第弐話 明かされるコト
第弐話 ― 明かされるコト
ターミナル
「これに乗るのよ!」
と、ニノミヤさんが勢いよく指さした窓の外にはARMSとペイントされた大きな宇宙船があった。
「すごい…!」
僕は思わず息をのんだ。
「でしょ!これはARMSが所有している輸送艇よ。人や物資、ほとんどなんでも運べるわよ。これよりもまだ大きな船は沢山あるけどね。さあ、搭乗ゲートはあっちよ。」
「ARMSって?」
「ま、とりあえず中に入って説明するわ。行くわよー!」
僕はニノミヤさんに流されるまま、その船に乗り込んだ。
「へぇ…中もすごくかっこいいね!僕、小さいころにここに来てから一度もコロニーの外へ出たことがないからちょっとわくわくするな。」
「はいはい、はしゃがないで、すぐ出発だからちゃんと席につきなさいよー。」
とは言っても、がっちりとした椅子などではなく、僕らはラウンジのソファテーブルのようなところに向かい合って腰をかけた。
しばらくすると船は動き出し、発射用のカタパルトに装着されたようだ。
「船出準備完了。ハッチオープン。これより本艦は月へ出航します。」
出発準備が整ったらしいアナウンスが聞こえてきた。
「一応、最初は揺れるからシートベルトは付けときなさい。」
こんなソファには似つかわしくないが、横にはきちんとシートベルトが備えてあった。
僕はシートベルトを付けて窓の外を眺めていた。
ゴゴゴゴ
ものすごい音がしたと思った次の瞬間、既に船は発射されていた。
「わぁっ!?」
思った以上に揺れたので、少しびっくりしてしまった。
「まぁ、今の技術ではこんな程度ね。民間用だときっと、もっと揺れるわよ。それよりも外見てみなさいよ!」
いつの間にか窓の外は暗い射出デッキではなく広い宇宙空間へと変わっていた。
「うわあ…すごい…。」
どんどん遠ざかる第七コロニー、暗闇のなかで輝く青い地球。
僕はその景色に釘付けになっていた。
「もうベルトを外してもいいわよ。さて…、話に入るけど、いいかしら。」
僕はハッとして正面を向いた。
「あ、うん。ごめん。」
「その前にさぁ…、あんたには警戒心ってものが無い訳?もし、私たちが悪の組織的なもんだったらどーするのよ。こんなところにまで付いて来ちゃって、もう逃げらんないじゃない。」
と、ニノミヤさんは急に僕を小馬鹿にするような態度で話し始めた。
「は…?え…、だ、だって!君が説明は後でするからついて来いって言ったんじゃないか!」
「だから、それがワナだったらどうするのよ!」
「でも、君は僕の命を救ってくれたじゃないか!」
「あのねぇ、いい?
世の中には、自分の手柄にしようとして、目標より先にライバルを蹴落とそうとする輩なんてたっくさんいるのよ。それに、私があんたを助けた目的が、あんたの事を解剖して調べるためだったりするかもしれないでしょ!?」
ニノミヤさんは少し怒っている様に見えた。
「でも…、そうじゃないんだろ…?」
「はぁ。とんだお人よしね、守るこっちの身にもなってほしいわ!」
「やっぱり…、君は僕の味方なんだ。」
「アオイ、さっきからうるさい。もう少し静かに説明して。」
と、急に女の子があらわれた。
「ユカリ!! だって、こいつ、びっくりするほど危機感ないのよ!」
彼女はユカリというらしい。年はきっと僕らと同じくらいで、深い紫色の長い髪と大きな瞳をしている、これまたニノミヤさんと同様めずらしい容姿だと思ったが、ニノミヤさんよりは大人っぽいようにも感じる。
「アオイがちゃんと説明してあげないから。」
彼女の話し方は単調で、どこか感情がこもってないように思える。
「だって、仕方ないでしょ、急いでたんだから!」
「わかった。早く説明してあげて。」
「何よ…。はぁ、じゃあとりあえず自己紹介ね。私から。」
と、ニノミヤさんが改まって座りなおした。
「私は、Android AI Type-Emotion 通称イザナギシリーズ。プロトモデルNO.02。ヒューマンネームはアオイ・ニノミヤ。あんたの父親、シンヤ・イザナギが約16年前開発した世界初の感情を持つ、人型の戦闘兼汎用アンドロイドよ。」
「アンドロイド…。父さんの…。」
フリエルさんに襲われて助けられた時から、薄々アンドロイドかもとは思っていたが、まさか父さんのものだったとは。
「そう。まぁ、一般にはイザナギシリーズは公開されてないからあまり、ピンとこないかもしれないけど。私たちは、ファミリータイプのAIと軍の所有する戦闘用、それに感情までが合わさったまさにアンドロイドの完全体ってわけ!」
「それと、ボディはファミリータイプよりはるかに強い戦闘特化型。」
と、ユカリさんが言う。
「あぁ、それも今言おうとしてたのに!
