第九章 言わなければ(二)言わなければ分からないのに
早坂へのメールは、書き上げるまでに時間が掛かった。迷ったが、率直に書くことにした。
「第四話から第六話の改稿について、ご報告しなければならないことがあります。
この改稿には、先日サービスを停止した文冴クラウドを使っていました。第四話と第五話では足した場面に、第六話ではもとからある文の言い回しの直しに使っています。まだ提出していない第八話にも、ひと場面あります。文冴クラウドが生成AIの使用を発表した翌朝に、直したい箇所が出てきたのでもう一度手を入れさせてほしいとお願いしたのは、このためでした。理由を書かずにお願いしたことをお詫びします。
発表のあと、改稿前の原稿と異なっていた部分は、全部自分の手で書き直しました。第八話の場面も同じように書き直してあります。文冴クラウドの出力と同じ文は残っていません。ただ、私は出力を読んだ上で書き直しています。参考にしていないとは言えないかもしれません。
この原稿をこのまま本にしてよいのか、私には判断できません。ご判断をお願いします」
夜のうちに送信した。
***
翌日の二十時すぎ、知らない番号から電話が来た。出ると早坂だった。早坂と電話で話すのは初めてだった。
「夜分にすみません。メールを拝見しました。確認ですが、書き直しはすべて終わっている、という理解でよろしいですか」
「終わっています。ただ、メールに書いたとおり、書き直した部分が――」
「はい。読みました」
説明しようとした。出力をそのまま原稿に貼ったことは一度もない、と言いかけたところで、早坂が引き取った。
「詳しいお話は、うかがわないでおきます」
「……言わなければ、分からないのに」
声の調子は変わらなかった。私が何か言う前に、早坂は続けた。
「すみません、いまのは忘れてください。ただ、メールをいただいた以上、こちらは知らなかったことにはできません。原稿はいったんお預かりします。今後の進め方は、社内で確認して、あらためてご連絡します」
「第七話からの改稿は、続けたほうがいいでしょうか」
「……それも、あわせてご連絡します」
電話はそれで終わった。
電話を切ってから、最初の面談を思い出した。録画はしていませんので、と早坂はあのとき最初に言った。文冴クラウドを使ったという私の告白はメールで、文面が残っている。返事は電話で、何も残らない。記録に残るかどうかで、早坂の言葉は変わる。
瀬名彰久も、契約の前に説明を申し出て、生成AIを使っていないのであれば問題ありません、という返事で断られている。手記で読んだ話だ。詳しい話は聞かないと言われた今日の電話は、瀬名への返事と同じに思えた。




