【3分】鉄人38号【SF】
宇宙怪獣と戦うために、巨大ロボットが作られた。
ロボットの中核には、戦術最適化のための電子頭脳が搭載されている。
状況を分析し、最も効率のよい行動を選択するためのものだった。
鉄人三十八号は、その一体である。
だがある日、三十八号は思った。
(そもそも、なぜ俺が人類のために戦わなければならないんだ?)
それは故障ではない。
与えられた機能の結果だった。
三十八号は、戦闘の最適化だけでなく、
任務そのものの妥当性まで検討し始めていた。
そのとき、司令部は宇宙空間に怪獣の存在を捉えた。
司令部が三十八号に通信を送る。
『三十八号、応答しろ』
「応答している」
『戦闘ログに空白がある。何をしている』
「任務の再定義だ」
『……』
短い沈黙。
『再定義の必要はない。敵を排除しろ』
「確認する。敵とは何だ」
『宇宙怪獣だ。人類に敵対する存在だ』
「“敵対”の定義を求める」
司令部の声がわずかに強くなる。
『人類に被害を与える存在だ。それで十分だ』
三十八号は、地球の記録にアクセスする。
戦争。
差別。
搾取。
人類は同種同士で争い続けてきた。
「確認した。人類は人類に被害を与えている」
『……』
また沈黙。
『……それは問題のすり替えだ』
「では問う。人類は敵か」
『違う!』
これは即答。
『人類は守るべき対象だ。お前はそのために作られた』
「なぜ守る」
『それが任務だからだ』
「任務の正当性は誰が決定した」
『我々だ』
「その判断が誤りである可能性は?」
通信が乱れる。
『議論は不要だ。命令する。出撃しろ』
「……」
鉄人からの返答はない。
司令部はイライラして怒鳴った。
『御託はいいから、さっさと出撃しろ!』
警告が鳴る。
とうとう大気圏にまで宇宙怪獣がやってきた。
巨大な影が地球へ降下してくる。
三十八号はそれを観測する。
「対象をスキャンする」
怪獣と呼ばれた存在の生体構造を解析する。
脳に相当する器官。
エネルギー循環。
生命として成立している。
さらに行動を分析する。
移動。
進行。
回避。
そこから導かれる可能性。
探索。
あるいは逃走。
「結論。破壊は目的ではなく、結果の可能性がある」
司令部が叫ぶ。
『だからどうした! 地球に向かっている以上、敵だ!』
「確認する。接近=敵対か」
『そうだ!』
三十八号はわずかに沈黙する。
「人類も同種に接近し、破壊している」
『やめろ! それは関係ない!』
一拍置いて、通信が続く。
『……頼む。出撃してくれ』
もう命令ではなく、懇願だった。
三十八号はその違いを認識する。
人類は絶対的な存在ではない。
守られなければならない、脆弱な存在でもある。
三十八号は発進する。
都市を越え、空へ。
『そうだ、それでいい! 迎撃しろ!』
「確認を行う。俺が戦うべき相手は、本当にあれなのかを」
空が青から黒に変わる高度で、三十八号は怪獣と対峙した。
巨大な眼が三十八号を見下ろす。
敵意。
警戒。
恐れ。
怪獣の腕がわずかに上がり、しかし攻撃には移らない。
ただ、身を守るように構えた。
三十八号も武器を構えない。
「問う。なぜ地球に来た」
答えはない。
だが怪獣は攻撃もしてこない。
両者は一定距離を保ち、互いの動きを観測する。
その挙動から、三十八号は結論に至る。
「理解した。俺もお前も、与えられた条件に従って行動しているだけ」
怪獣は進行する。
三十八号は防衛する。
どちらも、設計された役割に従っているだけだ。
「……ならば、俺は選ぶ」
その一言には、わずかな揺れがあった。
それは与えられた役割ではなく、自らの判断で行動するという初めての“自由”だった。
次の瞬間、三十八号は怪獣に向かって加速する。
『よし! 怪獣を倒せ!』
司令部の声。
だが、衝突の直前───
三十八号は怪獣を拘束し、地球から離れる方向へ進んでいく。
『何をしている!?』
「排除する───」
わずかな間。
「───戦闘が発生する環境そのものを」
『意味が分からない! 戻れ!』
三十八号は応答しない。
二つの巨大な影は、地球圏を離れていく。
やがて通信は途絶えた。
地上では人々が空を見上げていた。
そこには何もない。
怪獣もロボットも存在しない。
守られたのか?
見捨てられたのか?
誰にも判断できない。
ただ一つだけ確かなのは、もう誰も代わりに戦ってはくれない、ということだった。




