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「周囲の警戒をしつつ前進だ!!魔法士隊は射程に入り次第門と防壁に攻撃を開始せよ!!」
「ふざけんな!!これ作んの大変だったんだぞ!!壊したら請求書も追加で送るからな!!」
言ってからちょっとズレた事言ったな、なんて思いながらもこちらも行動を開始した。
「・・・え?・・・か、閣下!後方の陣地より煙が上がって・・・いや、広がっております!!」
「なにっ!何だあれは・・・煙幕か?」
陣地内に潜んだままの乾パンの俺達が一斉に小麦粉を撒いたんだよ。
「先ずは人の居なくなった陣地からやらせて貰うぞ!着火!!」
ドゴオオオォォォォン!!
閃光と共に爆音が響き渡り、王国軍の陣地が一瞬で跡形も無く破壊された。
「・・・あ・・・お、俺達の陣地が・・・天幕も、食料も何もかも・・・・・」
「・・・・・クッ!・・・何て事しやがる・・・・・今夜は何処で寝りゃぁ良いんだよ・・・・・」
「・・・・・酷でぇ・・・・・他の戦でもここまでやられた事なんて無いってのに・・・・・」
いや、マジでごめん。粉塵爆発ってここまで凄いなんて思ってなかったんだ。隠れてた俺も吹き飛んだからお相子って事で。
「くそがあああぁぁぁ!!やったろうじゃねぇか!!走れ走れええぇぇえぇ!!」
「どうせ帰る場所が無くなったんだ!進むしかねぇ!!」
「刺し違えてでもその首取ったるぞ!ゴラアアァァァ!!」
テントの残骸が舞い落ちる中、陣地の惨状に怒り狂った兵士達が防壁目掛けて駆けだした。最早陣形は見る影も無く、軍隊と言うより唯の暴徒と化していた。
「ちょっ!お前ら落ち着け!俺もここまでとは思って無かったんだよ!悪かったって!飯は食わせてやるから許してくれ!!」
「走れ走れええぇぇぇ!!門も防壁も全部ぶち壊してやれええぇぇぇ!!」
「首だけじゃ済まさねぇぞゴラアアァァァ!!」
「腑抜けた事ぬかしてんじゃねぇぞ!!」
「あ~もう、仕方ねぇなぁ。スモーク!!」
暴徒化した兵士を止めるべく全体を囲むように小麦粉を撒き散らした。
「か、囲まれたぞ!あの爆発が来る!!全員伏せろおおぉぉぉ!!」
「ヒイイィィィ!!」
「ゴホッ!畜生!何も見えねぇ・・・ゴホッ!ゴホッ!」
何とか止まってくれた・・・これで警告したら戦うのを止めてくれるかな?フォスターは・・・見えねぇな・・・・・ん?何だ?光?
「総員そのまま伏せていろ!私が出る・・・・・」
「か、閣下!お待ち下さい!」
小麦粉の煙幕の中に見える帯状の光が近付いてくる。ひょっとしてフォスターの『祝福』か?どんな力か知らないけど『殲滅騎士』って二つ名の通り攻撃に特化した力なんだろうな。
「魔王!聞いているな!我々の負けを認めよう!!」
「如何言うつもりだ?俺を騙そうってんなら―――」
「そのつもりはない!物資のみならず、全滅となっては今後の我が国の保安上に問題が出る!一旦引いて陛下の指示を仰ぐ事にする!!」
「・・・・・解った!その言葉に偽りはないと判断して煙幕を止める!一旦陣地の有った場所まで下がって貰おうか!」
完全に信じた訳じゃないが小麦粉を撒くのを止めて様子を見る事にした。
「総員魔王の指示通り後退せよ!!」
煙幕が晴れると兵士達が下がって行った。が、フォスターはそのままこちらを向いたままその場から動かなかった。小麦粉塗れで白く染まったその右手に刀身の光る剣を携えて。
「フォスター!お前も下がるんだ!!」
「・・・・・師匠に、ヘルガ様と会ったそうだな」
「ああ、それが如何した?」
「師匠に言われた通り手加減されていた事は重々承知した」
「だったら直ぐに下がれ!話はその後―――」
「しかし!剣を合わす事も無く負けたとあっては陛下に申し訳が立たぬ!!魔王!この私と一騎打ちで勝負しろ!!」
「閣下!お止め下さい!!奴の事だ、どんな卑怯な手を使って来るか―――」
「黙れセレスタ!!お前は部隊を率いてエステラン領都まで戻り陛下にご指示を仰げ!いいか、何が有っても手を出すでないぞ。さあ、魔王!返答は如何に!!」
こいつ自分の命一つでこの場を収める覚悟を決めてやがる・・・・・
「・・・良いだろう!!受けてやるからその場から動くなよ!!」
喩えこの俺が死んでも変わりは幾らでも居るし問題無いだろ。なんて気楽に一騎打ちに応じた事を後悔する事になるのだった。
ここまで読んで頂き有難う御座います。




