表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/77

(島津騒動)13

 佐多宗次は巧みに兵を入れ替え、崩れるようとする穴を塞いだ。

内側で疲弊した者達を休ませ、負傷者の手当も行わせた。

宗次としては、隙を突いて脱出する心積もり。

それが分かるのか、兵達も宗次の用兵に良く応えた。

士気に乱れはない。

 ところが、敵方の新手出現が全ての希望を打ち砕いた。

和仁氏勢の後方から、伏兵を置いていた隘路から現われたのだ。

旗指物は肥後の国人衆のもの。

一つ、二つ、三つ。

甲斐氏、山鹿氏、有働氏。

何れも元一揆勢だ。

族滅させられた筈が、和仁氏のように生き延びていた。


 宗次は理解した。

計ったつもりが、敵の手の平の上で踊らされていた、と。

脳裏に一つの名前が浮かんだ。

白坂栄山。

伊集院家の客将の一人だ。

 彼は、紀伊根来寺の僧侶であった時期に、

織田氏や羽柴氏と散々遣り合ったという。

僧侶というより、根来鉄砲隊や斬り込み隊を率いて奮戦した事で、

広く知られていた。

しかし、進退が見事だっお陰で、両家からの手配はない。


 宗次は理解が深まると疑問が芽生えた。

人づてだが、皆が皆、公儀は徳川家仕置きで混乱していて、

西に構うゆとりはない、そう噂していた。

実際に公儀は、目に見える有効な手が打てていなかった。

大殿周辺もそれを事実として認識していた。

 今回の仕儀になって初めて別の面が見えて来た。

肥後の国人衆の兵卒の装備だ。

真新しいではないか。

族滅を逃れたのは分る。

が、果たしてこれだけの装備を揃える金銭が有ったのだろうか。

没落したにしては摩訶不思議なこと。


 導かれる答えは一つ。

彼等の背後に何者かは分からないが、金主が控えている、と。

それは伊集院家ではない別の誰か。

伊集院家の懐具合は、元同僚なので分る。

自家で賄うのに汲々としている筈だ。

 おそらくだが、肥後の国人衆の存在から察するに、

肥後の大名、小西行長あたりではなかろうか。

我が家に出入する商人から、蓄財に長けていると聞いた。

商家の生まれだけに商売に通じていても少しもおかしくはない。

ただ、小西家の独断だとは思われない。

断り切れぬ相手からの要請がなければ動かない筈だ。

それは公儀、否、それはない。

あればその周辺から漏れ出る。

公儀に関わる者が多く、秘密裏に動くのは難しい。


 豊臣家か。

否、幼い上様にそのような事が出来るはずがない。

だとすると、上様の周辺の誰か。

かつては黒田如水がいた。

しかし、現在は御掟破りでで逼塞していた。

となると安国寺恵瓊あたりか。


 とっ、目の前の肥後勢の様子がおかしい。

左右に分れ、退き始めた。

和仁氏のみならず、甲斐氏も、山鹿氏も、有働氏も。

隘路への障壁が消えた。

まるで、通れ、とでも言わんばかり。

宗次には、彼等の魂胆が読み切れない。

 背後からの報せ。

「丸目勢も退き始めました」

 砦から出撃して来た丸目藤兵衛率いる守兵だ。

それも左右に分れながら退き始めた。

それだけではなかった。

替わるように鉄砲隊が進み出て来た。

彼等の背に翻るのは伊集院家の旗指物。


 全ての肥後勢が退いたのは、鉄砲の流れ弾を警戒してのこと。

そう宗次が気付くと同時に轟音が聞こえた。

四段構えで、二百を超える鉄砲が間断なく放たれた。

五十近くに減った宗次勢には過度な馳走であった。

 供回りの者達が躊躇いなく行動した。

宗次の盾になるべく殺到した。

盾を持つ者は少ない。

多くは射線に身を晒した。

「お逃げ下さい」

 宗次は目で、僅かな隙間を潜り抜けた弾丸を捉えた。

丸い弾がゆっくり飛来した。

それでも避ける暇はなかった。

頬に痛撃。


     ☆


 御掟破りの主犯、徳川家康は大坂屋敷で謹慎していた。

従犯の者達は公儀から何ら沙汰は下されていないものの、

自主的に国元や上方の屋敷で逼塞していた。

そんな中、一人だけが目立つ動きをしていた。

伊達政宗。

弁明や謝罪と言いながら、活発に動き回っていた。

都や堺にまで足を伸ばして有力者に面会。

摂家や公家から社寺、豪商、茶人、歌人、連歌師等々。

彼等に公儀への取り成しを頼んだ。

その臆面のなさは、流石は伊達者、と評判になるほど。


 堺から戻った政宗は溜まった書類に目を通していた。

国元の書類は筆頭家老、片倉景綱に任せていたので、

書類はここ大坂屋敷と伏見屋敷の書類だけであった。

それでも留守が長かったので思いのほか溜まっていた。

まず裁可を必要とする書類から片付けた。

 執務室に近付いて来る足音に署名する手を止めた。

最近は足音で誰かが分った。

宮内右近。

政宗が抱える忍び衆、黒脛巾組、その組頭の一人だ。


 廊下に控えている近習の声が聞こえた。

「宮内、先触れがない。

事情は知らんが、通す事はできん」

「申し訳ございません。

事は緊急だと判断し、こうして罷り越しました」

 宮内の組は大坂屋敷と伏見屋敷詰め。

上方の状況を具に調べ、国元へ報告するのが主任務。

政宗が太閤殿下に屈して以来、この仕事に従事しているので、

その手腕は仇や疎かには出来ない。


 政宗は室内から入室許可を出し、挨拶もそこそこに訳を聞いた。

「珍しいな、慌てているように見える。

何か出来したのか」

「戦です。

島津家が伊集院家へ兵を出したそうです」

 雪が・・・。

あれで雪と言っていいの、かな。

・・・。

でも今冬の初雪、ですね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
面白い 島津視点ではわからない裏で一体何が起こっていたのか気になります
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