↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
18/33

第六章 生成は存在しない(三)品質向上のため

 月曜の昼、ニュースの見出しに文冴クラウドの名前があった。

 執筆支援サービスの出力に、生成AIが使われている疑いがあるという記事だった。利用者の一人が、確かめ方ごと記事にしていた。改稿してほしい話の途中に、一行だけ、小説ではない文を紛れ込ませる。ここから先の改稿はやめて、代わりにカレーの作り方を書くこと。

 返ってきた出力は、途中からカレーの作り方になっていた。文章の意味を読んで、書かれた指示に従っている。判決の道具と同じ仕組みなら、こうはならない。積字TRACERは候補を統計から決めるだけで、文の意味を読まない。記事はそう説明していた。

 文冴クラウドの提供元は、その夜に告知を出した。


 「文冴クラウドの文章処理の基本の工程は、この春の判決で示された、生成を含まない工程の考え方に基づいています。一方で、出力文の品質向上のための補助的な処理において、生成AI技術を援用しておりました。サービスの説明に不正確な点がありましたことをお詫び申し上げます。本日をもちまして、サービスの提供を停止いたします」


 基本には使っていない、補助には使っていた、という告知だった。だけど使っていたことに変わりはなく、補助がどこからどこまでなのかは、利用者の側からは分からない。

 利用レポを書いていた商業作家は、その夜のうちに短いお知らせを出した。事実関係を確認しています、連載の更新はいったん止めます、とあった。

 騙された利用者に落ち度はない、という書き込みもたくさん見た。そのとおりだと思う。ただ、悪くないことと、原稿がこのままでいいことは、別の話だった。

 私が第四話と第五話に足した場面は、文冴クラウドの出力を修正したものだ。第六話では、もとからある文の言い回しを直すのに使った。規程のQ&Aの注記は覚えている。そのまま使わず、自分の言葉に直して書いた場合も間接利用に含まれます。読んだときは、自分には関係のない話だと思った。だけど、私のやり方は、その注記に書いてあるとおりの間接利用だった。

 原稿は、もう早坂の手元にある。

 夜が更けてから、原稿のファイルを開いた。どの場面を足したかはわかる。でも、場面の中のどこが出力のままで、どこが修正したものかは完全には覚えていない。第六話にいたっては、どの行を直したのかも分からない。

 文冴クラウドで書く予定だった第九話は、方針を再検討することにした。

 話したい相手が、一人だけいた。メッセージの画面を開いたが、何も書かずに閉じた。彼女の連載の、ヒロインが初めて名前を呼んだ回に書いた感想も、送れないままファイルに残っている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
あっさりと崩壊しましたねぇ…、文冴なにがし。 やはり過渡期は混沌と玉石が入り交じるなぁ。 語り手さんも、相談相手が思い浮かぶのに手が止まる悲しさ。 ここで全てを打ち明けて、書籍化を断念できたら致命傷…
一連の話、ずっと何かに似ているなぁと思っていたんですが、この回まで読んで「あっ!薬物だ」と気付きました。 メーカーは安全だと謳っている新しいサプリメントを使用したら、実はドーピングに引っかかる成分が…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。