶対逃げだしてやる! こんな場所ごめんだ!」
教官数人に向け容赦無用に発砲した。
教官に銃弾が着弾はしなかった。星姫大佐が引き抜いた刀がすべての弾丸を叩き斬ったのだ。
茫然とした生徒に急接近した星姫大佐は生徒へ峰うちをかまし昏倒させた。
生徒たちは一様にその光景を目にして沈黙した。
素直に従うそぶりを見せてどんどんと寮に帰っていくかに思われたが、『一般の生徒たちだけ』が一斉に目を血走らせて教官たちに襲いかかった。
「まずい!」
それを見て生徒の管理責任者である月が地を蹴って走り出す。
「みんな発砲しないでー!」
その声は届かず生徒たちが一斉に武器を引き抜き教官たちに発砲した。教官たちに飛び交う無数の弾丸。
防弾ジョッキを着込んだ胴体は防げたとしても頭部による被弾は防げない。
教官たちも牽制するように銃弾を打ち出した。
その弾丸は特異生徒にまでおよび、生徒と教官の戦争が始まってしまう。
俺も飛来する弾丸の雨をかいくぐりながら弾道場から離れるように遠くへ避難する。
グラウンド外の物置倉庫の陰に身をひそめながら遠くの戦場を眺めた。
しかし、今回の事態はどこか変だった。
それにこの事態を止めることは自分たち生徒には無理難題。そのことを考えてこの場所に避難した生徒は俺を含めてごくわずかだった。
「なんだよ、こりゃぁ。明らかにおかしな状況だぞ」
戦場の生徒たちの目はもう意志の宿っていない獣だった。
その生徒を必死で止めようとする教官もやむなく生徒を撃ってるが致命傷を避け弾丸を当てるのにだいぶ苦労を強いられていた。
その結果、教官の方が非常にダメージが大きくどんどん倒れていく。
次第に数は生徒が優勢だ。いや、元々数自体は生徒が多かったのでどちらにしても生徒に勝ち目がある。
生徒の中には銃を撃ち続ける生徒を止めようとする生徒もいた。
その一人が星姫大佐の妹で生徒の管理を任された責任者、いわばリーダーの神楽坂月だ。彼女は自分の能力を使い銃弾の弾道を極力抑えようとしているが数が数だけに数発分が限度。
それをはたから見ていた俺はさすがに心がいたたまれて飛びだした。
「神楽坂軍曹!」
「神咲二等兵、手伝ってちょうだい! 一般生徒の暴動を止めるんです」
「無茶を言うな! あきらめてあんたも離れろ! このままじゃあ神楽坂軍曹も蜂の巣だぞ!」
「何を言ってるんですか! 仲間を見捨てることは軍人として恥ずべき行為!」
「恥ずべき行為だろうがなんだろうがこの事態は一生徒や軍曹にも止めようがないって言ってんだよ!」
強引に彼女の腕を引いて戦場から離れていく。
彼女が暴れるのもお構いなく俺は彼女を戦地から遠ざけた。
それはよかったがズキリと腹部に激痛を感じて触る。じんわり滲む制服。手には真っ赤な血。
「神咲二等兵!?」
「ハハッ……撃たれた……」
未だに戦場では激戦が続く。
その光景と俺を交互に見比べてどっちを助けるか悩んでいた。
「神楽坂軍曹」
「月軍曹」
種島沙耶と東条紗枝が二人のもとに慌てて駆け寄った。
傍目から彼女たちも戦場を見ていた生徒の軍団にいた。さすがに自らの戦力ではかかわることを避けていたのだろう。
「二人ともなぜこのような場所にいるの! 他生徒を助――」
「神楽坂軍曹さぁ、言わせてもらうけど今回のあの事態を鑑みて言うと止めるのは無理って考えるべきっしょ」
「なっ、なにをいうの! あなたはそれでも軍人――」
「事態をしっかりと把握したうえでの判断。だいたい教官に歯向かう生徒を庇う行為に等しいことになるよ、はたから見ればさ」
種島沙耶の言い分に神楽坂月は冷静さを取り戻して戦場を眺めてから目を伏せって東条紗枝に俺を任せてどこかへ去って行った。
「つ、月軍曹!」
慌てて東条紗枝が追いかけようとしたその手を沙耶が掴み引きとめる。
「サンキュー、沙耶さん」
「はぁー、私はただ彼女を助けたかったからああ言っただけ。あんたのためじゃないよ」
「あはは」
冷たく言いながらも紗枝は俺の腹部の傷を見て手に持っていた医療器具セットを使い治療を始めた。
激痛に歯を食いしばりながら俺は意識を遠のかせていく。
