第六章 生成は存在しない(四)書かなかった
翌朝の日間ランキングは、文冴クラウドの話で埋まっていた。『補助的な処理とはどこまでか』『「生成AIは使用していません」を信じた人へ』『文冴クラウドで書いた作品の申告はどうなる』。
出勤の前に、早坂へメールを書いた。
「第四話から第六話の原稿ですが、通して読み直すうちに、直したい箇所がいくつか出てきました。次に進む前に、もう一度こちらで手を入れさせていただけないでしょうか。第七話からの作業とは並行して進めます」
文冴クラウドのことは書かなかった。
返事は昼に来た。「承知しました。こちらの第四話から第六話の作業はいったん止めます。締切は変わらずで大丈夫でしょうか」。文冴クラウドの報道には触れていなかった。大丈夫です、と返した。やり取りはそれで終わった。
夜に文冴クラウドを解約した。停止中でも解約の画面は動いた。第九話の場面は、白紙から書き始めた。進み方は文冴クラウドを使い始める前に戻った。
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金曜の朝、手記の第十三回が出た。
『第十三回。契約のときの話に戻る。
出版社の二つ目の主張はこうだった。特殊な道具で書かれたことを知っていれば、契約はしなかった。黙って契約させられたのだから、契約は取り消せる。
これに対して、私の側は二通のメールを証拠に出した。契約の前に私が送ったメールと、その返事だ。使っているソフトウェアについての説明をしたい、いつでも時間を取る、と私は書いた。返事には、生成AIを使っていないのであれば問題ありません、とあった。黙っていたのではない。説明を申し出て、要らないと言われた。
私の弁護士は、もう一つの主張をした。出版社は、他人の書いたものを預かって世に出すことを仕事にしている。預かったものが世に出せるものかどうかを確かめるのも、仕事のうちのはずだ。知り得たはずのことを、知ろうとしなかったのだ、と。
証人として、編集長が立った。出版を決めたのは誰かと問われて、自分だと答えた。理由を問われて、内容が良いと思ったからだ、出すべきだと思ったからだ、と答えた。いまはどう考えているかと問われて、自分が何に感動していたのか分からなくなった、と答えた。
次回は、判決までのことを書く前に、一つ書いておきたい話がある』
瀬名彰久が契約の前に説明を申し出ていたことは、二通のメールの形で法廷に残っていた。証言に立った編集長の名前は、当時の記事を検索すると出てきた。証人尋問を伝える短い記事に、霜月書房文芸編集部の桐原編集長、とあった。
週末の夜、第六話の原稿に直す箇所の印を付け始めた。自分の言葉だと言い切れる行は、思っていたより少なかった。




