表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『価値なしと呼ばれた第二王子は、王都の裏側で灯りを灯す』  作者: 伊佐波瑞樹


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
66/101

第66話


 風紙観測二日目の朝は、昨日よりも静かだった。


 静かすぎる、とロイドは思った。


 東水路の匂いはまだ残っている。


 工房街からは、いつもの金属音も聞こえてくる。


 長屋の住民たちも、高い通りで仮の生活を続けている。


 何も止まってはいない。


 それなのに、空気の奥に妙な緊張があった。


 昨日、風が止まった。


 水路側も、工房側も。


 夕方に。


 まるで誰かが、こちらの観測に気づいて、封鎖弁を閉じたように。


 そして夜、裏口に紙片が置かれた。


 風を止めても、道は消えない。


 だが、帰る者だけが道を知る。


 挑発なのか。


 助言なのか。


 誘導なのか。


 クロウなのか。


 黒羽なのか。


 答えは出ていない。


 ただ一つ分かっているのは、こちらの動きが見られているということだった。


 ロイドは店の作業台に置かれた風紙の小箱を見下ろした。


 細い紙片。


 昨日、黒羽の手を少し動かしたかもしれない道具。


 頼りない。


 だが、今はこれが武器だった。


「……武器っていうと物騒だな」


 ロイドが小さく呟く。


 横でミラが聞き返す。


「何が?」


「いや、この風紙」


「武器?」


「って思ったけど、違うか」


 ミラは小箱を見た。


「道具」


「そうだな」


「見る道具」


「うん」


「戦うためじゃない」


 その言葉に、ロイドは少しだけ目を伏せた。


 戦うためではない。


 見るため。


 知るため。


 帰るため。


 黒羽のように奪うためではなく、閉じ込めるためでもなく、人を動かすためでもなく。


 見えない風を見るための道具。


「……大事だな、それ」


 ロイドが言う。


「うん」


 ミラは頷いた。


「間違えると、黒羽みたいになる」


 短い言葉。


 けれど、鋭かった。


 ロイドは思わず息を止める。


 黒羽みたいになる。


 価値あるものだけを選び、他を捨てる。


 道を道具として使い、人を記録から消す。


 こちらが怒りや焦りで同じように人を“目的のための手段”として見始めたら。


 それは、黒羽に近づくことになる。


「ミラ」


「うん」


「たまに、すごく核心刺すよな」


「たまに?」


「いや、いつもかもしれない」


「うん」


 ミラは特に表情を変えなかった。


 ロイドは苦笑し、それから作業台の上にある方針紙を見た。


 消えた七人を、手掛かりではなく人として扱う。


 この一文が、また重く見えた。


 風紙も、人も、店も。


 何のために扱うのか。


 そこを間違えないようにしなければならない。


 


