初対面
母と姉を失った俺は助六の屋敷にお世話になっている。
城の麓にある助六の屋敷は元の世界の社会の授業で習った、THE・昔の屋敷といった立派なしつらえのある屋敷であった。
そこでの生活は想像していた武士の生活そのもので、その厳しさと疲れから母と姉を失った寂しさという感情を少しづつ忘れつつあった。
城の麓の屋敷に移ってからしばらくしたある昼前、俺は助六に連れられ城の方向に向かっていた。
「助六、どこに向かっているのだ?」
「ついてくればわかる。」
俺が何度聞いても助六が答えるのはそればかりである。
俺はこの山上りに息が上がっていたが、助六はこの険しい山をずんずんと登っていく。
「この程度でへたばるとは何事か。元服すれば毎日上ることとなるのだぞ。」
元服、初めて聞く言葉に少し戸惑いつつ、さらに城の高いところに上っていく。
「ついたぞ。」
今まで声をかけても同じことしか言わなかった助六が急に声をかけてきた。
「ここは…?」
目線を上げるとそこには立派な館がそびえたっている。
今まで俺が住んでいた茅葺の小さなの家とは比べ物にならない大きな館である。
俺はその大きさに少し圧倒されつつ、助六に連れられるがまま館に入った。
「こちらで待っていなさい。」
そう言って助六はどこかに行った。
俺は何のために連れてこられたのか。そもそもいったい何を待つのか。
俺は静かなその館の部屋の中で忘れていたことを思い出していた。
母はどこへ行ったのか。あの時村では何が起こったのか。敵とはいったい誰なのか。そんなことを考えながら過ごしていると、あたりはすっかり赤く染まっていた。
おなかもすき、少しウトウトとしていた時、廊下のきしむ音がした。
「なんだ?」
足音が近づいてくる。助六のものではないように思う。
足音が部屋の前で止まる。
そのままゆっくりとふすまが開いた。
俺はすぐさま平伏する。そうしたほうが良い感じがしたからである。
足音が横をすり抜け奥に向かい、座った。
「顔を上げよ」
その声が聞こえ、顔を上げ足音の顔を見る。
それは薄く笑みを浮かべた優しげな顔をした武士であった。
「よう来た。」
低い優しげな声である。
「あなたは?」
「毛利隆元である。そなたの父である。」
その言葉を聞いた瞬間、俺は雷に打たれたような感覚に陥った。
そのあと、私の父という武士が何か言っていたような気がした。しかし俺の頭にその内容は全く入っていなかった。
初の親子対面から一夜明けた朝。俺は助六の屋敷にいた。
あの後父は静かに部屋から出ていき、俺が呆然としていたところを助六が迎えに来たらしい。
冷静になって考えてきたときに一番に思い浮かんだことは、“今更”という言葉である。
母がいなくなったタイミングで父が出てくるとは。
父がもっと早く現れていれば母が居なくなることがなかったのではないか。
生まれてから一度の教えられていなかった父親の存在。
それがこのタイミングで現れたことに俺は嬉しいとも恨めしいとも、複雑な気持ちを抱いていた。
ともあれ、父の身元が明らかになった。正確に言えば父の名を聴いてもピンとこなかったが毛利という名前には聞き覚えがあった。
毛利といえば中国地方の大名、毛利元就は知っている。
俺の父親という武士はその毛利元就と何か関係があるのか。
そんなことを考えながら俺は今日も助六の武術の指南を受ける準備を始めたのだった。




