第七章 象(三)埋まらない
文冴クラウドは、第四話と第五話に足した場面と、第六話の言い回し直しと、第八話のひと場面に使った。書き直すのはその範囲だが、週末になっても、最初の第四話がまだ終わらなかった。
場面の筋は決まっているのに、使える言葉が決まらない。いま思い付いた自然な言い回しが、文冴クラウドの出力にもあったような気がしてくる。数行しか進まない夜が続いた。執筆は二十三時から一時間半と決めていたが、二時を過ぎても終わらない日が続いた。
書き直しに掛かる前に、第四話から第六話の変わった箇所を先にひと通り見て回っていた。第六話がいちばんひどかった。もとからある文の言い回し直しに文冴クラウドを使った話で、変わった文が多く、話のあちこちに散らばっている。試しに書き直してみた場面には、決められないまま空けてある箇所がいくつもできた。
次の週末の夜、埋まらない第六話を前にして、瀬名彰久の手記を思い出した。『椿の坂』の本文に私が直接入れた言葉は一つもない、と書いてあった。読んだときは、なぜそこまでするのかと思った。必要に応じて修正できる方が便利なはずだ。
いまは分かる。全部の言葉に出どころが決まっているなら、どの文字を指されても、どこから来たかを答えられる。AI生成の疑いが最初から生まれない。私がいまやっている作業は、あの書き方をしていれば起こらない作業だった。
私の改稿には、どの文をどうやって書いたのかの記録がない。
日曜の夜に保存した第四話は、まだ場面の形になっていない。第九話に足す場面は白紙のまま。締切は再来月の末だ。




