第四章 白状(二)契約書
土曜のうちに、エッセイの日間ランキングはほとんど瀬名彰久の話になった。
いちばん多い形は『やっぱり使っていた』だった。一昨年から怒っている人はほら見たことかと書き、手記を読んで怒り始めた人は、使ったことより黙っていたことを責めた。これまでの経緯をまとめたエッセイが一番読まれていた。そのまとめの中の瀬名彰久は、一年半かけて自白に追い込まれた人になっていた。
本人は静かだった。手記の更新はなく、感想欄は返信しないだけでなく、閉じられていた。
日曜は持ち帰った仕事と改稿で終わった。
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契約書は火曜に届いた。
厚みのある封筒に同じものが二部入っていて、一部に判を押して返す。印税率と部数の目安は、面談のあとに受け取った条件書のとおりで、締切の日付も変わっていない。条文の日本語は読み慣れない。甲と乙を頭の中で霜月書房と自分に置き換えながら、最後まで読んだ。
増刷のときの連絡、電子書籍の扱い、映像化の話が来た場合の窓口。自分に関係があると思えない条文ほど、丁寧に書いてあった。
保証という見出しの条文もあった。他人の権利を侵害していないこと、盗作でないこと、と並んだ中に、一行こうある。
「乙は、本著作物が投稿サイト等で発表済みの著作物にもとづく場合、乙が当該サイトで行った申告が事実であること、および改稿の部分を含む本著作物の全体がその申告の内容に適合していることを保証する」
当たり前のことが書いてあると思った。そのまま次に進んだ。判は最後のページに押した。朱肉を使うのは会社の書類以外では久しぶりだった。翌朝、近所のポストに入れた。
早坂からは水曜の朝にメールが来ていた。第三話の進み具合の確認と、提出後に細かい指摘が来るという予告だった。文なろの騒ぎには触れていない。こちらから触れる話でもないので、順調です、とだけ返した。
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水曜の有休は改稿に使った。
昼過ぎに文なろを見ると、『鍵のない棺』に感想が来ていた。第九話への誤字の指摘で、遺影が一箇所、遺詠になっているという。差出人は知らない名前だった。完結から半年あまり、いまも新しい読者が来て、誰にも気づかれなかった一字を見つけていく。礼の返信を書いて、その場で直した。
本文を直すだけなら、作品の設定は開かない。設定の画面にはAI利用状況の欄があって、新しい作品を出すたびに、いちばん上の不使用を選んできた。
第三話の続きに戻った。第三話は、どこに場面を足すかを先に決めてから書き始めていた。決めながら書いていた第二話までより、手が止まらない。夕方までに一場面を書き足して、有休一日分の元は取った。
木曜の夜、日間ランキングの上位に『霜月書房は知っていたのか』という題名があった。中身の見当はついた。読まずに閉じて、改稿に戻った。机の端には、手元に残したもう一部の契約書がある。霜月書房の社名と自分の名前が、同じ紙に並んでいる。




