病欠
■ 本作について
本作は 世界観設定・アイディア構築・プロット立案・執筆の大半を著者自身が行っており、執筆の補助ツールとしてAIを活用しています。
■ 活用の具体的な範囲
AIを活用しつつも、自己規範にのっとり、執筆であることは放棄しない方針です。
興味があればこちらをご覧ください→ChatGPT活用の具体的なイメージ[https://note.com/makenaiwanwan/n/nc92cf6121eb3]
■公開済エピソートのプロットを公開中
「主体性・創造性・発展性・連続性」を確保している事の査証が目的です。
https://editor.note.com/notes/n52fb6ef97d70/edit/
■ AI活用の目的とスタンス
本作は 「AIを活用しつつ創作性を確保する」を模索する試みでもあります。
ただし、創作の主体はあくまで自分であり、物語の本質やキャラクターの感情表現にはこだわりを持っています。
また、すべてを自身の手で執筆される方々を心から尊敬しており、競合するつもりはありません。
「――ここまでが次のテストの範囲内よ。復習しておくことをおすすめするわ」
ソフィアが言い終わるのと同時、図ったように授業終わりのチャイムが鳴った。
教室内は途端に騒がしくなり、生徒たちは教科書を机に入れたり出したり、お手洗いに向かったりと、次の授業の準備を始めた。
「あー、まってよ! ソフィアせーんせっ!」
チョークの粉を手で払い、次のクラスへ向かおうとすると、大きなヤギ角と褐色肌の女子生徒が駆け寄ってきた。
「あら? どうしたのかしらヤミ子さん。授業の内容でなにかわからない箇所でも?」
「んー? 授業に関してはわからないところしかないから逆にだいじょうぶっ!」
「それは大丈夫とは言わないわよ?」
あきれた表情は分厚いレンズで遮られた。
「そんなことよりせんせっ! マスターはだいじょうぶぅ? 今日も学校来てないよね?」
ヤミ子は現役地下アイドルだけあって、声がよく通る。
「どうして私に聞くのよ……彼のおもりじゃないんだけど」
「えー。だってマスターは、まだせんせーの家に住んでるっしょ? せんせーに聞くのが一番じゃね?」
顔を向けて確かめるまでもない。教室内の生徒から向けられるいぶかし気な視線を感じた。
「ちょっと……こっちにきなさい」
「うぇ? せんせー?」
ヤミ子の手を引き急ぎ廊下へと向かう。ヒールが床を打つ音がやけに大きく響いた。
「もう……校内で誤解されるようなこと、言わないでくれる?」
「誤解って?」
ヤミ子は腕を組み小首を傾げた。その動きにあわせヤギ角にぶら下げられた割っかが、チャリンと鳴った。
強い香水の香り、はだけた胸元、多くのピアス。校則違反をひとつひとつ指摘していくときりがなさそうだ。
「世羅くんが居候してるとか……」
「事実じゃね?」
「そうだけど、わざわざ言わない! 誤解されるでしょ?」
「誤解て……なんのぉ? せんせーなんのこと言ってるん?」
ヤミ子はにやにやと笑ってみせた。
「そ、それは……なんというか」
余計なことを口走ったと後悔したが、遅かった。話題の軌道修整を試みる間もなく、ヤミ子がそっと耳打ちをした。
「てかさ……“誤解”ってなに? ふつうに……“事実”じゃね?」
「もうヤミ子さん!」
肩をつかもうとしたが、サッと身を引かれて取り逃した。
「せんせーそんなおこんないでよ! てかさ、別にあーしもヤッてるし? そんな気にしなくてもぉ」
「だから、もう黙りなさいっ!」
世羅とヤミ子は学生同士だが、ソフィアは教師だ。立場が違った。
「そもそも、学校では必要以上に絡まないって約束だったでしょ?」
世羅、ソフィア、ヤミ子に月乃。この四人にはある取り決めがあった。校内では無駄な接触を避け、クランであることを悟られないようにしようというものだ。
