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【6分】心を燃やせ! バリーブートキャンプ!【コメディ寄り】


 ある王国に、一度も負けたことがないアルトという王子がいました。

 彼は王家に伝わる『魔法のゲーム盤』を宝物にしていて、そのゲームで負けたことがなかったのです。


 このゲーム盤には、ある特殊な呪いがかかっていました。


『負けた悔しさを人や物にぶつけて壊そうとすると、そのイライラが呪いの熱となって本人を苦しめる』


 アルトはいつも勝ってばかりだったので、その呪いを知りませんでした。

 いつも勝っていたのは理由があります。

 周りの家来たちは王子のプライドを傷つけないよう、いつもこっそり手加減をしていたからでした。


「ザコ過ぎて話にならないな」


 アルトは手加減されていたことも知らずに有頂天でした。




 ある日、新しい教育係の老賢者がアルトの前に座りました。


「王子、今日は私がお相手しましょう。手加減は一切いたしませんぞ」


 結果はアルトの惨敗でした。

 老賢者の一手はあまりに鋭く、アルトは生まれて初めて敗北を突きつけられたのです。


「ずるい! 今のは練習だ! もう一回やり直しだ!」

「ザコ過ぎて話になりませんな」

「無礼者!!」


 老賢者の言葉にアルトは激昂し、盤を力任せに叩きました。

 その瞬間です。


 《カッ!!》


「あ、熱いっ! なんだこれ!?」


 アルトの体温が急激に上がりました。

 顔は真っ赤に腫れ上がり、耳からは蒸気が出るほど熱くなりました。

 あまりの熱さに、気分も悪くなってきます。


「それが呪いです、アルト王子。

悔しさを『破壊』で解決しようとした報いです。

怒りという暴れ馬が体の中で暴走を始めたのですよ。

このままでは王子自身が焼き尽くされてしまう」


 老賢者はニヤリと笑って、幻影を映す魔導具を起動しました。


 幻影として現れたのは、歯が真っ白に輝く筋肉の塊のようなマッチョマンでした。


「ハロー! 王子!

バリーブートキャンプ入隊おめでとう!

おっと! 怒りすぎてオーバーヒートしてるみたいだなぁ!?

負の心という暴れ馬に振り落とされて、火傷しそうな気分はどうだい!?」

「な、なんだお前は!?」


 幻影として現れたマッチョマンにアルトは困惑しました。


「俺はバリー隊長! 怒りを燃やす専門家だ!!」

「意味がわからない!」

「いいか王子!!」


 バリー隊長はビシッと指を突きつけます。


「その怒り! そのまま床にぶつけるな! 床は悪くない!!」

「いや知らないよ!」

「怒りはな───」


 ドン! と胸を叩きます。


「───燃料だ! ただし使い方を間違えると、ただの火事だ!!」

「火事!?」

「さあ、俺と同じように動くんだ!」


 そう言うと音楽が流れ始め、バリー隊長は音楽に合わせて奇妙なダンスを始めました。


「カモン! カモン!」

「なにこれ!?」

「いいから動け! プッシュ! プッシュ!」


 王子はしぶしぶ隊長のマネをします。


 でも動きはバラバラ。

 タイミングも合いません。

 それが余計にイライラしました。


「ドント・ストップ! 動きだけじゃなく声も出せ!」


 バリー隊長が叫びます。


「止まったら怒りが戻ってくるぞ! ワーキン! ワーキン!」

「ワーキン……」


 王子が小さく声を出します。


「足りん! そんな声じゃスライムも倒せん!!」

「スライム関係ないだろ!」

「いいぞ! その声だ! シャウト・イット・アウト!」


 隊長がドンドンと胸を叩いて王子を煽ります。


「イライラのエネルギーは動きに変えて放出しろ!」

「ワーキン!」


 王子は大きな声で叫び、隊長と同じように激しく動きました。

 呼吸も荒くなってきます。

 汗は滝のように流れ、全身から蒸気が吹き出しました。


「顔だけ怒っても意味ないぞ! その怒りは運動エネルギーに変えるんだ!!

アップ! ダウン! キープ・ア・ムービング!」


 だんだん動きが揃ってきました。

 呼吸も合います。

 すると体の中の熱が、外に出ていく気がしました。


「次は体をねじる運動だ! ツイスト! ツイスト!」


 王子も体をねじります。


「いいぞ! 押し切れ! フィール・ザ・バーン!」


 隊長が最後の仕上げにかかります。


「ラスト! 仕上げだ!

