訓練と能力
朝の軍事訓練が始まった。
まず、地味で辛い筋力トレーニングからが始まり、そのあと匍匐前進、ランニングに障害物レースのような走行トレーニング。
連続してそれらを3時間かけて行う。その後、2時間において体技の訓練を行う。これらは二人一組となり行いルームメイトがペアとなる。
遠くでこちらを監視する教官の厳しい目がある中でみんなが必死に体技の訓練、つまりは組手を始めた。
今日の組手のメインとなるのは関節技である。相手に3回関節を入れた方が勝者となる。敗者にはペナルティとしてランニング100周が待っている。
そんな訓練を行いたくはない。
誰もがそう思っているので必死に相手の隙をつくように手を伸ばす。
「神咲ぃ! もう少し腰をいれろ!」
教官が怒鳴り散らして俺にだけきつくあたる。
俺はすこし、げんなりしながら腰を入れるという意味を深く考えて行動を起こす。
案の定右往左往しているだけでルームメイトの月に一本、二本と入れられてしまった。
「痛ぇ、少しは手加減しろよ」
「そんなこと言ってられないわよ、犯罪者相手ならね」
「うぐっ、わぁーってるさ」
「なら、行くわよ」
まるで、変わり切ってしまったニートからの生活。
体つきも妙に最近はがっしりとしてきてしまって自分の物とは思えない感覚があった。
おかげで、ゆっくりと彼女の一つ一つの動きについていけていた。
けれど、やはりまだ甘い点はあるからこそ取られてしまうのだ。
「あがぁ!」
「はい、終わりよ」
「くそぉ、またかよ」
「あなたは動きが単調なのよ。隙が多すぎよ。それなのによくフェリー騒動で活躍できたわね」
「あれはたまたまだっての」
月が伸ばした手を掴み起き上がる。
教官が終えたこちらを見て近づいてくる。監察教官はいつものごとく神楽坂星姫大佐だった。
星姫大佐はなにか俺に大きな期待を寄せてるからか、訓練に対して俺にだけは一番きついあたり方をする。
「情けない。呆気なく終わってどうする? 神咲辰也、君はランニング150週だ。もう一度組手をしなおして負けたらさらに追加する」
「ちょっ!」
「異論は認めない。始め」
一番早く組手を終えてしまった俺に星姫大佐は辛辣な通告を行いもとの定位置に戻っていった。
「ほら、行くわよ」
「うぉっ」
またしても組手は始まりをつげて動きを読んでいく。
その時に妙なバチリとした感覚が走った。
「え」
次の瞬間には月の腕をとって後ろ手に回し地面にうつぶせに倒して捕縛する。警察官が犯罪者を拘束する際の関節技だった。
月が悲鳴をあげてすぐに拘束を解いた。
「ちょっと、痛いじゃない!」
「わ、わるい」
「もう、やればできるんじゃない。びっくりしたわよ」
「いや、俺もだ」
今の一瞬何かが見えた様な気がした。
何だったのだろうか。
「まさか、今あなた能力を使ったんじゃない?」
「能力?」
「そうよ、フェリーで見たでしょ。この学校の特異生徒の訓練。あなたは検査結果ではしっかり何かしらの能力を保持してるわけだし発動を今までしなったのが不思議なくらいなのよ。もしかしたら、今発動したのかもしれないわね。でも、卑怯じゃない? 今は能力発動は禁止よ」
「そうはいわれても、無意識だったんだ。文句を言われたところでどうしようもないぞ」
「そう。なら、少し待ちなさい」
「あ?」
すると、月は姉でもあり上司でもある星姫大佐のもとに走って行き何個とか話すと星姫大佐は声をはりあげて通達する。
「今から能力解放を命じる。各自、能力を使った訓練を許可する。ただし、武器の使用は許可しない」
そう言った刹那に生徒らに不可思議な現象が発生した。ある者は腕を炎に包みこみ、ある者は冷気をまとい、ある者は指先から電流を撃ちだし、ある者は黒煙を吐きだす。ありとあらゆる超常的現象が巻き起こった。
これが『能力』だ。
異能生徒は、この秘密の軍事学校の秘密実験の対象者であると同時に未来のテロ対策の秘密戦闘員になる生徒だ。
その秘密の実験と言うのはこうした能力を植え付ける。俺もフェリーにして行われた健康診断でその資質ありと認められ、何かを植え付けられていた。
血液サンプル摂取の際にマイクロナノマシンを対菜に入れていたらしい。それが能力を生み出させる起因となる物体だ。
「よそ見は禁物よ」
突然、背後から声がして振り返ると顔面に強烈な一撃が入った。顔が陥没したかと思うほどの痛快な一撃はめまいを引き起こさせ足をもつれさせた。その隙をついて月がジャブをたたきこんでくる。肘をあげて腕でガードするがなかなかに鍛えた女子と言うだけあり拳の重さがあった。
「いつまでもつかしらねっ!」
「だぁっくっそ!」
ガードを解き彼女の攻撃を食らいながらその腕をどうにか取られて関節技に持ち込みにかかるが彼女が掻き消えた。
文字通り彼女の姿が忽然と光の粒子となっていなくなる。
現れたのは背後だった。月は俺の首を締め上げ関節技を決めた。
「これで、1勝1敗ね」
「うぐぐっ」
「さぁ、能力を出して見せたら」
「だから、わからないっての」
「どうかしらね」
彼女が消える。月の能力は空間転移。自分自身をテレポートさせているのだ。
どこからでも彼女は自由自在に攻撃を仕掛けられる。
こちらの隙を狙うなどお茶の子さいさいと言うやつだ。
「その能力有利過ぎだろ! 勝ち目ないっての!」
「あら、軍人はどんな時でも対応策をこうじないとダメよ!」
首筋の裏から来る攻撃になぜか直感的にわかった。乾いた音が響くと月の鋭くとがらせた素手を掴み柔道技で地面に投げ倒す。うまく受け身を取った彼女だったがそこから俺は彼女を立ち上がらせんばかりに腕ひしぎ十字固めをきめた。
「これで俺の2勝だ」
「見事ね。で、能力はわかったの?」
「なんとなくな。だけど、発動の仕方がわからない」
「なら、がんばりなさい! 行くわよ!」
最後の試合を開始する。




