第四話 新しい居場所
第四話‐新しい居場所
ARMSロビー
「あ、来たわ!こっちよレイコー!」
そう叫びながら、アオイは僕たちに近づいてくる二人組の男性と女性に手を振っている。
「初めまして。キョウヤ君。私が今日からあなたの保護者役のレイコ・アスミです。急なことでまだ色々と混乱していると思うけど…、よろしくね。」
一目で、とてもきれいな人だ、と僕は思ってしまった。なんと言えばいいのだろう、雰囲気は、黒髪で髪が長くて、前髪もきれいに切り揃えられていて、昔の言葉で表すならば彼女のような人のことを大和撫子というのだろうか。でも真っ赤な口紅が印象的で、気が強そうな人だ。
「あ、はい。全然…大丈夫ですから気にしないでください。アスミさんですね。よろしくお願いします。」
「そ、そう。あぁ、レイコでいいわよ。一応、保護者役なんだから。堅苦しいの嫌でしょ?」
思ったより優しそうな人かもしれない。
「わ、わかりました…レイコさん。」
「私はアレン・ルーサー。ここの総司令官で君の保護責任者だ。よろしく。アレンでいい。」
「あ、アレンさん…。よろしくお願いします。」
アレンさんはまだ若いのだろうけど、なんだか威厳のある人で、少し怖い雰囲気の持ち主だ。しかし、いきなりこの人までファーストネームで呼んでいいものなのだろうか…。もしかしたらこの人も、レイコさん同様、本当は優しい人だったりするのかもしれない。
「それじゃ、これからのことを話したいから、少し移動しましょうか。」
「はい。」
レイコさんに連れられて、僕たちは、応接間のようなところに通された。
カチャ
「お疲れでしょう。どうぞ。」
と言って、きっと同じくらいの年頃の女の子が湯気の立った紅茶を運んできてくれた。
「あ、ありがとうございます。」
「ふふ。」
「え?」
「いえ、なんでもありませんよ。」
彼女は何故か微笑んでいる。
「あぁ、その子も同じアンドロイドよ。No.5。名前は…」
「クレア・ラヴスターです!博士の息子さんに会えるなんて光栄です!あ、私は博士にプログラミングされたアンドロイドじゃないんですけど…。よろしくお願いします!」
アオイが話していると、彼女は元気よく自分から名乗り出た。
「あ、よろしく…。」
「ま、その子は普段ここで、技術スタッフとして他の職員の手助けをしたり、オペレーターとして勤務しているアンドロイドで、あんたのボディガードではないわよ。」
「でも、いざとなったらもちろん戦えますよ!」
「そうなんだね。そういえば、君たちは皆…その…派手な見た目なのかな?」
クレアさんは、真紅のような髪色で、ウェーブしているショートヘア、同色の瞳と、他の二人同様、普通の人間ではそうそういないような見た目であった。
「確かにそうね…。でもこれで大体見分けがつくでしょ?まあ、たまに人間にもこんな奇抜な髪色や見た目の連中いるけど。」
「わざとなんだね…。」
「だから…キョウヤ。気を付けて、派手な見た目には。もしかしたらアンドロイドかもしれない…。何かされるかもしれない…。」
と急にユカリが話し始めた。
「え、どういうこと…。」
「…冗談。」
「え、ちょっ、ちょっと、怖いよ!ユカリってそんな冗談言うのか…。って、ここには他にもタイプEのアンドロイドがたくさんいるの?」
「タイプEはまだ何人かいますよ!その中にキョウヤさんのボディガードがあと一人います!男性のパワー型です!」
「え、あ、そうなんだ?」
「まあ、その話は追々ね。まだ最終調整が全部終わってないの。ところでもういいかしら?本題に入っても。」
と、レイコさんが会話に入って来た。先程からずっと待ってくれていたようで少し申し訳なく感じる。
「あ…そうでしたよね!ごめんなさい!では私はこれで!」
クレアさんは一礼すると、慌てて部屋から出ていった。
「ここに連れてこられた経緯はアオイたちに既に聞いたわよね。ごめんなさい。本当に。息子さんとは言え、あなたには日常を奪うような多大な迷惑をかけてしまって。」