「弾丸は摘出した。あとは事態の休息を待つだけだけどこのままだとあたしたち生徒は寮内監禁じゃあ、おわらないだろうねぇ」
「……だろうな……」
俺はゆっくりと身体を起き上がらせて遠のいていく意識を覚醒させる。
「ちょっと、無理しちゃったら死ぬよ」
「今はこうして体を起き上がらせてないと寝ちまいそうなんだ」
「だからって……」
「なぁ、紗枝さんあんたはこの事態を見て不思議に思わなかったか?」
「はぁ? なに急に?」
俺はゆっくりと指を戦場の一人の生徒を指差した。
その生徒は銃を乱射して喜々とした笑みを浮かべているけれど瞳の焦点があっておらずまるで人形のようだった。
「あの生徒の姿がおかしいと思わないか。それ教官も銃を乱射してるのはわずか数名」
「いったい何を言い出して……え?」
やっと気付いたようだった。
教官側でも教官同士での争いはあった。
教官の銃を乱射してる教官をとめる教官。その教官の瞳に精気が宿っていないように感じ取れる表情。
「ちょっと、いつから気付いてたの?」
「最初からだ。あの最初に発砲した生徒を見て何かを感じた。これも能力ってやつのおかげかもな」
信じられない表情を浮かべて沙耶を含めてその場にいた生徒も聞き耳に入りその光景の真相にぞっとしていた。
「まさか……そういうこと?」
「最初の発表で管理庁が殺害されたって話を聞かされてすぐに俺は何かを感じた」
「え」
「そこからなんか知らんが乱射事件が起こった。だから、まっさきに遠ざかって戦場の一人一人に目を向けてみたがどいつもこいつも正気じゃない。戦場だからって意味じゃなく人として精気を感じないような顔をしてやがった」
「はやく、このことを教官に伝えないと」
沙耶が動いていこうとする前に向こうから数名の教官がやってくる。
沙耶をはじめとして紗枝に他生徒も武器を構えて教官に向けた。
教官はもろ手を挙げて降伏するようなそぶりを見せながら「落ち着きなさい君たち! 私たちは正気」と言った。
教官の先頭に立っていたのは星姫大佐だ。
「緊急事態を理解してくれた生徒がいて助かりました。今回の事態を早急に解決するために生徒にも協力を要請いたしたく思います」
「星姫大佐、今回の事態と言うとこれは明らかな第3者による誘導的な戦争だと考えてよろしいんですかね」
「君はたしか、妹と同室の……」
「神咲辰也二等兵です」
「そうですか。その腹部の傷は?」
「さっき、妹さんを助けた際に少しね」
「それはもうしわけないです」
「それよりもさっきの質問の答えは当たりと考えていいんですか星姫大佐?」
「それを伝えるにはあなたではなく妹にお答えします。妹はどこですか?」
そこで言われて初めて気づいた。
月がどこかへ消えいなくなっている。先ほど去って行ったっきり戻ってきていない。
「月っ!」
星姫大佐が慌てて立ち上がるが他の教官その手をひっぱり食い止めた。
「ダメです、星姫大佐。彼女は我々にお任せください。あなたは生徒の安全をお願いします。丸山中佐と狩野中佐も生徒を」
『了解』
数名の教官が戦場と森林地帯に分かれ捜索に出向いていく。
他、生徒にむけ数名の教官が負傷していないかのチェックや誰がいるのかの点呼をしていった。
「さっきの質問に答えてください。今妹さんがいない代わりに俺らが聞くことは権利があるはずですが」
「…………いいです。これが明らかに第3者によるものだということを認めます。ですから、まずは事態を解決するために妹の指揮のもとで――」
パンっ。
身近から聞こえた発砲音と悲鳴に全員がそちらを見た。
丸山修三教官と狩野芳樹中佐の二人が数名の教官を射ち殺していた。
その光景に星姫大佐が銃を引き抜こうとしたが肩を撃たれてすぐに彼女はうずくまってしまい戦意をそがれた。
「そういうことですか……これはあなたたちの……」
「どうも、星姫大佐。わるいが生徒と一緒にあんたも来てもらうよ」
「さぁ、生徒共、アルス様の言うとおりに動くんですよ!」
事態は一変してまたピンチへ。
俺たちは裏切り者の狩野中佐に銃口を向けられながらどこかへと連れてかれることになった。




