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異世界症候群は死の夢さえも殺せない  作者: 凡人a
二日目 からくり仕掛けの時計鳩
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16:49 鳩と塵芥

 機械鳩の針は『Ⅳ』を差し、“からくり仕掛けの機械鳩”の姿が雄々しい虎のような姿へと変形を遂げている。虎の額に時計の文字盤が彫られており、それは最大で『Ⅸ』までを刻むことができる。

 『現実を打ち砕くもの』に追われ続け、約20分の逃避行。

 正直に言うと筆談をする余裕もないハツミは、冷や汗を垂らしながらコハクにしがみついていた。その2人を背中に載せながら勢いよく下り坂を下ってゆく、“からくり仕掛けの機械鳩”。延々と続く小麦畑の中で、振り落とされないように必死にしがみついていた。


「ヴィジョン!! もっと早く走ってください! くそ――こんなときにニンジンがあれば!!」


 コハクの言いたいことを察してしまったハツミ。要はニンジンを釣り糸か何かで機械鳩の前に下げて、それを追いかけるから加速するという発想だろう。だが、そもそも機械だし虎である。

 姿かたちを見たわけではないが、コハクが事細かに機械鳩の姿を描写してくれるおかげで何に乗っているのかは分かりやすかった。


「く、う……なんなんですか、本当にあれは――」


 機械鳩の前、後ろ脚に絡まる小麦が激しく動く板金で切断しながら突き進む。

 一度“アレ”の姿を見てしまったからこそ、もう一度振り返って姿を確認することが躊躇われる。つまるところ、先ほどからずぅっと追われているのだ、『現実と夢を打ち砕くもの』という名のクリーチャーに。


「ちょ、ま、何も言ってませんよ! 見せなくていいですから!!」

『ぎゅぎゅぎゅぎゅ?』

 

 伸びたのだ。虎の首の付け根から、薄い板が――それは鏡面となっており、ずいぶんと綺麗に磨かれている。いわゆるバックミラーのように“アレ”の姿を鮮明に映していた。


 それは巨大な腕だ。天にまで昇るほどの巨大な手のひらが、地面を割りながら進んでいる。藍色で、血管がぶくぶくに膨らんでいた。その血管にたまにガラス片などが飛沫し、切り傷となって真っ赤な体液の玉を作るがすぐに修復される。

 約20分の死闘であるが、いまだにこの小麦畑から抜け出せなかった。無限ループしているようだ。時折すれ違う小屋や荷車、カカシの形に見覚えがある。

 コハクの見間違いでなければ、20回以上はその光景が続いており、同じ空間を走り抜けている。


「やばいやばいやばい、どうすれば、どうすれば!!!」

「……」


 コハクが焦る中、ハツミは冷静に空気の流れを読んでいた。コハクの言葉に間違いなければ、自分たちは何周もこの空間を繰り返し走っている。とすれば、自分たちが通ってきた軌跡と、巨大な腕状の生物の巻き上げた砂埃の数は明確に違うはず。

 コハクの背中から離れ、ゆっくりと立ち上がる少女。地響きと虎の形の機械鳩の振動で、バランスを取るのも難しいが、


(……できないことじゃない)


 確信し、自分の口に指を突っ込んで濡れた指先を掲げる。

 背中からぬくもりが無くなったことに気づいたコハクは、


「大丈夫ですかぁー!!?」


 大声で彼女に問うが、2重の意味で返事がない。それほどに『現実と夢を打ち砕くもの』との距離は近くなっている。少しでもよろければ、まるで米を収穫するためのコンバインに巻き込まれたようにすり潰されるだろう。

 コハクの叫びも、そして巨大な腕がかき鳴らす地響きの音も感じることなく、ハツミは塵を読む。塵の流れがすべて教えてくれる。距離も、腕の全長も、そしてその腕の弱点となりうる部分も。

 

「……ッ」


 見極め――ハツミは大きく後ろに跳んだ。


ハツミ「【塵は塵に】」

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