第参話 ツキの都 ②
「アスミ准尉、例のものたちが到着したようです。」
「わかったわ。ありがとう。」
私は仕事を中断し、デスクから外れた。
「あ、先輩。例の件ですか~?」
そう話しかけてきたのは、隣に座っている部下のメイ・クーロンだった。
「そうよ。あなたは自分の仕事が終わったらさっさと帰りなさいよー。」
「は~い、わかってまーす!先輩は子守り頑張ってくださいね~!」
「子守り…ね。はいはい。」
私は彼らを迎えにロビーまで行こうした。
「アスミ准尉。」
振り向くとそこにいたのは、アレン・ルーサー大尉だった。
「はい、ルーサー大尉。なんでしょう。」
大尉は29歳にしてARMSの総司令であり、父親は連邦軍総元帥のジョージ・ルーサー。
将来、父親の跡を継ぐ存在になると言われている有望株だ。性格は真面目で堅物。時には冷酷非情な指令も厭わない人物だ。普段はポーカーフェイスで少々近寄りがたいイメージがあるが、そのクールさと整った顔立ち、すらっとした高身長と、女性からの人気は高い。
私も、軍人として彼のことはとても尊敬しており、意中の人であった。
「今から彼らを迎えに行くのだな。私も行こう。」
今日も彼は朝早くからずっと勤務しているのだろう。しかし彼の側に歩み寄ってみると、この時間でも柔軟剤か何かだろうか、ふんわりいい香りがする。彼の人柄に合わない、少々癖っ毛のブラウンの髪も可愛いなと思うし、髪と同じ色の綺麗な瞳に今日も釘付けになる。
「大尉は応接間で待機されるのではなかったのですか。」
「気が変わった。」
「そうですか。」
「…。」
「…。」
エレベーターの中に静寂が流れる。
気まずい。大尉は日頃から無口なので、こういう時どういう話をすればよいかわからない。
「…今回の件だが…。」
「はい。」
「君に、荷が重い仕事を押し付けるような形になって、すまないと思っている。」
大尉が珍しく情けをかけるような言葉を放った。
「いえ、仕事ですので割り切っています。」
「…そうか。上にも早く対処してもらいたいところだな。」
「そうですね…、しかしそれは大尉の御父上に相談なさられてはいかがですか。」
「愚痴のような真似は私らしくないか。」
ッフ、と大尉が少し笑いぎみに言った。
「い、いえ、そういう訳では…!」
大尉が表情を緩ませるところを初めて見た。少しうれしい気がする。
「だが…、問題の源はフロンタルだ…、上もまたしばらく沈黙を貫くだろう。きっと長期戦になる。」
「私も詳しいことは知らされていませんので、なんとも。」
「そうか。」
「はい。」
「……アスミ。君を信頼している。彼らのことは頼んだぞ。」
「…はい。」




