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閑話 04 右腕と左腕

 あの日、閣下が将軍に就任してから初めての敗北を喫した我々は眠れぬ夜を過ごして居た。


「しかしなんだな、こうも完膚無きまでに負けると腹も立たんな」


「・・・そうだな・・・負けた上に施しまで受けたと言うのに全く腹が立たん」


 次元が違った。たった一人で、しかもたった半日で、手加減をして、一人の犠牲も出さずに五千の兵を下したのだ、鉱山一つと町二つで済んで良かったと言うべきだと思う。


 あの後奴は何処からともなく飲み水に毛布や天幕を乗せた十台の荷車と共に現れ、物資を破壊した事を謝罪して消えた。


「しかし、こいつは凄いな。本当に我々が腹一杯になるまで食事を出してくれた。こいつが有れば飢饉とは無縁になるのではないか?」


「本当にお前は楽観的だな。これからはもう少し良く考えて行動した方が良い。いいか、これを通して魔王が我々を見張っているかもしれんのだぞ」


「うっ・・・・・そ、そうか・・・今現在も我々の命は奴の掌の上と言う訳か・・・・・」


「そう言う事だ。尤も、あの姿は間違いなく闘神様だったのだ、本人が否定しようとも神の如き存在であるのには変わらんのだから、我々凡人が如何足搔こうとも掌の上と言うのは変わらんがな」


「・・・・・ひょっとしてここへ来るまでに受けた嫌がらせも・・・・・」


「ああ、これと同じか似たような物が草木の間に置いてあるのやもしれん。そうだとして全てを探し出せるか?それこそ全てを焼き払わん限り不可能だ。王都に・・・いや、王城に潜伏していると言うのも嘘では無いと思う」


 領都の館は毎日使用人達が掃除をしていた。それでも不審な物は見つかっていなかった。だが奴は私を監視し続け声を掛けてきた。王都所か王国中にその手を伸ばしていたとしても不思議ではない。


「・・・・・もしかすると・・・我々の報告よりも早く陛下は敗戦を知る事になるかもしれん・・・いや、既に知っていても不思議ではないか・・・・・」


「・・・戦う前に負けていた・・・いや、それ以前の問題か・・・戦とは剣を交えるだけでは無いと言う事か・・・・・しかし、閣下は大丈夫なのだろうか?」


 閣下は目を覚まされてから塞ぎ込んだままだ。敗戦だけで無く、ご自身の『祝福』が通用しなかった事が余程堪えたらしい。


「さあなぁ・・・私如き凡人には閣下の御心は推し量れんよ・・・・・だが、明日には何時もの閣下にお戻りになられると私は信じている」


 だが閣下は翌日も塞ぎ込んだままだった。私とケベックが指示を出して領都へと帰還・・・いや、撤退を開始した。私達で閣下をお支えしなくては。


 光の女神を信奉する我々にとって闘神とは守護神だ。教義では魔族は人族に害を成す悪とされているのだ、闘神様が魔王の守護をしていると言うのは教義に矛盾が出る。認めたくは無いが認めざるを得ない現実が閣下を苛んでいるのだろう。閣下には一日も早くこの試練を乗り越えて欲しい物だ。


 閣下が御自身を取り戻したのは領都に付く前日の事だった。


「長い事其方達に任せて済まなかったな、セレスタ、ケベック」


「いえ、私の方こそ大して御力になれず申し訳ありませんでした」


「いや、私の力が足りなかっただけだ・・・そうだ、奴自身も言っていたのだろう?闘神では無い、と・・・奴が強かっただけだ・・・・・そう・・・奴が・・・強かっただけ・・・・・私は神に見放された訳では・・・私は・・・・・」


 どうやらまだ吹っ切れてはいないようだ。私が御力になれれば良いのだが・・・如何したものか・・・・・


 我々が領都に着くと敗戦の報は瞬く間に広がった。明らかに行きとは違っていたからだ。五千の兵に荷車が十台、馬もあの轟音で半数近くに逃げられてしまったのだから誰が見ても勝ったとは思わないだろう。


 そして領主館で我々を待っていたのは一通の手紙だった。


「閣下、昨日王都の守備隊長よりこちらが・・・・・」


「む、フィレインからか?王都で何かあったのだろうか」


 出迎えてくれた代官に手渡されたフィレイン様からの手紙に目を通した閣下は―――


「・・・・・ろ、ロザンナが駆け落ちしただと・・・ま、まさかこれも奴の仕業、か・・・ぬおおおぉぉぉ!!魔王めえええぇぇぇぇ!!・・・ァッ―――」


「「「「「閣下あああぁぁぁぁ!!」」」」」


 叫び声を上げてその場に昏倒し、まる三日、意識が戻る事は無かった。

ここまで読んで頂き有難う御座います。

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