第陸話 新たな日常 ①
第陸話-新たな日常
今日もいつも通り、始業チャイムが鳴る。
一限目が始まった。
水曜日のこの時間は音楽。
見られたピアノに見慣れた先生。見られないのは私の隣に固まって座る、三人組。
「最初の授業は音楽かぁ。キョウヤは音楽得意なの?」
「うん、お世話になってた親戚の家にはピアノがあったからね、多少は弾けるよ。」
「へえ、今度聞かせてよ!」
「別にいいけど…、あそこにピアノなんてあるのかな。」
「あぁ、ないかもね…。今度手配しておくわ♪」
「…二人とも。うるさい。」
そんな会話が聞こえてきた。
私は少し気になったが、授業に集中すべく、あまり考えないようにしていた。
今日の授業はヴァイオリンについてだった。
「はい。ではここで皆さんに生のヴァイオリンの音色を聞いてもらいたいと思います…が、いくら先生でもヴァイオリンの演奏については素人レベルなので、私が弾くより適役がこのクラスにはいます、ね?」
先生が私の方を見て、アイコンタクトをとる。
実は前の授業から既にお願いされていたので一応準備はしていた。
「はい。」
私は教室中から視線を浴びる。
「皆さん、プロのヴァイオリニストの演奏なんて、このようなところで滅多に見られるものじゃないですよ。しっかり聞いて下さいね。では、クリスタリアさん、お願いしますね。」
私はそっと弦に指を触れた。
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「ねぇ、アオイ。あれは…?」
僕は、先生の指示で教壇へ上がった女子生徒が気になった。
「えっと、まって。検索中…。」
「ソフィア・クリスタリア。16歳。プロのヴァイオリニスト。」
アオイが答えるよりも先にユカリが素早く反応した。
「っ!く~!早い…!」
「私は思考重視型。常に色々な思考を張り巡らしている。キョウヤが考えていること、質問してきそうなことくらいすぐわかる。」
「えっ、僕の考えてること…!?」
ユカリはアオイと違って、いつも何を考えているかよくわからない表情をしていたが、まさか僕のことを考えているなんて。少し、恥ずかしいような気もするが…。
なんて考えている内に、彼女の演奏が始まった。
当たり前だが、とても綺麗な演奏だ。素人でも上手いとわかるほどに。教室中が彼女の演奏に聞き入った。
パチパチパチパチ‼
演奏が終わると拍手喝采。彼女は一礼して笑って見せた。
「ふーん…なるほど……これが心を揺さぶられる感情…。感動ね…!」
とアオイの表情がパアっと明るくなった。
「うん。すごく感動した!ユカリは何か感じた?」
「ん…、心がドキドキした…かもしれない。」
ユカリは深く考え込みながらそう答えた。
「そっか、多分それを感動するっていうんだと思うよ。」
「そうか。この感情が…。」
「そうよユカリ!きっとそう!大昔の言葉で言うなら、エモい!これね!」
え、エモ…?よくわからないけど、まあいいや。と僕は放っておいた。
隣の席に戻って来た彼女に僕は思わず声をかけた。
「すごいね。僕、ヴァイオリンの演奏初めて生で聞いたんだけど、とても感動したよ!ありがとう!」
「あっ、こちらこそ、ありがとう。」
彼女は話しかけられて少しびっくりしたようだったが、微笑んでそう答えた。
僕はその微笑みにドキッとしてしまった。
「あっ…。えっと、今度絶対コンサート行くね!」
「本当に?ありがとう。あの…ところで、初めまして…よね…?」
はっと、我に返る。そうだ、いきなり話しかけて名乗りもしないで、なんだ僕は。
「あああ!ごめん!えっと、僕、今日からこの学校に転校してきたんだ。キョウヤ・イザナギっていうんだけど…きょ、キョウヤって呼んでくれ!」
なぜかテンパってしまう。
「そうだったのね。キョウヤ君…よろしく。私はソフィアって呼んでね。それで、そちらのお二人も…?」
そう言って彼女は僕の奥の二人を見る。
「そうよ!よろしくね!ソフィアさん!」
「よろしく…お願いします。」
なんて言いながら、二人とも自己紹介をする。
普通に考えれば、3人同じ日に転校してくるなんておかしい話だが、ソフィアさんは僕たちの関係について特に何も触れなかった。
そんなこんなで、新しい出会いもあり、僕たちの月での学生生活は穏やかに始まった。