ま、とにかくこの世で私たちを超えるアンドロイドはいない。そういうこと。じゃ次はユカリね。」
「私も、アオイと同じ。Android AI Type-Emotion プロトモデルNO.03。
ヒューマンネーム、ユカリ・ミカミ。あなたのボディガード。よろしく。」
「ミカミさん、だね。よろしく。君もニノミヤさんと同じで僕を守りに…?」
「あ、そうそう。私たちのことは、ファーストネームで呼んでいいわよ。呼び捨てでね!
ファミリーネームで呼ばれてもピンとこないのよね。だって私たち…」
「わ、わかった!けど、ちょっとまって。どうして君たちは僕を守ってくれるの?
というより、なんで僕は命を狙われてるの?」
ニノミヤさん…いやアオイが、また長々と話しだしそうだったので途中で切ってしまった。
「あぁ、そうね。まずそこからだったわね!」
なぜだろう。アオイより、今まで街中で見たことのあるアンドロイドの方が単純明快で頭が良さそうに見えてしまうのは。
それも、彼女に感情がある故だからなのだろうか。
「あなたのお父さん…シンヤ・イザナギ博士が不慮の事故で亡くなったのは約一年前よね。それで、実は半年前、イザナギ博士の遺言が入ったボイスレコーダーが見つかったの。その内容によると、あんたの体内…いや、心臓には連邦の極秘レベル9の秘密情報が入ったチップが埋め込まれているらしいの。極秘レベル9って言ったら、私たちも知らない連邦の最重要機密よ?それで、それを目的に反政府組織やら他国のスパイに命を狙われる可能性があるから、私たち、地球連邦軍直属特別武装機関ARMSがあんたを保護して守るって訳。理解できたかしら?」
「僕の心臓に…えっと…、よくわからないけど、とにかく超重大な秘密情報が入ったチップが埋め込まれているって…、僕の体は大丈夫なの!?」
「あ、まずそこなのね。
まあヒトの体のことだから100%大丈夫とは言い切れないけど、きっと何かのきっかけで博士が埋め込んだのだろうし、今までなんの違和感もなかったのなら多分大丈夫だとは思うけど、明日からあなたの検査を行うことは決まっているわ。」
「そ、そっか…、僕、小さいころ心臓が弱かったらしくて、一度大きな手術を受けたらしいんだ。だからもしかしてその時に…。でも、なんでわざわざ父さんがそんなことを…?って、それより!先にそのボイスレコーダー…いや、遺言を聞かせてほしいんだけど。」
「ボイスレコーダー自体とその内容も既に連邦の極秘情報。レコーダーは上層部が管理しているから、いくらあなたでも聞かせられない。」
淡々としたユカリの話し方のせいか、冷たく感じた。
「そういうことなの。ごめんなさい。」
「そんな…。」
実父の遺言を遺族の僕が聞けないなんて、父さんは僕からそれだけ遠く離れた存在だったのだろう。
いや、それより、なぜ僕をこんなことに巻き込む真似を…?
「それで、なんで僕の体に極秘チップなんてものが?
しかも既に僕の情報が反政府勢力に漏れているみたいだけど。」
「今それを調べているところなの。ごめんなさい。私も博士の意図が全く読めなくて。反政府勢力への流出に関しても、未だ確信できる情報が掴めてないわ。念のため、レコーダーが発見されてすぐ後からあんたを監視していたんだけど、どうやら正解だったみたいね。」
「なんだよそれ…。しかもずっと視られてたって…。」
思わず、連邦機関のやり方、無能力さに憤りを覚える。
「あなたには申し訳ないけど、こちらも最善は尽くしている。もし、博士のことで何か心あたりがあれば、教えてほしい。」
と、ユカリは小さく頭を下げた。
「心当たりと言われても、僕は父さんとはもうずっと離れて暮らしていたし、何も知らないよ。」
「そう…。どんな些細なことでもいい。もし、何か思い出したら教えてほしい。」
「わかったよ。」
「そうだわ。これからあなたを保護する…というかあなたの住む場所になるところの話なんだけど…。
さっきも言ったけど、あなたはこれから、私たち、地球連邦軍直属特別武装機関ARMSによって長期的に保護されます。これはこの一連の問題が解決するまで。もしかしたら一生解決しないかも知れないけど。ARMSは、地球連邦軍で唯一アンドロイドの所有を認められた機関で、この一連の問題の責任を全て担っているわ。これから月へ着いたら、まずはあなたの保護責任者と、保護者役に会ってもらいます。」
と、アオイが急に改まって話始めた。
「わかった。」
「そこでまた今後についての話があると思うわ。
とりあえず今は色々混乱していると思うから、着くまでここでゆっくりしてなさい。」
「私たちはさっきの報告書の仕事があるから席を外す。
飲み物はあっちにある。休憩しておくといい。」
「それじゃ、また後でね。」
「あ、うん…。」
二人は部屋を出ていった。
確かに、正直色々混乱している。父さんのこと。チップのこと。連邦のこと。これからのこと…。
そう、これからのことが一番不安だ。僕はこれからどうなってしまうのだろう…。でも今一人でどうこう考えても仕方ない。信じよう。彼女たちを。父さんを。
僕は窓の外の景色を見ながらそんな風に思っていた。




