第五章 藁(三)安堵
第五話の改稿からは、やり方が決まった。先に、どの場面とどの場面のあいだに何を足すかの方針を自分で決めてから、話を文冴クラウドに読み込ませる。返ってきた出力はそのまま使わず、手元の原稿と並べて、使える部分を自分の文に直しながら打ち込んでいく。出力に出てくる品物や言い回しが、あとの話の内容とぶつかっていないかは、打ち込みながら確かめる。
この形だと、決められないまま何日も止まることがなくなった。白紙から考えるのではなく、目の前の出力を直すだけで済むからだ。
第六話は依頼人のほうが業者を疑いはじめる話だ。ここは場面の追加ではなく、もとからある文の言い回しだけを直させた。会社が落ち着いている時期だったのも大きい。夜の執筆の時間を、まるまる改稿に使えた。順調だった。
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金曜の朝、手記の第十回が出た。
『第十回。裁判を起こすまでを書く。
中止の書面には、諸般の事情により、という理由しか書かれていなかった。書面で理由を尋ねると、諸般の事情を総合的に判断した結果です、という答えが来た。重ねて尋ねても、変わらなかった。
弁護士には、認められる賠償の額は大きくないだろうと言われた。それでも裁判にしたのは、納得できなかったからだ。諸般の事情という言葉は、法廷では通らない。中止の理由を、言わせることにした。裁判では、中止が正当だったことを出版社の側が証拠を挙げて主張しなければならない。
次回からは、裁判のことを書く。長くなるので、何回かに分ける』
瀬名彰久が出版社を訴えた、という見出しは去年見て、勝っても本が出るわけではないのに、と思った覚えがある。手記を読むと目的が分かる。裁判にしなければ、中止の理由は、諸般の事情という言葉のまま終わっていた。
改稿は第六話まで進んで、週末に通して読み直した。日付の計算も、別添の指摘の要領で見直した。
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週の半ば、改稿の第四話から第六話までを早坂へ送った。返事は翌朝に来た。
「拝受しました。早いですね。所感は週明けにお送りします」。
前回は締切の直前だったが、今回は余裕を持って提出できた。私の腕が上がったわけではない。文冴クラウドのおかげだ。使い始めたころは、小さな罪悪感があった。でも、生成AIではないから問題はない。なにより締切に間に合った。そう考えているうちに、これでいいと思えるようになった。
残りの話は半分になった。第七話はほぼこのままでいいと言われている。契約は、締切までのひと月だけのつもりだった。だけど、残りの話にも締切は来る。文冴クラウドがないと、間に合わない。解約はしないで、残りの改稿にも使うことにした。刊行までの見通しを、初めて最後まで立てられた。
提出した週末は、久しぶりに短編のことを考えた。通勤の電車で新しい話のネタを思いついて、手帳の後ろのページに書き足した。改稿が全部終わったら、短編を再開する。




