謎の人物との邂逅
結局訓練試合は負け、ペナルティのランニングを行っていた。
ランニングが終えるころにはもう、日が落ち沈み他の授業をさぼるはめになった。
ペナルティをしていたからと言って他の授業の欠席扱いなどと言う融通は利かない。
時間内にペナルティを終えるのもまた一つの訓練であり終われないのであれば他の授業などでる資格はないという扱いがこの軍事学校だ。
「くそっ」
水道場で水を仰ぐように飲みながら首にかけたタオルで顔をふく。
ふと、グラウンドの向こう側の森林に妙な人影を見てしまう。
「またか」
一人の青年がじっとこちらを見ていた。
不気味な印象を受け声をかけると青年は背を向け逃げていく。
「追いかけるか」
朝からみられもすれば気にかかるというものであり青年は同じ訓練生とでもある。
なおのこと問い詰めてみよう。
「何処行った?」
――森林に入って、捜索するも青年は見当たらない。それどころかまずいことに自分が今どの地点にいるのかさえあやふやな状態にある。
携帯は訓練のペナルティをしていたばかりで部屋に置いたままである。
常備の銃は腰のホルスターに帯銃してるので問題はない。
「武器は銃一丁だけだがもしもの時はコイツでどうにかしよう」
拳銃を指でなぞってゆっくりと先へ進んでいく。
小枝を踏む音が何処からか聞こえ音の方角に向け銃口をむけた。
「誰だ! 俺に用があるなら顔を出せ!」
そういって素直に顔を出せばいいのだが案の定出すはずもない。
相手はよほど俺と接触は避けたいようだ。
ならば、何故遠目に観察する真似を行うのか。
「何を考えてるんだ?」
まったくの想像がつかない。
慎重に音の方角に進んでいくと煌めく光が前方に見えた。
その音が危険的なものであると直感で判断し横っ跳びに回避する。
案の定それは危険なものだった。飛んできたのは銃弾。木に当たって9ミリ口径の弾丸痕跡たる銃創。
「9ミリ口径の弾丸か、ベレッタ90シリーズの可能性が高いな。ただ、なんで俺を狙うんだ? 何が目的だ?」
木陰に身をひそめて相手の出方を伺い、次の攻撃を待つ。
「このままじゃあ、防戦一方だな。相手の居場所さえ分かればこちらから攻撃できるがこの暗さだとちと、視界が悪くってきついな」
今は夜の7時。ちょうど、暗くなる時間帯に当たり、森林と言う日中も暗がりが目立つ場所である。視界は悪くなる。
なによりも、木々のせいで視界は狭まりより、射程の間隔も難しい。
ゆっくりと息を吸うごとに獣の泣き声が同調するように寒気が肌を伝って行く。
「あはは、何ビビってるんだよ俺」
眼前にまたきらめいた光、マズルフラッシュの光が眩いた。瞬時にその光を頼りに弾丸をぎりぎりのタイミングで避けて光の場所をたどって走っていく。
相手もこちらの疾走に気づいて何発も銃弾を乱射する。頬をかすめ、肩をかすめる銃弾。
血が滴るのもお構いなしについに俺は光の場所にたどりつき。銃口握る人影を押し倒す。
「ぐぁ!」
首を締め上げ心臓に銃口を突き付けた。
「何もんだ! なんで俺を監視しつけ狙った!」
「……」
切れ長の瞳に黒髪黒眼の長身。
顔立ちもよくいわゆる美形。うらやましいとさえ思える。
だが、ふとしたことに心臓にあてた銃口に思わぬ感触があった。
そう、わずかなふくらみを感じた。
「まさか、お前女っ」
そう感づいた時、膝立ちでまたいでいた俺の股間に黒髪の女の膝がめり込み俺はもんどりうって倒れた。
その隙に彼女は脱兎のごとく逃げ出した。
「あぐぁ……ま……て……」
痛みが急激な意識をもうろうとさせる。
いや、先ほどまでのランニングから来る疲労の原因でもあるのだろう。
痛みと疲労のダブルコンボはそうとうなまでに意識を持っていく。
最後に遠くから美声が聞こえた。
「早く目覚めることを切に願ってるよ。哀れな犬君」




