(慶長の伊達家騒動)4
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筆頭家老、片倉景綱により伊達政宗も評定に招かれた。
当然、上座だ。
かつての評定は伊達家当主、政宗主導で進められていた。
しかし、今は違った。
景綱主導であった。
政宗を置物にして、景綱が評定をテキパキと進めて行く。
滞ることがない。
政宗は余裕で戯言を混ぜたが、景綱にはそれがない。
同輩が多いので遠慮気味なのかも知れない。
提出された案件を審議し、過不足ない方向へ導いて行く。
物議を醸さない。
ある意味、老練の執政とも言えた。
頃合いを見て、お茶が配られた。
飲みながら雑談が始まった。
ここで珍しい事に景綱が話を振った。
「一揆鎮圧軍が関東に入った」
同席していた面々が彼に視線を向けた。
それを受けて彼は続けた。
「おそらくだが、常陸に入る前に態勢を整え、
佐竹領内に入ってから一揆を一掃すると思う。
そこでだ、佐竹領内が鎮まった頃合いに面談を求める」
政宗は佐竹領内にも一揆勢を入れていた。
それを知っている評定衆の一人が質問した。
「面談を、誰に面談を求めるのだ」
「討伐軍の大将だ」
「先触れは」
鎮圧軍と佐竹家の双方に出す必要があった。
「出せば断られるだろう。
そこで小数のみにて向かう」
評定衆の面々が互いに顔を見合わせた。
誰かが独り言のように呟いた。
「佐竹のご隠居、義重様に仲介を願えぬものかな」
先代の佐竹義重は隠居したものの、権勢は衰えていない。
現当主に遠慮して口出しは控えているが、
時流を推し量る目は今もなお健在。
しばしば現当主から助言を求められていた。
景綱は思案してから言う。
「当家は義重殿とは相性が悪い」
正確には、義重個人だけでなく佐竹家全般と、だ。
伊達家と佐竹家は領土の拡大とともに、国境を接するようになり、
利害が衝突する事が多くなった。
武家の習いとして干戈を交える事もたびたび。
豊家政権になり衝突は完全に無くなったが、
疑心暗鬼まで消えた訳ではない。
景綱の意識にあるのは、佐竹家と上杉家の深い交友であった。
それは相模の北条家に対抗したものであるが、
伊達家としては無視できなかった。
何故なら伊達家と北条家も長きに渡る交友を続け、
伊達佐竹の両家は互いに敵陣営に属していた。
その北条家が潰えて伊達家は苦悩した。
伊達家は北に上杉家、南に佐竹家、
二つの仮想敵に挟まれていた。
両家は信用が置けなかった。
豊家政権が健在であるなら良いが、
それでもある程度の安全の保証は取り付けたい。
そこで北条家の後釜として目を付けたのが徳川家。
豊家政権と徳川家双方の庇護下にあれば、と。
ところが太閤殿下が亡くなり状況が流動化した。
悪化と言えるかも知れない。
御掟破りに火が点けられ、伊達家だけの問題ではなくなった。
五大老の、四対一の争いに諸大名が震えあがった。
そこへ上様の口先介入。
それが思わぬ効果を発揮した。
四大老三中老五奉行を団結させた。
徳川家の孤立が露わになった。
伊達家は御掟破りの当事者の一つ。
家康六男と伊達家長女、これは誰もが知るところ。
加えて二度目の、一揆扇動疑惑。
逃れられる術がない。
しかし、そこで諦める訳には行かない。
諦めたら終わりだ。
政宗は知らぬが、景綱としては耐え忍んだ。
問題は太閤殿下へ差し出した誓約書だ。
伊達家重臣親族による連署。
それが今回は差し障りになる、そう予感した。
通常の大名改易は、大名の直轄地だけが真っ先に没収された。
直臣は別にして、国衆地侍衆の領地は取り敢えずはそのまま。
新大名が赴任して来るまでの間ではあるが、
領内の保全が公儀より彼等に求められた。
領内が荒れるのを防ぐ為の一時的な処置であった。
国衆地侍衆の待遇は新大名との要相談案件になっていた。
大概、新大名も地元の顔役である彼等を重用して抱え込んだ。
勿論、国衆地侍衆の領地が全面的に認められる訳ではない。
ある程度は削って、新大名が連れて来た家来衆にも分与された。
ところが今回は、誓約書があった。
今は公儀の枠外であるが、公儀に復帰を許された際、
その誓約書が生き返るおそれがあった。
つまり、署名した者達が伊達家と共に領地を没収される懸念。
景綱はそれは口にはしない。
ここで言葉にしても詮無きこと。
留守政景が景綱に尋ねた。
「面談云々は筆頭殿に任せるが、一揆勢の方はどうなっている」
「安心して欲しい。
こちらの手の者は完全に退かせた。
文書も残していない」
「証言しそうな者達は」
「文書と共に処分した」
政景はそれでも心配らしい。
「一揆勢に弱体化した様子が見られぬ。
どうなっているのだ」
「所詮は寄せ集め。
そのうちに自滅すると思うがの」
茂庭綱元が口を差しはさんだ。
「それは油断だろう。
上杉の忍びが一揆勢に紛れていると聞いた。
儂は、其奴らに引っ掻き回されるのを心配している」
常陸国の佐竹家領地。
ご隠居様、佐竹義重は丘から一揆勢砦を見遣っていた。
その砦には色々様々な旗指物が翻っていた。
奥羽の大名衆や国衆の旗指物で、
何れも滅びた氏族の物であった。
それらが、我等ここにあり、と主張していた。
ここには太閤殿下に滅ぼされた氏族より、
葛西大崎一揆に巻き込まれて滅んだお家が多かった。
義重は全体を俯瞰しながら、右に並ぶ車斯忠に言う。
「一揆勢との談合はどうであった」
「ご覧の通りです。
当初は一つに纏めるのに苦労しましたが、
伊達が手を退いたようで、今はこのように」
斯忠に領内の一揆勢との交渉一切を任せた。
領内勝手を許すので、北の砦で一つになったらどうか、と。
「伊達が退いたか。
しかし、時遅し、どうにもならんだろう」
斯忠が強面の顔を綻ばせた。
「伊達様のオイタもこれっきりでしょうな」
すると左に並んでいた真壁氏幹が言う。
「そろそろ宜しいですかな。
佐竹のご隠居様」
義重が噴き出した。
「ぶっふぉっほ。
何を言うのか、真壁のご隠居様よ」
氏幹も甥に家督を譲り、義重と同様にご隠居様。
義重は斯忠に任せた一揆勢との談合が成ったので、
先鋒の氏幹に指示した。
「重ねて言うが、これは一揆勢を殲滅する戦いでない。
伊達家の領内に追い込む鷹狩である。
先鋒は鷹となり、これからの猟場となる伊達家領内に、
あの者等を五体無事に送り届けよ」
氏幹が大袈裟に言う。
「奇妙な戦になりましたな」
「だから面白い。
騎馬や足軽等が先走らぬようにして欲しい。
氏幹、しっかり頼むぞ」
「承知致しました。
一揆勢を追い、伊達家領内の浅いところに陣を構えるのですな」
斯忠がおかし気な色を露わにした。
「伊達家領内ではないな。
正しくは公儀の枠外様だ」