 今日の観測計画は、昨日とは少し違っていた。


 昨日は朝、昼、夕の三回。


 今日は時間をずらす。


 早朝、昼前、夕方前、夜に近い時間。


 ただし夜間観測は入口周辺では行わない。


 高い通りと工房街の安全圏のみ。


 目的は、黒羽がこちらの観測時間に合わせて封鎖弁を動かしたのか、それとも夕方に自動的に閉じる何かがあるのかを見極めること。


 セドは紙に項目を書きながら、全員に確認していた。


「今日は昨日と同じ時間には動きません」


 ロイドが頷く。


「相手の読みを外す」


「はい。ただし、無理な時間にはしません」


「夜に奥まで行くとかは?」


「しません」


「よし」


 ロイドは即座に言った。


 セドが少しだけ目元を緩める。


「確認が早いですね」


「そこは大事だからな」


 ガルドが腕を組む。


「工房側は、昼前と夕方前が自然だ。作業前の風確認と、炉を止める前の確認に見せられる」


「早朝は?」


「職人は早い。問題ない」


 ロイドが水路側の紙を見る。


「水路側は、朝の洗濯前、昼前の干し直し、夕方前の取り込み前、って感じか」


 ミラが頷く。


「自然」


「本当に生活の中だな」


「うん」


 エルマは地図を見ながら言う。


「風が止まる時間だけじゃない。止まる前に弱くなるか、急に止まるかを見るんだよ」


「弱くなるなら?」


 ロイドが聞く。


「弁をゆっくり閉めてるか、圧が変わっている」


「急に止まるなら?」


「誰かが操作した可能性が高い」


 ガルドが低く言う。


「つまり、相手が触った瞬間を探すわけか」


「そうだね」


 エルマは頷いた。


「直接見なくても、風が教えてくれる」


 その言葉に、ロイドはカイゼルの話を思い出した。


 水は嘘をつかない。


 でも、人は水を聞かない。


 今回は、風だ。


 風は嘘をつかない。


 ただ、それを人が見逃さなければ。


「……カイゼルさんとミラベルさんの両方だな」


 ロイドが呟く。


 エルマが目を向ける。


「何がだい」


「水を聞く人と、帰り道を描く人」


 一拍。


「今、俺たちは風を見て、道を描こうとしてる」


 エルマは少しだけ黙った。


 そして、静かに頷いた。


「そうだね」


 声が少し柔らかかった。


「あの子たちが聞いたら、きっと文句を言うよ」


「文句?」


「カイゼルなら、風より水を聞けって言う。ミラベルなら、紙だけじゃなく足で測れって言う」


 ロイドは少し笑った。


「厳しいな」


「職人と技師だからね」


「でも」


 エルマは認識札の保管箱を見る。


「喜ぶと思う」


 その言葉が、店内に静かに落ちた。


 誰も大きく反応しなかった。


 でも、全員の胸に残った。


 


 早朝観測は、水路側から始まった。


 マイラたちは昨日よりさらに自然に動いていた。


 避難先の洗濯物を持ち、高い通りに出る。


 誰かが布を広げ、誰かが洗濯籠を持ち、誰かが子供に「そこに立たないで」と声をかける。


 生活そのものだった。


 その中で、細い布が風を見る。


 第一地点。


 弱い通り風。


 昨日とほぼ同じ。


 第二地点。


 古い石積みが見える手前。


 布が、かすかに揺れた。


 下からの冷気。


 昨日の朝よりもさらに弱い。


 けれど、完全には止まっていない。


 マイラが戻ってくる。


「昨日の朝より弱いです。でも、夜みたいに止まってはいません」


 セドが記録する。


 早朝、水路側第二地点、弱冷気あり。昨日朝より弱。


 ロイドは石積みの方を見ないようにしながら、小さく言った。


「少しずつ閉められてる?」


「可能性があります」


「でも、朝はまだ通ってる」


「はい」


 第三地点は変化なし。


 屋根上の黒影は見えなかった。


 しかし、ロイドは安心できなかった。


 見えないだけ。


 見られていないとは限らない。


「戻ろう」


 ロイドが言った。


 セドが頷く。


 マイラたちも、自然な動きで洗濯物を抱えて戻る。


 誰も入口に近づかない。


 それだけで、今日の一つ目の観測は成功だった。


 


