第六章 生成は存在しない(二)鑑定
第八話は、文冴クラウドがあれば場面をひとつ足すだけで済みそうだった。数日でひと場面を書き足し終えた。
第九話は終盤の入り口で、依頼人のほうが業者の過去に触れてくる話だ。ここは場面をふたつ足す必要がありそうで、どこに何を入れるかがまだ決められない。決まらないまま、週の後半になった。
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金曜の朝、手記の第十二回が出た。
『第十二回。鑑定のことを書く。
裁判所が鑑定を入れることになった。鑑定人には、大学で言語処理を研究している人たちが選ばれた。
法廷では、鑑定人が説明のために積字TRACERを動かした。原稿の言い回しがどの小説から来たのか、どの辞典のどの項目かまで、鑑定人はその場で画面をたどってみせた。
鑑定人は言った。生成AIでは、こうして出どころをたどることはできない。積字TRACERは、作った人があらかじめ決めた規則で動くだけで、自分では判断しない。勝手に続きの文章を作ることもない。したがって、積字TRACERが文章を出す工程に、生成は存在しない。ただし、言語の統計を扱う技術として、広い意味でのAIには当たる。
出版社側は、AIに当たるのなら規程に反するのではないかと反論した。鑑定人の答えは、かな漢字変換も校正ソフトも広い意味でのAIです、だった。そこまで含めるなら、かな漢字変換で書いた作品にも申告が要ることになる。この主張は、それきり続かなかった。
次回は、契約のときの話に戻る。黙っていたのはどちらか、という話だ』
積字TRACERが生成AIかどうかは、鑑定で決まっていた。
傍聴者のエッセイにも、この日のことが書いてあった。難しい説明は分からなかったが、下書きの文を入れると候補が並んで、いちばん上が原稿の文になっていく様子は、見ているだけで分かった、と。
週末の日間ランキングには、『ただのパッチワーク作品』『生成AIの定義なんてどうでもいい』という題が並んだ。『椿の坂』を読み返したという書き出しのものも一つあったが、ずっと下にあった。
第九話の方針は週末に決めて、週明けから書き始めるつもりだった。




