(島津騒動)12
佐多宗次は大物見を装い、百余を率いて伊集院領に侵入した。
戦の切っ掛けを得る為、色々と誘いを掛けたが、
押し出して来る様子が見られなかった。
そこでこちらから出向いた。
ただ、佐多家の旗指物では警戒されるので、
配下の旗指物を借り受けた。
大殿は、一本の矢でも射かけられたらそれで良い、
そんな口振りだったが、事はそう単純ではない。
公儀に届ける書状には死傷者がほどほど必要であろう。
それは敵でも味方でも構わない。
高名な者が含まれていれば尚よし。
宗次の目的はこの先の砦にあった。
旗印は伊集院家の物だが、砦の守将は所謂、客将。
丸目藤兵衛。
肥後の兵法家、丸目長恵の一門の人。
得手は槍と薙刀。
それがどういう経緯かは知らぬが、伊集院家に身を寄せていた。
兵法家、丸目長恵の名前は上方でも知られていた。
その一門であれば、敵方死傷者の筆頭に相応しいだろう。
宗次は大物見から一転、その砦に攻め寄せた。
しこたま矢を射込んだ。
銃も使った。
しかし、砦の門は閉じられたまま。
防御に徹し、迂闊には乗ってこない。
矢を射返すのみ。
そこで宗次は搦め手に出た。
兵に命じて、しこたま罵声を浴びせた。
無い事、無い事をさも有ったかのように浴びせた。
しかし、反応が悪い。
であればと、丸目一門を罵らせた。
すると予想通り、門が開けられた。
守兵がドッと押し出して来た。
宗次は適度にあしらいながら兵を退かせて行く。
あからさまだと、島津家お得意の、釣り野伏だと分かる。
そこでそうならぬよう、兵の人選には気を配った。
猪武者達を殿軍とし、餌とした。
それに敵が喰い付いて来た。
殺到する敵兵の数は優に百を超えていた。
騎乗は二十七騎。
その一騎を見て宗次は喜んだ。
藤兵衛は知らぬが、丸目長恵は見知っていた。
鎧姿だが、醸し出す雰囲気がその丸目長恵に似ていた。
おそらくあれが丸目藤兵衛であろう。
薙刀を自在に揮い、邪魔する猪武者達を斬り捨て、
馬を急がせていた。
自分を罵られたのなら無視できても、
一門を罵られたら無視は出来ないのだろう。
その落とし前として、寄せ方の将の首を狙っているのは明白。
後方の隘路、その左に伏兵を置いていた。
宗次はそちらへ兵を退かせて行く。
猪武者という餌が美味かったのか、
砦から出て来た守兵の喰い付きが良い。
勢いのままに追って来るその姿は、
疑いを振り捨ててるようにしか見えない。
それを確認して宗次は戦術を切り替えた。
これ以上の味方犠牲は不要だろう。
供回りと共に殿軍となり、敵を引き付け、誘導して行く。
特に藤兵衛を逃さぬように引き付けた。
供回りの一騎が宗次に馬を寄せて来た。
後方を指し示した。
「殿、あれを」
隘路から砂塵と白煙が上がっていた。
伏兵を置いていた隘路だ。
戦闘中なのは明らか。
直ぐに察した。
釣り野伏りを仕掛けたつもりが、敵が一枚上手だった。
事前に把握されていたとは。
宗次は臍を嚙んだ。
隘路から一群が出て来た。
百を軽く超えていた。
彼等の旗指物に驚かされた。
肥後の国人衆、和仁氏の物ではないか。
肥後国人一揆で族滅させられたと聞いていた。
その和仁氏の旗が翻っていた。
偽りか、何の為に。
宗次は和仁勢の先頭の武者を見て、それが本物だと知った。
騎乗の武者の偉丈夫ぶりが和仁氏を証明していた。
見事に南蛮の血を受け継いでいた。
惚れ惚れする体躯に異相の顔。
だとすると年齢的に和仁親宗の弟だとしか思えない。
一体なにが、何が起きてる。
日向だったら分かる。
地元だからさもありなん。
しかし実際には、日向の国人衆の旗指物はまだ見ていない。
同じ日向のど真ん中に佐土原島津家があるのだ。
その目を掻い潜って伊集院家に味方する事は有り得ない。
佐土原島津家の存在に胡坐をかき油断していた。
よりにもよって肥後国人衆の旗指物が目の前で翻っていた。
丸目藤兵衛も肥後だが、
それ以外の参戦は全く聞かされていない。
当然、敵の数に入っていない。
と言うか、伊集院領の守りが固く、忍びを入れる事は適わなかった。
異相の顔に笑みが浮かんだ。
馬上で槍を振り上げた。
「袋の鼠だ、存分にやれ」
和仁氏勢が鬨の声を上げた。
距離が近いので矢合戦はない。
槍衾を作って押して来た。
間合いを置いて騎馬三十余。
宗次は気を取り直した。
最期まで分からないのが戦。
冷静に指示を下した。
「円陣を組め。
盾と槍は前列、中には弓と手傷を負っているものだ」




