モーニング
■ 本作について
本作は 世界観設定・アイディア構築・プロット立案をすべて著者自身が行っており、執筆の補助ツールとしてAIを活用しています。
■ 活用の具体的な範囲
自己規範にのっとり制作という一面はありつつも執筆であることは放棄しない方針です。
興味があればこちらをご覧ください→ChatGPT活用の具体的なイメージ[https://note.com/makenaiwanwan/n/nc92cf6121eb3]
■公開済エピソートのプロットを公開中
「主体性・創造性・発展性・連続性」を確保している事の査証が目的です。
https://editor.note.com/notes/n52fb6ef97d70/edit/
■ AI活用の目的とスタンス
本作は 「AIをどこまで活用できるか?」を模索する試み でもあります。
ただし、創作の主体はあくまで自分 であり、物語の本質やキャラクターの感情表現にはこだわりを持っています。
また、すべてを自身の手で執筆される方々を心から尊敬しており、競合するつもりはありません。
ピピピピピ――……。
薄暗い室内に、無機質な電子音が鳴り響く。
打ちっぱなしのコンクリート壁に反響して、目覚まし音はやけに甲高い。
「ん……」
この部屋の主、氷室ソフィアは、目覚まし音を無視するように毛布を胸元まで引き寄せた。
現実を拒み、目覚めを拒否し、布団のぬくもりにしがみついている。
――ピピピピピ。
「はぁ……起きなきゃ……」
目覚ましは、もちろん勝手には止まらない。
ソフィアは小さく息を吐き、意を決して目覚めることにした。
ゆっくりと上体を起こす。その動きにあわせて、毛布が肌を滑って落ちていく。
しっとりとした柔肌に沿ってずり落ちる毛布は、豊かな乳房で一度せき止められたが、やがて重力に従うと――彼女の胸元が露わになった。
「世羅くん。朝よ……起きて……」
気だるそうに声をかけるソフィア。
すぐ隣の布団のくぼみに、世羅は背を向けるように寝ていた。
寝癖のついた髪があらぬ方向に跳ね、腰にかかるシーツには彼の熱がまだ残っている。
呼吸はゆっくり、微かに寝言のような唸りも混じっていた。
「……あと五分」
顔を伏せたまま、もぞりと身をよじって答える世羅。
その反応に、ソフィアは少しだけ口元を緩める。
何時も掛けている曇り眼鏡は、サイドテーブルの上に置かれていた。
露わになった切れ長の目はクールで知的。
ただでさえ魅力的な肢体を、一層際立たせている。
「だめよ……遅刻しちゃうから」
ぐずる子供を諭すように、ソフィアがやさしく言った。
「……まだ眠いんだよ」
だが、世羅の“ぐずり”は、母親に返す子供のそれではない。
女に縋る男の甘え。低くくぐもった声で、彼は背を向けたまま言い返す。
ソフィアは世羅の“担任”でありながら、いまや日常生活を共にすることもある関係だった。
教室では教師として振る舞いながらも、家ではこの通りである。
「私だって眠いわよ……」
「……お前の五倍は眠い」
無意味な台詞をぼやく世羅。ソフィアが口をとがらせた。
「遅刻しちゃうわよ?」
「……一向にかまわない」
「私は構うの……私は教師なんだからね?」
「……バイトで疲れてるんだ」
声だけで、彼の顔は見えない。
“疲れ”の理由がバイトのせいだけでないのは明白だった。
「じゃあ、昨晩……“あんなこと”しなきゃ良かったのに……」
ソフィアはそう言いながら、そっと頬を染めた。
しかし、世羅は即答した。一切の後悔を含めず淀みなく。
「“ソレ”は“ソレ”、“コレ”は“コレ”だ」
どんなに疲れていても……いや、疲れているからこそだ。
男の性欲は肉体の健康に依存する。
世羅がどれだけ歳を重ねていようと、“肉体が若ければ”枯れることはない。
「もう! 起きてっ! 朝食の準備をするからっ! アナタは居候なんだからねっ!」
シーツを引っぺがすソフィアの声は、微かに怒りの込もったものであった――本気である。
共有していた毛布をめぐる攻防は数度続いたが、最後に勝ったのはソフィアだった。
グイっと一気に引き寄せた拍子に、世羅の体から布が剥がれる。
ブラインドの隙間から差し込む朝日が、ベッドの上を優しく照らした。
白いシーツの上に、何も纏わぬふたつの裸体が並ぶ。
朝の光を浴びたソフィアの肌は淡く輝き、肩にかかる金糸のようなブロンドは強く輝く。
そして、その隣で露わになっている世羅の身体に、ソフィアはちらりと視線を落とす。
彼の顔は、相変わらず美少女そのものだった。
ソフィアにも美に対する自負はあるが、それがなければ嫉妬していたかもしれない。
そう思えるほどに、彼は整っていた。
寝ぼけた表情でさえ絵になる、しなやかで中性的な顔立ち。
だが、首から下を見れば、その印象は一変する。
筋肉質で、すらりとした胸板に引き締まった腹筋、適度に発達した腰まわり。
骨格はしっかりしていて、脚のラインや鎖骨まわりに至るまで、どう見ても“男”の体だった。
(……やっぱり、男の子なのよね)
そんなことは、昨晩も、それ以前にも、何度となく思い知らされているはずだった。
