14:45 ロリっ娘魔女なのだから、ロリっ娘魔女なのだ
ミミカはアンデッドの群れの頂点に立っていた。匂いというものは目に見えない、にも関わらず積み上げられた骸から漂う異臭は、焦げ茶色に色づいており、それが瘴気としてミミカの華奢な身体にまとわりついていた。
すべてのアンデッドの特徴は一致している。何百回も低温の火傷を負ったような爛れた皮膚、ぼろぼろで歪な歯を剥き出しにしながら目の前の血肉を求めて歩いている。目は異常に膨らんでおり、それを潰す度に霧散したような血が辺りを汚していた。
その死臭を嗅ぐたびに気分が悪くなるミミカは、息を止めながら戦っていたのだ。
「……」
最後のアンデッドの顔面に剣を突き落とすと、ぐしゃりと潰れた感覚が伝わった。飼っていた金魚を踏み潰した感覚だ。硬さと柔らかさのミルフィーユ層をぐしゃぐしゃに潰すと、ゆっくりと片膝から立ち上がった。
「戻って来い」
命令すると、ミミカの背中には何か彼女の残像のようなものが吸収される。それらはすべて無表情で、精巧な作りの良い人形のようにも見えた。ざっと9体ほどの人形が背中に戻り、そして消え去った。
『払拭刀:神殺し』に塗られた脂ぎった血を振り払い、「うううう」と唸り声を上げる異形の魔法使いを見下した。
瘴気から一刻も早く抜け出したいミミカは、群れの山を下りる。
サイレント「うう、すごい太刀筋。わたくし、あんたの力にブルっちまいそうだ、そうだ、そうなのか、そうである、であるか、あるべきか、あるべきだ、」
ミミカの元に、魔法使いの男がゆっくりと近づいた。人差し指と中指を重ねた2本で十字に空を切ると、彼の頭上に浮かんでいた巨大な目がゆっくりと閉じる。完全に粘膜を覆った後は灰となって空中を漂った。
宝石でできた本を閉じ、ローブの中にそれを隠した。
サイレント「ううう。本当に剣を握って2日目の女子なのか? なのか? なのか? なのだ、なのであるか? なのかもしれないが、かもなのか?」
『瞳の媒介者、サイレント』の顔は気味が悪い。巨大な目が除く異形の口を開き、彼の首に下げられている金色のロザリオにキスをする。代わりに両目は潰えており、出血するかのように包帯でぐるぐる巻きにされている。明らかに人間ではないだろう。
「ああ、この世界では間違いなく2日目だ」
サイレント「ううう。ううう。ううう。素晴らしい。わたくしの紹介でミミカくんを真聖教会に授ければ、この世界で暮らすには申し分ないと思うのだが。興味ないかね、ないね、ねいよね、ないからね、ないですよね、ですよね、ですね、」
「それも悪くないが遠慮しておこう。私の目的は異世界に転生することなのだ。力は貸すがそれは目的のための通過点であるということを忘れるな」
サイレント「ううう。ううう。残念、無念、失念、観念、断念、懸念、執念」
「私はな、18の女子高生なのだ。本来なら今頃家でラジオ感覚で動画でも見ながら、課題に追われる日々を送っているはずなのだ。それと部活動も。私はバスケ部だったんだぞ、もうあまり憶えていないが」
ちなみに最近ミミカの中での流行りは、凄まじい傾斜の滑り台をほぼ落ちるような感覚で滑ってみる動画である。あまりにも危険なのに野放しされているのが面白いらしい。
さて置き、サイレントの崇高な提案をミミカは厳しく突き放した。というより、突き放さざるを得ないだろう。このような不気味な魔法使いの温床たる真聖教会に数日でもいようものなら発狂すること間違いなしだ。
「よう、そっちは終わったんか。オレの方も今終わったからよ」
ミミカとサイレントの元に現れた、彼女にとって2人目の仲間。
随分と目つきの鋭い女が血まみれの金属バットを肩で背負って現れた。
昭和のスケバンを彷彿とさせるロングスカートの制服姿。酸っぱい匂いの立ち込める地面にスカートを引きずりながら、ミミカとサイレントを睨みつける。
「ああ。こちらは何も問題ない。アケミの方こそ大事には至らなかったか?」
「は、ぜんっぜん。オレの方こそ心配していたぜ、お嬢様が殺しなんてできんのかよってな」
「……見くびられていたようだが、私も勇者候補だ。これくらいは朝飯前だ」
腰まで伸びた黒髪をなびくほどに大きく撫で、アケミと呼ばれた少女は無駄にミミカを威嚇する。
一度噛みついたら千切れるまで離れない、女の中の女、西日本を統べる女暴走族の長。様々な異名を付けられたこの少女こそ、大崎初音である。
