16:59 NPCは機械鳩が死ぬ夢を見るか?
ネクスト一帯を統治する王城だけあって、マーケット、バザー、ギルド、牧場、厩舎、研究所、騎士訓練所はもちろんだが、闇取引が頻繁に行われている裏通りも存在する。
闇取引が行われるようになったのはつい最近の話で、世界にクリーチャーが現れるようになり、別国からネクストへ移民した住民が格段に増え続けた。それにより貧富の差が激しくなったのが影響しているらしい。
公爵に城下町を案内され、表通りでは賑やかで幸せそうな家庭を持つ人間が暮らしているが、少し路地に入って進もうとすると淀んだ空気に出くわすことになる。ここはオレの縄張りだとか、ゴミ箱を指さし迂回するよう指図するホームレスが、無垢な旅人と揉め事となり乱闘、および殺人にまで及ぶ可能性もあるらしい。
点々と自警団の連中が見回りしているのも納得がゆく。
「それもあって、夜中は犯罪者が闊歩する町になっているみたいね」
アオイとナミダは、『冒険者ギルド』に訪れていた。
ギルドとは名ばかりの表向きは酒場で、訪れた客のほとんどが酔っ払っている。ビール片手に金貨を数えたり、トランプのようなゲームをして、くしゃりとカードを丸めながら悔しがっていたり。多種多様な人材が選りすぐりで、退屈はしなさそうな空間である。
この場で食事をするだけでも場酔いしそうな雰囲気である。
目の前のアオイはこういう場所とは無縁なナミダのことなんて露知らず、注文した発泡酒をぐいぐいと胃に流し込んだ。
「そうですね。酔っぱらいのアオイさん」
「まだ酔ってないわよ~。顔に出やすいってよく言われるから酔い始めたらすぐ分かるってよく言われるわね!」
「だとしたらすぐにここから立ち去るべきです。真っ赤なんてもんじゃないですよ!」
「あはははは! いやぁ面白いこと言うよね~ナミダくんって。お姉さん、きみのそういうところ大好きよ」
箸が転んでもおかしくて笑い声をあげる年頃とは言うが、アオイさんは酔っ払うとその現象が起きるようだ。
「おいおまえ、オレさまの分の酒も持ってこい!」
「もう、ルルゥまで何飲んでるのさ! ここには情報を集めに来たはずなのに!」
「おやじさん、しゅわしゅわ発泡酒濃いめで2人前くださいな、あとおつまみに唐揚げも食べたいわね」
しゅわしゅわする発泡酒に舌鼓な2人は放っておいて、今すぐナミダは帰りたかった。酔っぱらいは大嫌いだ。その場の“ノリ”で吞んでない人は邪険に扱われるし、帰りの車はいつだって呑んでないヤツが運んであげなきゃいけない。ナミダは過去に、未成年ながら友達と一緒にカラオケで飲酒したことがあったのだが、後処理をしたのがややトラウマになっていた。
ナミダは「ちょっとトイレ行ってくる」と適当な嘘を吐いて、その場からそそくさと離れていった。
「ったく、2人してハメ外して……。僕たちには全然時間が残されてないのに」
ギルガース「おい、知ってるか。ここいら一帯に現れた謎の暗殺者のことなんだが」
ぶつぶつ呟くナミダがお手洗いまで歩く途中。カウンター付近にはコルクボードが設置されており、そこには手配書やクエストの受注依頼書が貼られている。その前で2人の冒険者が腕を組みながら話し合っているのを小耳に挟んだ。
ゴルドン「確か『蛇の眼』の異名を持つ性別不詳の暗殺者だったか。睨まれたら石化して動けなくなるって」
ギルガース「その『蛇の眼』がよ、あっただろ――確かそう、ナトゥー村だったっけなぁ」
ナトゥー村って、僕が一番最初に立ち寄った村の名前だよな。
立ち止まって、2人の話を遠目から聞くことにした。
ギルガースとゴルドンいう名前の男はいずれもここ一帯で荒稼ぎをする冒険者と言う風貌であるが、酒も入っているのか話に花が咲いているようだ。
ギルガース「村の地下によ、あったらしいんだぜ。この町まで続く暗くてジメジメした空洞がよ」
ゴルドン「ああ、最近ここいらであった騒ぎだろ。自警団の載せていた馬車がまるごと地面に飲み込まれたって。そいで見てみたら、ぼっかりと穴が空いてたって話だろ」
ギルガース「それだけなら、ここ一帯の道路を整備している奴らの仕業になるだろうよ。一体誰がそこまで掘り続けたんだろうな。ナトゥー村からここまで来るのに3日以上は掛かるだろうに」
マジか、と思わずナミダは思わず声が漏れそうになった。ここからあの時計塔まで戻るのにもそれ以上の時間が掛かってしまう。走った場合なのだろうか、それとも馬車で?
ゴルドン「そいで『蛇の眼』と地面の空洞に何の関係があるんだよ」
ギルガース「実はよ……『蛇の眼』がその地下出身らしいぜ。つまり俺たちの真下には、巨大な地下墓地が存在していて蛇が這いずり回ってるってこった。いつかここまで来て寝首かかれるかもしれねぇよなぁ」
くくく、と低い声でギルガースが笑うが、ゴルドンは恐怖の色が顔に現れていた。それを流すように酒を煽って、彼も強がりながら笑みを見せていた。
もうしばらくその場で待ったが、まったく同じ会話を始めたのがいかにも『NPC』らしいな、とナミダは思った。