ソフィアは暗闇の中、世羅に身を委ねた時間を思い出す。
そうすることで、目の前のギャップがいっそう際立って見えた。
*
シャアアアア――……。
昨晩の汗と熱を洗い流すために、二人は順番にシャワーを浴びた。
先に浴びたのはソフィアで、次に世羅。
世羅がバスタオルで濡れた髪を拭いていると、部屋の隅――倉庫造りの室内ゆえに、仕切りのない簡素なキッチンスペースから、甘く香ばしい匂いが漂ってきた。
焼きたてのパンと、ハーブの混じった何か、どこか異国の家庭料理を思わせる香り。
「私は先に行くから、あなたは後から登校してね?」
ソフィアは玄関先でヒール付きのパンプスに足を通しながら、振り返って言った。
“何でもあり”の変異島とはいえ、担任とその教え子が同じ家から登校するのはさすがに“常識”から外れている。
それを理解していない彼女ではない。
だからこそ、登校時間をずらすという最低限の“隠蔽工作”だけは行うつもりだった。
「あぁ、わかった……が……これは何だ? お粥か?」
「カーシャだけど?」
「これがそうか。たしか、ロシアの家庭料理だったな」
「……そう、ね……」
“ロシア”――その地名を、あまりにも自然に世羅が口にしたことに、ソフィアはわずかに目を伏せた。
それは、彼女の母親の故郷。
だが、変異島に暮らす者たちにとって、国という概念はとうの昔に意味を失っている。
この島にあるのは、“内”と“外”の区分だけ。
外にある人種や言語の違いなど、学校でも教えられることはない。
変異体として生涯を島で終える者にとって、それらは知る必要のない情報とされている。
だからこそ、あの一言が、ほんのわずかに心の底に引っかかった。
「ねぇ、世羅くん?」
「なんだ?」
「あなたは“外”について詳しすぎる。もしかして……“外界”から来たの?」
問いかけたソフィアの声には、探るような気配が混じっていた。
だが、世羅はあっさりと答える。カーシャを頬張りながら、世間話でもするかのように。
「そうだが? 言ってなかったか?」
「聞いてないわよ! どういうことなの? その歳で? そんなことが、あり得るの?」
玄関先でヒールに足を通していたソフィアの手が止まり、わずかに体が硬直した。
「お前のことだから、その程度は調べていると思っていたがな」
ソフィアの武器は知略であり、情報を専門とする。
対象を分析し、プランを立てて実行する――それが彼女の戦い方だった。
そのことをよく理解している世羅は、素直な感想としてそう口にした。
「……」
ソフィアは世羅の言葉に応えあぐねた。彼女は何も調べなかったわけではない。
実際には、調べようとして“できなかった”のだ。
世羅のクランに加わる以前であれば、彼の素性を探るのは難しくなかっただろう。
しかし、彼の“支配”に下った今となっては、そうもいかない。
クランマスターの個人情報は、MONOLITHの判断により保護される。
所属メンバーが内部からそれを閲覧することは、基本的に許可されていない。
それはクランマスターに与えられた“特権”のひとつだった。
にもかかわらず、世羅はその情報をあっさりと口にした。
警戒心の強い彼にしては珍しいことだったが、それも当然かもしれない。
ソフィアは、すでに彼の“支配下”にある存在。
クランという主従の枠の中において、彼女は“内側の人間”として扱われている。
だからこそ、“隠す必要もない”と判断されたのだが――これは、信頼とはまた違う。
あくまで“構造上の関係性”によって、彼女は特別扱いされている様に見えるかもしれない。
だが実際には、世羅なりの“覚悟”があった。
彼は一度、“彼女を独占する”と決めた以上、自身が背負うものを無闇に隠すつもりはなかった。
だからこそ、彼女の問いにあっさりと応じたのだ。
「ソフィア。お前も似たようなものじゃないのか?」
「!?」
短い一言に、ソフィアはハっと我に返る。
「そっくりそのまま返すぞ? ずいぶんと“外”について詳しいじゃないか……?」
世羅は顔を上げずにそう言いながら、残ったカーシャをゆっくりと口に運ぶ。
飄々とした態度は変わらず、この話題が特別なものではないかのように。
「それとな。いいのか? のんびりしてて……遅刻するぞ?」
ソフィアは肩を竦めるようにして、ため息をひとつ吐いた。
ヒールの音を軽く鳴らしながら、不意に壁のウォールラックを指差す。
「……帰ったら、詳しく聞かせてもらうからね? 合鍵はそこにあるから。鍵は閉めて出てね?」
そう言って踵を返しかけて、もう一度だけ振り返る。
「でも。ココに帰ってきて敷地内に入る時は、私に一言連絡すること。防犯システムがオンのまま踏み込んだら……どうなっても知らないわよ?」
ここまで彼女は一息で言い切ると扉を開け、外に出た。
ドアが閉まる直前――
「了解だ」
世羅が静かに呟く。
その言葉は扉に阻まれ、ソフィアに届くことはなかった。
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