「いえ、もうそのことは謝らないでください。それにこっちにも非があるっていうか…。元は父さんが招いたことだし。」
「そんなこと…あなたは気にしないでいいのよ。…それで、これからなんだけど、明日は念のため、身体検査等の色々な検査をさせてほしいの。それからは出来るだけ、学校に行ったりの普段通りの生活を送れるよう手配しているわ。もちろん、ボディガードはつくけどね。ボディガードと言っても側にいるのは彼女たちだけよ。いかにもなガードマンをつけて変に目立つのは却ってよくないしね。」
「よかった。学校には行けるんですね。」
「私立エトワール高校よ。超セレブ校!」
とアオイが何故か楽しそうに言う。
「ちょ、超セレブ高校!?」
「やっぱり、私立の警備がしっかりしているところの方がいいでしょ?それにここからも近いし。キョウヤ君の安全を考えた結果よ。」
レイコさんもニコニコ話しているが、僕はあまり嬉しくない。
「まあ要するに、裏口入学ってやつねー!お金を積めばどうにかなるものなのねぇ…あ、こっちが特殊な組織ってのもあるわね…。」
アオイの言う通りだ。
「な、なるほど…。あの、その…学費とかは…。」
超セレブ校…、最悪父さんの財産を切り崩せば通えるだろうけど、出来ればこんなことには使いたくなかった。
しかし、正直こんなことを心配している自分が恥ずかしくも思える。
「それは心配しなくていいわ。こちらの勝手であなたをここまで連れてきたんだから。それと、通学は全て送迎。学校には全て事情は伝えてあるから、アオイもユカリも全部同じ授業で同じクラスよ。ただねぇ…。」
「ただ…?」
「その…授業のクラスが、全部一番難しいクラスでね…。そこしか空きが無かったのよ。まあ、そうね…、勉強を頑張りなさいキョウヤ君!」
「えっ…。えぇ!」
最悪だ。僕は父さんみたいに天才じゃないし、勉強もそんなに好きじゃないのに、と絶望した。
「あー、確かにキョウヤは、勉強は普通ってところかしら?今計算してみたけど、ちょっと辛いものがあるかもしれないわね…。っははは!まあ、精々裏口入学ってバレないように頑張ることね!」
「アオイ何を笑ってるの!?」
「大丈夫、キョウヤ。私たちがいる。勉強は教える。」
ユカリは優しくそう言ってくれた。
「あぁ、ありがとう…。」
パン!
と、レイコさんが両手を合わせた。
「と、いうことで!キョウヤ君。頑張ってね!」
「は、はあ…。」
「あ、そうそう忘れていたわ。はいこれ。」
そうレイコさんに手渡されたのは携帯連絡端末だった。
「なぜですか?僕は自分のものがありますよ。」
「一応ね。セキュリティが最新式のものを使っておいて。既にこの中には私たちの連絡先など、既に色々と情報を入れてあるわ。それにOSも最新だから何かと役にたつと思うわ。」
「わかりました、ありがとうございます。」
「それじゃあ…今日はとても疲れたでしょうし、もう部屋に行ってお休みなさい。荷物も既に届いてあるわ。」
「はい。」
「部屋はアオイたちと隣よ。ARMS本部寮。ノーマルタイプルームだけど結構広いから住むのには全く問題ないと思うわ。それじゃあ、あとはアオイたちに教えてもらってね。」
「はい。わかりました。」
僕たちは席を立とうとした。
「少しだけいいか。キョウヤ君。」
今まで黙ってレイコさんの話を聞いていたアレンさんが僕に話しかける。
「あ、はい。」
「先程も言ったが、私は君の保護責任者だ。つまりこれからの君の行動について全てを把握し、君を管理することが私の任務だ。そして君に関する全ての責任を担っている。あまりこういうことは言いたくないが、変な真似だけはしないでくれるよう頼む。それから、この問題は早急に対処するよう私も積極的に行動していく。まだ私の力では及ばぬところばかりだろうが。しかしそれでもここにいる者たちは皆君の味方だ。皆君の為に精一杯尽力している。これだけはわかっていてくれ。」
あぁ、わかっている。わかっている。言いたいこと全て。アレンさんはいい人なのだろう。でも信用ってそう言われて出来ることじゃない。今はまだ、全部は信じることはできないけど、僕はこの人たちに懸けてみたいと思う。
