第四章 白状(三)答え終えた
金曜の朝、手記の第七回が出た。今回は読みそびれなかった。
『第七回。開発に使った生成AIの文章を、どう考えるか。
第一に、あれは積字TRACERのテストに使った文章であって、小説の材料ではない。読み込ませた文章から統計が正しく取れるかを確かめるためだけに使った。
第二に、あの文章は、もう積字TRACERの中にない。テストが終わってから、読み込ませてある文章は、著作権の切れた古い小説と類語辞典と表現集に全部入れ替えた。完成した積字TRACERに、生成AIの文章は一つも残っていない。だから、候補に出てくることもない。
第三に、生成AIを使ったのは積字TRACERを作る作業で、『椿の坂』を書く作業ではない。規程が申告を求めているのは、作品を書くことへの利用だ。
この件についてはこれで全て答え終えた。
次回からは、書籍化の話が来てから、なくなるまでを書く』
手記は答え終えたと結んでいたが、世間はそれでは収まらなかった。納得した人は黙って読者に戻り、納得しない人は『言い訳の作文』と書き、それ以外の人はよくわからないと書いた。
積字TRACERを作る作業と小説を書く作業は別だ、という最後の理屈に引っかかる人が多かった。作るときに使ったなら使ったことにならないのか、という反論は、感情の話としてよくわかる。この手記は、規程の話への回答にはなっているが、感情の話には触れていない。
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第三話の改稿は翌週の水曜の夜に終わった。木曜に全部を通して読み直して、金曜、締切の数日前に早坂へ送った。
返事は昼に来た。「拝受しました。週明けに所感をお送りします。この調子でお願いします」。
結局この一月、早坂のメールに改稿以外の話題は一度も出なかった。
安堵は思っていたより短かった。残りは九話ある。次は第四話から第六話で、同じ配分ならまた一月半かかる。刊行が来年の秋なら間に合う計算ではあるが、この計算には会社の忙しい時期が入っていない。
週明けには所感のメールが来る。直しの指摘と、次の締切が書いてあるのだろう。
提出した夜は、久しぶりに何も書かずに寝た。