変異島のクラン法はその他の決まりの上位に位置し、どのようなクランに所属していても不当な扱いを受けない。法律上はクラン選択の自由は保障されている。
しかし、人の口に戸は立てられぬもので、一生徒に過ぎない世羅の配下に、教師であるソフィア、生徒会副会長の月乃がいるというのはバツが悪いのだ。
「そうだけどさぁせんせー。もうそんなの意味なくねぇ? あのライブ配信結構バズってたし」
ヤミ子も地下アイドルである以上、男の影は厳禁なのだが、もはや隠す気はなさそうだ。
数日前のアイアンメイデンとの決闘は、その日のベストマッチに選ばれた。世界中が視聴可能な配信として、堂々と流されてしまったのだ。
全人類が視聴済みというわけではない。だが、第三学園の生徒や教師が誰一人として見ていないはずもなかった。
噂になるのは時間の問題だろう。
「だからこそでしょ? ほとぼりが冷めるのを待つのよ。大人しくしていればすぐに忘れられるはずだから」
とはいえ噂は噂に過ぎない。そんな事実はなかったかのように振る舞っていれば、ほとぼりは冷める。
人は他人に、真には興味がないものだ。それがソフィアの持論だった。
「おふたりでなにされてるんですか?」
「あっ、月乃っちぃ!」
聞き覚えのある声が、後ろから飛んできた。ヤミ子がさっと半歩横にずれて、そちらへ向けて「やほー!」と手を振る。
「月乃さん。こんなところにどうしたの?」
ここは一学年の教室が並ぶ校舎で、二年生の彼女が用件もなく来る場所ではなかった。
「氷室先生を探してました」
「私を?」
「世羅くんの容態はどうですか?」
「はぁ……あなたまで……」
「?」
「きぐー。あーしも同じこと聞いてたんよー」
腰に手をあててため息をひとつこぼす。
「そんなに心配しなくても大丈夫よ。学校には来ていないけれど、バイトには毎日行っているみたいよ?」
「えぇ⁉ そうなんですか⁉」
思いがけない言葉に月乃は目を丸くした。
「まぁ怪我が原因で学校に来ない訳じゃなくて、疲れたからって理由だもの」
変異体は回復が早く、病気にも強い。高濃度の放射線下でも長時間行動できる、つまり“頑丈”だ。
さらに欲望強化状態にあるうちは治療因子の働きにより、怪我は即治る。肉体的にはピンピンしている。
ただし、何事にも燃料は必要で、欲望強化の燃料は欲望そのものだ。
彼は一発抜いた後のような疲労感に包まれている。いわゆる“賢者タイム”に近い状態だろう。
「むぅ……授業には出れないけど、バイトには行くんですね……」
「しょーがなくねぇ? マスターあんだけ頑張ったわけだし?」
「ですが、学生の本分とは仕事ではなく勉強じゃないですか? そうですよね先生?」
月乃もヤミ子のフォローを否定する気はなかった。世羅にゆっくり休んでほしいと考えていたからだ。
だが、無理をするならするで、優先度を間違えているのではないかと思ってもいた。
「まぁ……そのとおりではあるわね……でも……」
ソフィアはメガネを整えつつ言葉を続けた。
「あの子、また借金が増えたのよ」
月乃はさらに目を丸くした。
「どうしてですか? アイアンメイデンから奪ったスコアで返済って話でしたよね?」
「予定ではそうだったわね。でも、誤算がふたつあったの」
ソフィアが腕組みをし、窓の外に視線を向けるのと同時にヤミ子が口を開いた。
「スコア足りんかった?」
「平たく言うとそうね……急な話だったしあのクランがどれだけのスコアを貯め込んでいるのか調査してた訳じゃなかったし」
決闘に勝利すれば相手のメンバー、所有スコアなどを奪う権利があたえられる。
名誉のため、あるいは雌雄を決するための純粋な決闘は、むしろ珍しい。
欲しいものがあるから奪いとる。その本質は戦争に近い。
だから、仕掛けるのであれば綿密な準備が必要である。相手の構成、人数、戦力、弱みに至るまで分析し、必要であれば諜報まで行う。
最も重要なのは、リターンが見合うかどうかだ。負ければすべてを失う。敗北時の算段など必要ない。
