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メロディー・ドロップ  作者: ショコラ*
番外編Short Story
9/9

変わらないこと


番外編SS『変わらないこと』

Thema:朝焼け

Side:優



「ん……」


 ふと、目が覚めた。

 瞼を上げた瞬間視界に入った、分厚い羽根布団。

 ぼんやりとした頭でそれをどければ、その向こう側には玲奈先輩の寝顔が見えた。


(何時だ……?)


 そう思ってしまったのも、どことなく室内が明るかったからだ。

 何となく起き上がれば、まだ仄暗さは残るものの、窓から薄いピンク色を帯びた光が差してきていた。

 バルコニーにつながるそこのカーテンは、朝日で起きられるよう開けたままにしておいたから。

 時刻を確認すれば、まだ3時半くらいだ。

 変な時間に目が覚めてしまったと、頭を掻きながらもそっとベッドを下り、とりあえずトイレに向かった。


(……にしても、綺麗なもんだな)


 バスルームを出て、改めて慣れ始めたホテルの部屋を見渡す。

 約一週間の宿泊中に、青い海も大きな虹も夕日も見たけれど、朝焼けは初めて見る。

 ガラス扉をゆっくりと開き、手摺りまで歩み出るとワイキキの街を見下ろした。

 流石にこの時間は、皆寝静まっているのだろう。

 眼下のメインストリートを走る車両もほとんどなく、まだ目に優しい柔らかな朝日が、背の高いホテル群からキングスヴィレッジまでを静かに照らしていた。

 燦々と輝く日中とも、哀愁を誘う黄昏時とも違う、繊細な陽の色だ。

 俺はしばし、その光景をぼんやりと見つめ続ける。

 ……ゆっくりと自然を眺めるなんて。

 どうやら好むものまで、玲奈先輩に影響を受け始めたらしい。


「綺麗だね」

「あ」


 不意に背後から声を掛けられて、俺ははっと振り返った。

 そこには、長い髪を緩く片側に纏めている玲奈先輩が。


「……ゴメン、起こしちゃった?」

「ううん。ついさっき目が覚めたの」


 静かにそう告げながら、隣に歩み寄ってくる。

 その瞳は、先程まで俺が眺めていた街並みを映し出していた。


「朝焼け見てたの?」

「ん。綺麗だなぁと思ってさ」

「ふふ、珍しいね」

「俺も自分でそう思った」


 そう微笑み掛ければ、ふわりと微笑み返される。

 寝起きだというのに、全然むくんだり腫れぼったくなったりしていない、すっきりとした顔。

 でもやっぱり声音や仕草はいつもよりおっとりしていて、どことなく幼く見えた。


「最終日だしね。まだ見た事なかったから、見られて良かった」


 そう告げれば、隣ですっと伏せられた瞼。

 玲奈先輩は、あんまり考えている事が顔に出るタイプじゃない。だけど――


「先輩が起きてきてくれて良かったよ。これも二人の思い出になるね?」


 どことなく……その醸し出している雰囲気が、淋し気だったから。

 そう言って肩を抱き寄せれば、先輩は黙ったまま、じっと景色を眺めていた。


「また来ようよ、先輩」


 ハワイに着いてから何度となく告げている言葉を、もう一度繰り返せば。

 あまり表情を動かしていたなかった先輩の口元が、少しだけ緩んだ。


「……うん」

「約束ね」

「うん」


 帰国すれば、きっと慌ただしい日常が返ってくる。

 閉ざされた、小さな世界のような学校生活。

 他人の目、他人の言葉。

 それから時々、先輩のピアノ。

 俺のヴァイオリン――


「ねぇ、優」

「んー?」

「……これからもさ」

「……」

「一緒に――」


 らしくない先輩の言葉を遮るように、身を屈めて唇を重ねた。

 だって、そんなの言うまでも無いじゃん。

 先輩の隣には、いつだって。

 もちろん俺が、一緒にいるんだから。 

 

「……」


 しっかりとかち合う視線。

 じっと見つめて応えれば、先輩はもう一度ふわりと微笑んだ。

 帰国してからも、また一緒に朝焼けとか……夕焼けとか、見られたらいいな。

 それこそ今回の旅行を、「懐かしいね」って言える時まで。

 そうしたら先輩も、きっと――


(別に、これが最後ってわけじゃないんだからさ)


 だから、そんなに淋しそうな顔しちゃダメだよ。

 先輩の柔らかい髪に触れながら、俺は朝焼けを目に焼き付けた。



fin.

これで、一旦完結とさせて頂きます。

最後までお読み下さり、本当にありがとうございました!


また、規約上こちらに直接リンクは貼れないのですが、ムーンライトノベルズの方で『嘘つきスナイパー』という、玲奈の親友・英美理がヒロインとなっているお話も書いています。(同作者名です)

タイトルか作者名で検索すればヒットすると思うので、18歳以上でご興味を持って下さった方は、ぜひ覗いてみて下さいませ。

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