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衆の子、毛利の子  作者: ルビー
1章・戦国に生まれて
2/5

別れ

俺は戦国時代の子供に生まれ変わった。

そう気づくのに時間はかからなかった。

戦国時代の俺は興丸という名前で母の福と姉の美祢の3人で山間ののどかな農村で暮らしていた。

父については何も聞かされていなかったが、それでも幸せな生活であった。

村の子供たちとも仲良くなり元の世界よりも充実した生活を送っていた。

朝起きて水を汲み食事の用意、昼には村の子供と田で遊び、暗くなったらすぐ眠る。

そんな生活が俺に合っていたのかもしれない。

俺にとってはここが夢見ていた天国であった。



俺が生まれ変わって8年と少しが経ったある日の朝、俺は母と姉の会話で目が覚めた。

「お母様、お食事の準備ができました。」

「ありがとう。そうしたら、興丸を起こしてきた。」

母はいつも穏やかで取り乱すことなどほとんどない。本当に穏やかな人である。

姉はそんな母に似ているが、弟である俺に対しては少し当たりの強い部分がある。

俺は姉に起こされ食事の用意されている部屋に出ていった。

「おはようございます。」

「興丸、おはよう。今日は助六殿がお越しになる日ですよ。」

「そうでした。準備しておきます。」

助六とは、俺の武術の指南をするために月に2度3度村に訪れる若い武士である。

俺は武士という存在を助六でしか見ていないが、想像に難くない、屈強な肉体の持ち主である。

助六の指南は少し、いやかなり厳しく憂鬱な気分になる。

きっと今日も飛ばされるのだろう。そんなことを思っていた時である。

「福さん、大変だ!」

俺の住んでいる小さな茅葺の家に村の男が飛び込んできた。

「何があったんですか?」

母が尋ねる。

「武装した集団が村のほうに向かってきてる。100人はいたぞ。」

「そんな。近くで戦が起きている話は聞いてませんよ。」

俺の家の騒ぎに周りの住民の集まってきた。

「武装した集団とはどういうことだ?」「それは敵か?味方か?」「本当にこの村に向かってるのか?」

村の住民たちが騒めきだした。

「落ち着いてください。」

母が騒めく周囲をなだめ、武装集団の報を伝えた男に尋ねた。

「その武装集団は旗を掲げていませんでしたか?

 ここは毛利様のご領内。旗に描かれている家紋か旗印が分かれば敵味方どちらか判断する材料となります。」

「しかしおれは家紋やら旗印やらはわかりませぬ。」

「では、どのような形をしていたか。それだけでもいいので確認をしてきてはくれませんか。」

母は武装集団の報を伝えた男をじっと見つねる。

「…わかりました。確認してきます。」

「お願いします。」

会話が終わると男は村の入り口の方向へ走っていった。

そうした後に周囲に集まった住民たちにこう指示した。

「皆様、武装した集団が敵か味方かわからぬ今、備えておいて悪いことはありません。

 村長に指示を仰ぎ、対策をしましょう。」

この言葉で住民たちは落ち着きを取り戻し、そそくさと俺の家を後にした。



周囲が落ち着きを取り戻して少ししたとき、母が俺に話しかけてきた。

「興丸、今村に向かっている集団が敵だとわかったら、あなたは裏の沢から村を出てこちらに向かってきている助六殿に助けを求めなさい。」

普段穏やかな母の険しい様子に俺は不安になった。

「母上と姉上はどうするのですか。」

そう聞くと母はさらに険しくなり言った。

「やつらの狙いは多分、私と美祢だから…」

そういうとそそくさと部屋を後にした。

狙いは母と姉?

俺は混乱したままただ部屋を歩き回るしかなかった。



「福さん。旗、見てきたよ」

偵察に出ていた男が戻ってきた。母は静かに聞く。

「…旗のしるしは?」

答える男の声が小さかったのか。それとも周囲が思った以上に騒がしかったのか。

俺はその質問の答えを知ることができなかった。

しかし次の瞬間、母は振り向き俺に言った。

「相手は敵です。早く助六殿のもとへ。」

急かされるままに俺は村を出、沢を南に下って行った。



しばらく沢を下ると助六がいつも通る道に出た。

敵と思われる集団がいる道から村を挟んで反対側にある山道である。

村を出てからすでに1時間は経っているか。

その時、向こうから助六が向かってくるのが見えた。

俺は助六の名を呼びながら必死に走った。

「興丸どうした。このようなところで。村からは随分と離れているはず。」

戸惑う助六に俺はこれまでの経緯を話す。

すると助六は険しい顔になりこう言った。

「わし一人ではどうにもできぬ。来た道を戻り急ぎ援軍をよこす。興丸、おぬしも来い。」

そう言い切る前に助六は俺の腕を掴み来た道をすごい速さで戻っていく。

俺は不安になりながら必死に食らいつくしかなかった。



少し大きな町につき、兵をこしらえ助六は村へと向かった。

後に聞いた話だと、助六が村に着いたとき、すでに武装した集団は跡形もなかったという。

村には無残に転がった男たちの死骸、血しぶきだけが残っていた。

母と姉の姿は村のどこにもなかったという。

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