とはいえ、今回は仕掛けられる側だったこともあり後手に回った。アイアンメイデンの動きも早かった。
世羅はソフィアに、人数差を覆す戦術の立案とその準備を命じた。彼女はそれに応えた。
スコアという面では期待外れではあったが、それは世羅が考えるべきことで、自分には関係ないことだと、彼女は考えていた。
「あてが外れたと……それで借金。どれだけ残ってるんですか?」
鬼化していたときの形相と、うって変わって月乃は不安げな表情を浮かべた。
MONOLITHの終了宣言の後も、月乃は鬼の姿のまま、世羅に食って掛かっていた。
しばらく痴話喧嘩のような問答が続いた後、鬼化は解けた。ただ、彼女の着衣はすべて燃え尽きていたためもう一悶着あったが、詳細は省こう。
「700万スコアらしいわ」
「なんでなん⁉ 増えてるし! 最初500万スコアって言ってたよね⁉」
ヤミ子が驚きの声を上げたが、その音は休み時間の騒々しさにかき消された。
「そうね……アイアンメイデンから奪ったスコアで満額は無理だったけれど大半は返済できたみたいなのだけれども……ね?」
「ふたつ目の理由ですか?」
「そういうことね。あの決闘で破壊したドローンやインフラの賠償を要求されたらしいのよ」
「まじで? 誰に? なんで⁉」
「決まってるでしょ。MONOLITHよ」
「うげぇ⁉ さいあくー‼」
「ちょっと、まってください。決闘における被害に関しては罪に問われないはずでは?」
「決闘法ではそう定められているんだけれども……今回は例外らしいわよ」
人の生は戦いの連続だ。それは進学や恋愛、仕事にわたる、広い意味での話である。
しかし、変異島にとっての戦いとはシンプルに暴力であり、つまり決闘だ。
島のルールもインセンティブも、すべては決闘に向けられている。戦うことだけに集中できるよう、決闘中の被害はMONOLITHがすべて請け負うと定められている。
「例外……ですか?」
何事にも例外はある。超法規的措置というやつだ。
「あの子……一体どういった手段を用いたのかは知らないけれど、本来の縛りを超えて力を発揮しちゃったみたいね? チートに手を出したといえば、いいのかしらね?」
月乃の表情が曇った。対峙したものにしかわからない圧倒的な力。次元が違うと言っていい。ソフィアの「チート」という表現に、妙な納得感を覚えた。
「マスターかわいそ。戦い損じゃん」
ヤミ子はやれやれとばかりに肩をすくめて言った。
「はたしてそうかしらね?」
即座に否定すると月乃とヤミ子は顔を見合わせた。
「結局、彼は“欲しいモノ”を“手に入れた”んだから。ただ働きだったのは私たちだけでしょ?」
腕を組んで吐き捨てる。うっすら目を閉じると、今朝もベッドをともにした少女のような少年の顔が思い浮かんだ。
憎たらしくも、愛らしい、我らがクランマスターのご尊顔。
「あー……そういやそっかぁ」
ヤミ子が納得したのかポンと手を叩き、月乃は「たしかに」とため息をついた。
「焼き肉でも奢って貰おうかしらね?」
「いいじゃん! JUJU苑にしよ! クソ高いやつ!」
「いいですね。わたくしのほうで予約しちゃいますね。もちろん主どのには無断で!」
いつの世も謝罪とは焼肉によって行われるものだ。少なくとも彼ら彼女らの間ではそうであり、値段は高ければ高いほど良い。
700万の借金を背負った世羅にとっては、車に跳ねられた後に転んだ程度のもの。もはやあっても無くても変わらないだろうか?
いや、そんなことは無く、人を必要としないはずのコンビニで数日分の人生を切り売りする必要がある。
だからこその謝罪と呼べる。
野菜など取らず、ひたすら霜降りだけを注文し続けましょうと算段する三人娘。その談笑を、予鈴がかき消した。
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