「はい。わかりました。」
「…君は随分といい子だな。」
「えっ?いや僕は別に…。それじゃあ僕たちはこれで。アレンさん、レイコさんもありがとうございました。」
「いいえ。何かあったらなんでもすぐ連絡してね。また明日。おやすみなさい。」
「おやすみなさい。」
僕たちはその場を後にした。
・
・
・
「あんなことを言って…。今じゃ連邦全体も信用できませんよ。大尉。」
「私はここにいる者と言ったまでだ。私が私の部下たちを信用していなくてどうする。」
「確かにそうですが…。」
「今、ブレインにツクヨミシステムの情報提示を要求している。多分拒否されるだろうが。」
「それにしても、やはり変ですよね。なぜ私たちにもシステムの情報を共有せず、この様な任務が与えられたのか…。」
「いや、それ以前にもっとおかしいことがあるだろう。この組織は連邦軍で唯一戦闘用のアンドロイドの所持が許可されている割に、アンドロイドの管理は全てブレインだ。こうなってくると公開されている戦闘用アンドロイドの詳細も、全て真実を記載しているのかすらわからない。我々に高度な専門的知識がないのが悔やまれるな。」
「ええ。しかしそのアンドロイドを信用し、任務に参加させる指示をしているのが連邦とはいえ、ここの指揮官はあなたです。アンドロイドを扱うのはあなたなのです。先程のあなたの発言からキョウヤ君がこのことを知ればきっとショックを受けるでしょうね。得体の知れないアンドロイドが皆味方だなんて。」
「そんなことはわかっている…。今の私たちはただの連邦の手足にしか過ぎない。仕方のないことだ。しかしその中で今どうやっていくかが重要だろう。私は今私に出来ることをやるまでだ。それにキョウヤ君は…。」
「わかっています。わざわざ言う必要はないですよ。どちらにせよ、我々だけでは埒が明きません。私もこれから独自のルートで当たってみます。」
「そうか。君にそんなパイプがあるのかはさておき…、出来る限りで頼む。」
「はい。」
・
・
・
「ここが1010号室、あなたの部屋。私の部屋が右隣りでユカリの部屋が左隣りね。」
「わかったよ、ありがとう。」
「それじゃあ、私たちも充電…休むとするわね!おやすみ。」
「へぇ、君たちも睡眠をとるんだね。」
「まあね。体は人間と同じ生活を営むように作られているから。じゃあね二人とも。」
「私も。おやすみ。」
「あぁ、おやすみ。」
アンドロイドも人と同じように、食事をして睡眠をとるのか。エネルギーをそのまま変換出来ることが凄いな、なんて考えながら僕は部屋に入ろうとした。
ピッ
「キョウヤ・イザナギ様。ロックを解除しました。」
認証システムは女性の声で、そうしゃべった。
「しゃべるのか…。」
ウィーン、と扉が横にスライドし、僕は部屋に入った。
「おかえりなさいませ。キョウヤ様。私は、これからキョウヤ様の生活をサポートさせていただきます、このお部屋のライフ・アシストシステム、エアーです。よろしくお願いいたします。可能なサポート内容の詳細は、壁内臓液晶タブレットにて記載されておりますのでご確認ください。」
と、どこからともなく先程の女性の声が聞こえてきた。
「CMで見たことはあったけど、本当にこんな感じなんだ…。」
親戚の家へお世話になっていた時には、おばさんが大体の家事をこなしてくれていたのでこのような現代的なシステムなど必要なかったのだ。
それにしても、この部屋も監視されているのだろうか。このライフアシストシステムも、便利なのかもしれないが、ずっと誰かと一緒にいる気分になり、なんだか落ち着かない気がする。
「今日は疲れたな…。つい10時間前までは僕も普通の学生生活を送っていたというのに、なんで…こんなことに…。」
不安、悲しみ、やり場のないこの気持ち。
一人になると、唐突に頭の中に色々な思考が飛び交い始めた。
「だめだ、もう寝よう…。」
僕はもう何も考えないようにして、深く眠りについた。




