閑話 03 終わりと始まり
これは混沌の世に、その身に宿した‶力〟のために神にされてしまった二人の男女の物語。
それは遥か昔。世界は国も階級も無く、人々が自由に暮らしていた時代の事だ。
大陸中央の人口二百人程の小さな町に一人の男性とその幼馴染の女性が居た。男性の名はアデル、女性の名はアゼリアと言う。
二人の両親は農家を営んでおり、その日も二人は親の手伝いをしていた。
「何だあれ?ねえ父さん、日が昇る方で何か見えるよ。あれって煙かな?」
それに最初に気が付いたのはアデルだった。
「え?煙?・・・・・た、大変だ!母さん!アデル!急いで町へ逃げるんだ!!」
「なに?何なの父さん!何が有ったの?!」
「戦だ!!東の連中が襲って来たんだ!!良いから早く逃げろ!!」
父親に背中を押されてアデルは町へと走った。父親は妻の手を引いてアデルの少し後ろを付いて来て居た。
筈だった―――
困惑しながらも刈入れ用の大鎌を肩に担いだまま町の手前まで来て後ろを振り返ったアデルが見た物は、背中に無数の矢が刺さり、俯せに倒れる両親だった。
「父さん!母さん!」
「待って!アデル!!」
両親の元へと駆けだそうとしたアデルを同じく町へと避難しようとしていたアゼリアが腕を掴んで止めた。
「離してくれ!アゼリア!!父さんと母さんを助けないと!!」
「嫌よ!!今行ったら貴方までやられてしまうわ!!私を一人にしないで!アデル!!」
「え・・・一人に?・・・・・」
涙を流すアゼリアの言葉で冷静さを取り戻したアデルが周囲を見渡すと大勢の人が両親と同じように倒れていて、その中にアゼリアの両親も居た。
「あ・・・うわあああぁぁぁ・・・!!」
「アデル!しっかりして!早く町へ!!」
アデルが叫び声を上げ膝から崩れ落ち、アゼリアがアデルの腕を引いて町へと向かおうとした。だがアゼリアの力ではアデルを引き摺る事も出来ず―――
風切り音と共に二人の頭上に矢の雨が降り注いだ。
アゼリアは咄嗟にアデルへ覆い被さりその背に無数の矢を受け―――
その身から光を放った。
アゼリアが生まれ持ったスキルの名は『献身』。アデルを身を以って救った事によりレベルが上がり身体に負った傷は癒えたが、アゼリアは気を失ってしまった。
「あ、アゼリアアァァァ!!よくも・・・よくも俺の大切な人達を傷つけたな!!殺してやる!!殺してやるぞおおぉぉぉ!!」
手にした鎌を振り翳し、血の涙を流したアデルが敵へと向かって行く。アデルが一人の敵へと鎌を振り下ろした瞬間、敵の放った矢が、槍が、アデルへと突き刺さった。
「がぁ・・・た、タダでは死なん・・・ガハッ!一人でも道連れにしてやる!!」
「グアアアァァァ!!」
血を吐きながらもアデルの振り下ろした鎌が敵を切り裂くと同時にアデルが光を放った。
アデルの生まれ持ったスキルの名は『憤怒』。傷の痛みも、我をも忘れる程の怒りがアデルのレベルを上げその傷は回復し、アデルは怒りが消えるまで手にした鎌を振るい続け、悪鬼の如く戦い続けた。
そして敵を退けたアデルを見た町の人達は二人を『女神』と『闘神』と呼んだ。アゼリアが光を放った後にアデルが強くなったように見えたためだ。そして二人が光を放つ度に大いなる何かに『祝福』を受けたと語り継ぐ事となった。
その後、アデルは『憤怒』の影響で性格が一変し、アゼリア以外の人間に心を開く事は無くなった。些細な事で怒りを露にし、争いを自ら招いてしまう事が増え、アゼリアはその度に傷ついた人を癒して回った。
「もう止めて!何故人を傷つけるの?!お願い!以前の優しいアデルに戻って!!」
「アゼリア、俺は今も昔も変わっちゃいない。俺にはお前しかいない・・・いや、お前以外は何もいらないんだ・・・愛しているよ、アゼリア」
「アデル、解って・・・私達だけでは生きていけないの・・・だから、せめてこの町の人達だけは傷つけないで。その為なら私は如何なっても構わないわ」
「俺と結婚してくれるのならこの町だけは護ろう。それだけは約束するよ」
その約束は守られた。アデルは町を護り続け二人は子を成した。戦い続けたアデルは金色の光を放つようになり、戦いの際には変わった衣装を纏っていた事が『闘神』としての象徴となる。
周辺の町はアデルには敵わないとアデル達の町を狙う事は無くなった。それは町が街になり、国となっても変わる事は無く、アデル達の町も街となり、護り抜いた彼の名から都市国家アデルとなった。
二人の子孫は何故か二人のスキルを受け継いでいた。第一子のみだが男児ならば『憤怒』を、女児ならば『献身』を受け継ぎ、それは宗教国家となった現在も変わらない。そしてスキルを受け継いだ第一子がアデルとアゼリアの名と共に次代の教祖となる事が義務付けられている。
魔族を悪とする教義は魔族を率いて町を襲った初代飽食の王とアデルが戦い、飽食の王を退けた事から来ているがその事実はない。光神教を立ち上げた時の教祖が箔付けのために流した偽りでしかない。
長い、長い時が経ち、真実を知る者は誰一人として居ない。死して猶、二人の‶力〟と‶虚像〟だけが世界へと広がっていた・・・その本質を‶権力〟と‶富〟へと姿を変えて・・・・・
ここまで読んで頂き有難う御座います。




