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異世界症候群は死の夢さえも殺せない  作者: 凡人a
二日目 からくり仕掛けの時計鳩
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18:41 今日は誕生日

 ミミカとアケミはサイレントの姿を追いながら、ゆっくりと地下の空洞を探索している。サイレントの手に握られている松明の灯りだけが頼りだった。一切の光も差さないじめっとした湿度の高い地下道。

 通路は2人がやっとすれ違えるほど狭いが、水の流れはない。代わりにへばり付いた暗緑色の苔が無数に生えており、勢いよく走ったら滑っ転びそうになる。


「臭い上に劣悪な環境だな。ここで人が暮らしていたというのが信じられないのだが」

「ああ。それに関してはオメーの言う通りだぜ……。確かに途中で割れた食器や椅子のような残骸はあるけどよ」

 

 アケミは壁をバットで叩く。その音が遠くまで反響し、彼女たちの合間を縫うようにネズミが数匹通り過ぎた。

 ミミカは「ひゃうっ!!」大声を上げて、アケミの身体に抱き着いた。


「だぁぁ重ェ!! よ!!!」

「レディに向かって重いなど、死刑か終身死刑のどちらかを選ばせてやる、アケミ」

「どっちにしろ死刑じゃねえかよ!!」

「仕方ないだろう、このような状況に追いやったアケミは非道だ」

「ったく、はいはいはいはい、オレが悪ぅございましたよ。は・な・れ・ろ!」


 じゃあ、とミミカはアケミの元から離れて提案をする。後ろで手をもじもじさせて、「私のことはそろそろミミカって呼んでくれ」と恥ずかしそうに言った。

 アケミはため息を吐いて「わーったよ」と気怠く返事をした。

 そんな2人のことなど露知らず、最前列で奥まで突き進むサイレントが振り返った。


サイレント「ううう。こちらだ。ここから先がネイグリッド通り。呪いの地下墓地と呼ばれている。呼ばれてた。呼ばれていた。呼ぶことになった。呼ぶしかなかった。呼ばざるを得なかった」


 サイレントの指さす方向は、鉄格子が待ち構えていた。完全に錆ついて、取っ手も苔で汚れている。鍵穴からも毒のような黒い液体が流れており、腐食した格子もここまできたら海底に生える海藻と変わらない。

 いとも簡単に格子はミミカの手によって開かれ、それより奥は暗く、より一層の淀みが待ち受けていた。


「暗いな。この先にサイレント、お前の目的のアイテムがあるのか?」

サイレント「ううう。ううう。『蛇の眼球』はこの先に。この先に。ううう。ううう。ううう。眼球さえ、眼球さえあれば、ううう。ううう」

「……サイレント、お前はその――『蛇の眼球』だったか。それを探してどうするつもりなのだ? 私は片棒を担ぐつもりは毛頭ないのだが」

サイレント「ううううう。『蛇の眼球』は真聖教会の所有する触媒なのです。盗まれた触媒を回収するのが目的ですのよ、ですわ、ううう、ううううう」


 サイレントは海中にただようクラゲのようなゆらゆら気まぐれステップで、先へ先へと入ってゆこうとする。 


サイレント「ううううう。うううううう。うううううう」


 不気味な鳴き声を発する『瞳の媒介者』。この地下道の暗さも相まって、アケミは身震いした。


「ったく、本当に気持ち悪いなこいつ――。このうーうーって声、低い声の女のような声が不気味すぎんだよ」

「まあまあ、そう言うな。彗星のように現れた勇者候補だって同じようなものだろう」

「人の原型がある時点でオレたちに分配が上がるっつーの。まあでも、悪かった。お前が悪い奴じゃねーってのは信じるからよ」

サイレント「仕方ありませんよ。わたくしは幼少から奇形児と罵られてきましたから」


 そうだったのか、と納得しそうになるが、


サイレント「母のソフィーと父のマルクスは兄妹でした父ガルダとガルダの姉クリストファーの息子がマルクスでしたクリストファーと金属細工師のアルクの息子であるトリスと花屋の娘オルカの娘がソフィーでしたソフィーは10人の子を孕みましたそのうちの9人が奇形児として生まれ8人が息絶えました」


 過去にいろんな出来事があったようだが、呪文のように長い文章を読み解くのには時間が掛かりそうだ。ミミカは頷いたが、ひとまず目先の狭い空洞を抜けるのが先決である。


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