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第六章 生成は存在しない(一)争点

 二度目の所感のメールも、月曜の昼に来た。

 第四話から第六話はこれで進めます、とあった。足した場面には一行が付いていた。最初から構想にあった場面のように収まっています、とある。伏線に障らずにここまで足せるのは連作を隅々まで把握されているからだと思います、とも書いてあった。

 足す場所を決めたのは私で、途中の食い違いを直したのも私だ。褒め言葉は素直に受け取ることにした。細かい指摘の別添は、前回より薄かった。

 所感のメールを閉じてから、来年の秋の書店の棚を久しぶりに思い浮かべた。書店で見つけたら隣の知らない人に自慢する、と言ってくれた人とは、あれきりになっている。

 次は第七話から最終話までで、締切は再来月の末。第七話はほぼこのままでいい、と最初の面談で言われていた話だ。

 所感を読んだ日から、第七話の読み直しを始めた。遺品が古い定期券一枚だけの話で、PVは全話でいちばん少ない。直したのは呼び方の揺れと、言い回しが数カ所だった。直すところのない話は、それ以上いじらないことにした。

 第七話が済むと、第八話にどんな場面を足すかを考え始めた。


 ***


 金曜の朝、手記の第十一回が出た。


 『第十一回。裁判の中身に入る。今回は、何を争ったのかを書く。

 訴えたのは私だが、裁判の形の上では、私が証明することは多くない。契約があったこと、私が約束どおり原稿を渡したこと。そこまでで足りる。中止が正しかったと言うのなら、正しかったことを証明する義務は出版社の側にある。

 契約書には、本著作物が文筆家になろうの規程に適合していること、という条項があった。文なろの規程では、生成AIを使った作品には申告の義務がある。『椿の坂』の申告は、AI不使用のままだった。

 出版社の主張はこうだ。『椿の坂』は生成AIを使って書かれた作品で、申告は虚偽であり、規程に違反している。だから納められた原稿は、契約の求めるものではなかった。

 私は、生成AIを使っていない。申告は事実のとおりで、規程にも契約にも違反していない。争点は一つに絞られた。積字TRACERは生成AIなのか、違うのか。よく分からない道具で文章を作っていたのだからAIだろう、というのが当時の大方の理解で、出版社も変わらなかった。言葉で説明しても、平行線だった。

 次回は、鑑定のことを書く』


 瀬名彰久の裁判は、中止の正しさの証明を出版社が負う形で始まっていた。


 手記にあった契約の条項は、私の契約書にもある。ただ、こちらの文面はもっと長い。投稿サイト等で発表済みの場合、で始まって、改稿の部分までが申告のとおりであること、と続く。この春の判決のあとで、文面が変わったのだと思う。


 裁判の回が始まって、日間ランキングには当時の傍聴した人のエッセイが入った。平日の昼の民事の法廷なんて誰も来ない、自分を入れて傍聴席は数人だった、という書き出しで、手記に書かれていない法廷の様子を続きで書くという。


 週末までに、第八話に足す場面の方針が決まった。

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