フォー、スリー、ツー、ワン、ヴィクトリー!!!!」


 終わった瞬間、アルトは床に大の字に倒れ込みました。


「どうだ王子? まだ何かを破壊したいか?」

「……ハァハァ……そんな……気力……ないっての……」

「それでいい!!」


 バリー隊長が親指を立てます。


「怒りは敵じゃない! 扱い方を間違えるなよ!!」


 バリー隊長は満足そうにうなずきました。


「また呼べ!! 俺はいつでも来る!!」


 光に包まれ、バリー隊長が消えます。


「……なんだったんだ、あいつ」


 後ろから老賢者の声がしました。


「感情の扱い方を知らぬ者に、最初に必要なのは体です」


 老賢者が続けて言います。


「怒りを頭で抑えようとしても無理です。まずは”上手く”外に出す方法を覚えてください」


 王子は力なく笑いました。




 その様子を、弟のテオと妹のメロディが見ていました。

 二人も魔法のゲーム盤は、兄であるアルト王子以外には負けたことがありません。


 周りの者には手加減されていたのです。

 しかし、老賢者にはあっさり負けてしまいました。


「クソッ!」


 テオは負けて癇癪を起こし、ゲームの駒を壁に叩きつけました。


 ガツン! と大きな衝撃音が響き渡ります。


 一瞬だけ気が晴れた気がしましたが、すぐにカッと体が熱くなります。

 物を壊して解決しようとしたせいで、テオはさらに激しいオーバーヒートに襲われ、心もドロドロに濁っていきました。




 一方、妹のメロディは元々おっとりしていたので負けてもマイペースに振舞いました。


「ふう、私はちょっと休むわ。冷たいアイスティーが飲みたいな」


 侍女にそう頼み、ふかふかの椅子に座ります。

 お気に入りの音楽を聴き、冷たいお菓子を食べて、心の熱が静まるのをじっと待つ。


 メロディのイライラ暴れ馬をなだめる方法は『自分にご褒美を与えてやり過ごす』というものでした。




 老賢者は三人を集めて言いました。


「遊戯というのは、勝ったとき相手を『ザコ』とか、バカにしてはいけません。

負けたとき、人や物を破壊してもいけません。

遊戯というのは、参加者が楽しくあることが最大の目的なのです。

自分だけが楽しもうとすると、周りの者には嫌われてしまいます。

そんな人間になりたいですか?」


「……なりたくない」


 アルトがぼそっと答えます。


「では負けた時の悔しさをどうすればいいのか?

負の感情の出口はたくさんあるので、自分に合うものを選ぶといいです。

ただし、周りの人や物を壊すやり方は嫌われるばかりか、結局、自分を熱く苦しくしてしまいます。

負の心というイライラ暴れ馬を、自分なりの手綱で乗りこなせる者が、この国で一番かっこいい王族になれるのですよ」




 数日後。アルトはまた負けました。

 視界が真っ赤になるほどの怒りが湧きましたが、彼はゲーム盤を叩きませんでした。


 すぐに魔導具のスイッチを入れます。


「ヒアウィーゴー!!」


 自分から大声で叫び、爆音の中でバリーブートキャンプを踊り始めました。


「ワーキン! ワーキン! ワーキン! ワーキン!」


 ひとしきり汗を流したアルトは、顔を真っ赤にして、熱さに耐えながら駒を握りしめているテオに声をかけました。


「テオ、お前もこのキャンプ入隊するか?」


 すると横からメロディが、冷たいゼリーを差し出しました。


「テオお兄ちゃんも一緒にゼリー食べる?」


 二人の呼びかけに、部屋を出て行こうとしたテオの足が一瞬だけ止まります。


「………」


 ほんの少しだけ振り返りそうになったものの、テオは部屋から出て行ってしまいました。

 彼はまだ、イライラ暴れ馬をコントロールすることが出来ませんでした。


「……ま、そう簡単にはいかないか」


 アルトは苦笑いして、汗を拭きました。

 彼はもう、自分の中の熱に焼き尽くされることはありません。


 負けた後に出てくる、イライラ暴れ馬。

 その暴れ馬に対する、自分なりの『手綱』を握っているからです。


 アルトはもう、勝っても負けても、誰かや何かを傷つけることはありません。

 遊戯は皆で楽しむものだと、ようやく理解したからです。

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