この見た目も相まって、彼女のバックボーンを探るのは容易であった。たまたまうろついていたのを発見し、ミミカがある依頼を達成するために仮に組まれた“友情”を演出していた。
「オレは12人殺ったぜ、おめーは何人だよ」
身長の高いアケミはミミカを見下し、両手で指折って人数を数える。長い舌を出し、馬鹿にしたような態度だ。
「たくさんだ。とにかくたくさん。気づいた頃には終わっていたからな。それで、“ネイグリッド通り”にはいつたどり着くのだ? 街の入り口でこれでは先が思いやられるが……」
サイレント「ううううう。『ナトゥー村』をしばらく進んだ先に道具屋があるのよ。そこを左に曲がって、樽の並んだ馬小屋が存在するのよ」
「そうか、では案内してくれ――」
と、その刹那。ミミカの真後ろから殺し損ねたアンデッドが、今にも彼女の後頭部を食いちぎらんと腕を伸ばしていた。アケミもバットを振るおうとして焦るが、
サイレント「【魔力解在:懐孕爆撃 《エクスマギ:かいようボム》】」
ボソボソと喋りながら、口の中に埋め込まれた大きな目が開眼する。
サイレントが再び取り出した宝石のような魔本が開き、半透明ながら硬質感のあるページが勢いよく捲られる。
「? オ、オ、グ」
アンデッドの腹部が異常なまでに膨れ上がり、踵を返して3人とは反対の方向へと歩を進める。速度は徐々に加速してゆき、ナトゥー村の橋の先まで駆けてゆく。橋を完全に渡り切った後に、けたたましい衝撃派を放ちながらアンデッドは爆発した。
「う……ぐ、サイレント、お前、」
サイレント「ううううう。ううううう。旅に発狂はつきものです」
⌛
最初の村ことナトゥー村を進む3人。初日に訪れた頃とは雰囲気も違えば、村人の存在なく、静かな雰囲気であった。代わりに白骨化した死体がいくつも置いてけぼりにされて、風化し、殺風景な景観に溶け込んでいる。
引き戸を完全に開けると、頭上からパラパラと砂が落ちる。中に入ってまっすぐ見渡すと、馬小屋の内部はもぬけの殻となっているのが分かった。
馬一匹もこの場には存在せず、涼しい風が吹き抜けており、アケミは身震いを覚えた。
「どうした、怖いのか?」
「う、うるせーよ。なんか妙に静かで閉鎖的だなって」
「アケミは狭所恐怖症、と」
「いや、そういうのじゃねーよ。メモとるなって、ってかそのメモ帳どこから取り出したんだよ。オレのイラスト描いて線引いた先にいろんな設定付けるんじゃねーよ!」
アケミが顔真っ赤にして、ミミカの手元から小さなリングノートを奪う。
『実は乙女で、趣味は少女漫画を集めること』『仲間想いで、仲間が拉致られた日は全力で敵対不良グループを呼び出しボコった』『実家は金持ちでお嬢様だが、夜は西街道の女帝と呼ばれている』
「う、うるせーよバカ、別にいいだろ、少女漫画読んだら悪いのかよ!?」
「ああ、それは本当だったんだな」
ともかく、3人は錆びついた厩舎道具が立てかけられている壁にまで移動すると、そこにはマンホールのような蓋があり、地下へと続いていそうだ。
サイレント「ううう。ここから地下に行けるかもしれません、けど蜴ゥ闊弱?荳ュ縺ォ縺ッ鄒翫′縺?↑縺??ょ自闊弱?荳ュ縺ォ縺ッ鄒翫′縺?↑縺??ょ自闊弱?荳ュ縺ォ縺ッ鄒翫′縺?↑縺??ょ自闊弱?荳ュ縺ォ縺ッ鄒翫′縺?↑縺??ょ自闊弱?荳ュ縺ォ縺ッ鄒翫′縺?↑縺??ょ自闊弱?荳ュ縺ォ縺ッ鄒翫′縺?↑縺??ょ自闊弱?荳ュ縺ォ縺ッ鄒翫′縺?↑縺??ょ自闊弱?荳ュ縺ォ縺ッ鄒翫′縺?↑縺??ょ自闊弱?荳ュ縺ォ縺ッ鄒翫′縺?↑縺??ょ自闊弱?荳ュ縺ォ縺ッ鄒翫′縺?↑縺??ょ自闊弱?荳ュ縺ォ縺ッ鄒翫′縺?↑縺??ょ自闊弱?荳ュ縺ォ縺ッ鄒翫′縺?↑縺??」
「あ?? 何言ってんのか分かんねーけど、このマンホールのような蓋を外せばネイグリッド通りにまで着くんだな?」
サイレント「はい」
「きめーな、ほんと」
ミミカは悪態つくアケミの肩を軽く叩き、「今は言う通りにするしかない」と説得させる。
サイレントの素性は謎に包まれているが、年齢は13歳の女性とプロフィールに明記されている。オッサンというのは大間違いだし、今目の前にいるのはロリっ娘魔女なのだ。それは決して揺るぐことのない明確な事実であり真実。
ロリっ娘魔女なのだ、ロリっ娘魔女なのだ、ロリっ娘魔女なのだ。
意を決して、ミミカたちは下水の匂い立ち込める地下を探索することになった。




