↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/122

(島津騒動)11

 佐多宗次が諫めると島津義久は嬉しそうな顔をした。

「宗次よ、儂を諫めてくれるか。

良き家来を持ったな。

・・・。

島津は伊集院と太い絆で結ばれる。

普通であれば誰もがそう思う。

しかし、伊集院忠棟がなあ。

・・・。

忠棟は武も文も申し分ない仕事をしてくれた。

得難い奴だった」

「でしたら」

「忠棟の目は常に上と外に向けられていた。

薩摩島津、豊臣、そして公儀の面々。

筆頭家老であれば、それだけではなかろう。

当主の代わりに下も見るものだ。

下を乱れなく一つに取り纏める。

国人衆や地侍共だ。

どちらかと言うと、下を取り纏めて欲しかったな。

外の事は、出来る奴を引き上げて耳目とし、

小難しい事は義弘や豊久に任せても良かった。

・・・。

その下の者達から伊集院を批判する声が出るようになった。

それが日増しに大きくなって来た。

ここ最近は重臣の者も口にするようになった。

お主もその辺りは気付いていた、そうではないか」


 宗次も忠棟が批判されている事は耳にしていた。

当初は軽輩や外様者が多く、さして気にも留めなかった。

一呼吸入れて頭を下げた。

「言葉もありません」

「よいよい、政は正しい正しくないではない。

塩梅なのだ。

どちらに傾くかは誰も知らん。

その辺りはお主も分っているだろう」

「はい、すると大殿は決断なされたのですな」

「取り潰すしかなかろう。

忠棟一人で終わらすつもりはない。

禍根を絶つため、伊集院家そのものを処断する」

「義弘様には」

「直ぐに文を出すが、返事は求めぬ」


 語り終えた宗次は宗成の見遣った。

酒のせいか、顔色が赤みを帯びていた。

宗次と視線が絡むと軽く逸らした。

何か思うところがあるのだろう。

虐めるように尋ねた。

「言いたい事があれば吐き出せ。

貯め込むと腹が腐るぞ」

 宗成は酒を飲み干して、空になった湯飲みを床に置いた。

「ふう、わかりますか」

「何年の付き合いだと思う」

「ですな。

・・・。

父上、大殿がその程度で取り潰されるとは思えません」

「ほう、それは」

「何がしかの口外できぬ理由があるのでしょう」


 宗次は興味を持った。

確かに、その程度の理由だ。

伊集院家が島津家に尽くした功績は多大。

それらを打ち消して族滅するには弱すぎる。

と、なると・・・。

 宗次は宗成を見直した。

これまでは好きにやらせていた。

上方気質と計算高さには目を瞑った。

交友範囲にも口を出さなかった。

何事も学び、そう思ってのこと。

すると驚いた事に豊臣家の官吏達とも親しくなっていた。

蔵入地の官吏の寮の酒宴に招かれる事も度々。

そこで何やら仕入れたのか。

「口外できぬと申すか」

 宗成は思案している様子。


 宗次は覚悟を決めた。

「他には漏らさぬ。

お前の言葉がこの部屋から出る事はない」

 宗成は頷いた。

「分りました、これには先例があります。

昔の話です。

源頼朝様とそのご舎弟、義経様、その仲違いの末のあれです」

 それで宗成は口を閉じた。

後は察しろ、の色。

頼朝と義経の仲違い。

平家討伐を成し遂げた義経だが、兄の頼朝には嫌われた。

嫌われた理由には諸説あった。

この島津家は源平合戦の頃よりのお家なので、

その辺りの事情は口伝で伝えられていた。

中でも最も真実味があるのが、

義経が頼朝の許可なく、朝廷よりの任官を受領した事にあり、

との伝承。

 確かに。

義経の真意はどうあれ、傍目には義経は頼朝の家来なのだ。

家来が頼朝の許可なく受領するのは筋違い。

何であれ、頼朝の面子を潰した事になる。


 伊集院忠棟は太閤殿下からの朱印により、

都城八万石を与えられた。

島津家でその経緯に詳しいのは大殿、義弘様、忠棟殿のお三方。

しかし誰一人として詳細を語ろうとしなかった。

漏れ聞こえたのは、取り繕った上辺の言葉だけ。

宗次は不審に思ったが、聞くのが躊躇われた。

剣呑な雰囲気が感じ取れたからだ。

 あれから五年ほど。

太閤殿下がご逝去された。

徳川殿は大老を解任された。

公儀はその徳川家への対応に苦慮していて、

有効な手が全く打てていない。

為に、西へ向ける視線が緩いように見受けられた。

大殿はその様子から、伊集院家討伐を決意されたのだろう。


 宗次は深く理解した。

しかし、言葉にはしない。

黙って宗成に酒を勧めた。

「朝まで飲むか」

「よいのですか」

「ここは奥の目がない。

なんの心配もないだろう」

「ですな、それでは」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
この島津の騒動がどうなるのかとても気になっています 面白い物語を読めてありがてえ・・
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。