 工房側の早朝観測では、奇妙なことが起きた。


 裏路地入口手前。


 昨日は夕方に完全に止まっていた場所。


 そこに、早朝はわずかな風があった。


 弱い。


 だが、確かに紙が揺れる。


 ハインツが眉をひそめる。


「……戻ってるな」


 ガルドが低く答える。


「ああ」


 オルドは風紙を見つめる。


「夜のうちに開いた?」


「かもしれん」


「誰が」


「黒羽か、弁の仕組みか」


 ガルドは周囲を見る。


 空き工房の窓は閉じている。


 屋根にも影はない。


 黒い羽も、紙もない。


 それが逆に不気味だった。


「何もないのが嫌だな」


 ハインツが言う。


「同感だ」


 ガルドは記録する。


 早朝、工房側第二地点、微風あり。


 第三地点、足元冷気弱。


 見張り目視なし。


 誘導物なし。


 戻る前に、オルドがぽつりと言った。


「昨日、風が止まったのは夕方だけだった」


「ああ」


「今朝は少し戻ってる」


「ああ」


「じゃあ、夕方に閉めて、夜か朝に開ける?」


 ガルドはオルドを見る。


 ハインツも目を細める。


「……作業時間か」


「何の?」


 オルドが聞く。


 ガルドは工房街の奥、旧東工房区画の方角を見る。


「黒羽が奥で何かする時間だ」


 風を止める。


 帰り道を閉じる。


 あるいは、空気の流れを変える。


 それが夕方に行われるなら、その時間に旧東側で何かが起きている可能性がある。


「戻るぞ」


 ガルドが言った。


「これは店で話す」


 


 昼前の観測では、水路側も工房側も風が安定していた。


 弱いが、通っている。


 昨日の昼よりは少し強い。


 これは予想外だった。


 ロイドは報告を聞いて、首を傾げる。


「朝より昼前の方が強い?」


「はい」


 セドは記録を見比べる。


「昨日とは違います」


「相手が時間をずらした?」


「可能性があります」


「こっちが時間ずらしたから?」


「はい」


「……見られてるなぁ」


 ロイドは頭を抱えた。


 セドは淡々と続ける。


「ただ、風が強まったことで分かったこともあります」


「何?」


「水路側と工房側の風の強まり方が同じではありません」


 セドは地図に矢印を書き込む。


「水路側は下から吸い上げる冷気。工房側は横へ抜ける微風」


「つまり?」


 エルマが横から言う。


「中で分岐してる」


 ロイドは地図を見る。


「測量坑道が一本じゃないってこと?」


「その可能性がある」


 エルマは頷く。


「正式な測量坑道に加えて、ミラベルが言っていた図面にない脇道。あるいは排気用の隙間」


 ミラが言う。


「帰り道、一本じゃない?」


「まだ分からない」


 セドは慎重に言う。


「ですが、可能性はあります」


 ロイドは思わず息を吐いた。


 帰り道候補が増える。


 それは良いことのように思える。


 でも、同時に危険でもある。


 道が増えるほど、迷う。


 黒羽が誘導する道も混ざる。


「……道が多いのも怖いな」


「はい」


 セドが答える。


「だから、描く必要があります」


 ロイドは頷いた。


 帰り道は見つけるものではなく、描くもの。


 ただ道があるだけでは駄目だ。


 どこへ続くのか。


 誰が使えるのか。


 閉じられるのか。


 風が通るのか。


 それを描く。


 描いて初めて、帰り道になる。


 


 王城では、ルイスが封鎖弁の操作時間について記録を探していた。


 フィリアが古い点検順路表を並べる。


 ルイスは外部委託更新の台帳と見比べる。


 事故後三年目。


 外部委託。


 封鎖弁管理。


 点検時間。


 その欄に、奇妙な記録があった。


 定時排気調整、夕刻。


 夕刻。


 ルイスの指が止まる。


「……夕方」


 フィリアが顔を上げる。


「昨日、外で風が止まったのも夕方だったよね?」


「うん」


「これ、関係ある?」


「あると思う」


 ルイスは読み進める。


 定時排気調整、夕刻。


 目的、残留魔力圧の均衡化。


 担当、外部委託。


 手動操作可。


 自動機構、停止中。


「手動操作」


 ルイスの声が低くなる。


「自動じゃない」


「つまり、誰かが夕方に動かしてる?」


「可能性が高い」


 ルイスは胸が冷えるのを感じた。


 昨日の夕方、風が止まった。


 それは黒羽がこちらを見て動かしただけではなく、もともと夕方に排気調整する仕組みがあったのかもしれない。


 ただし、自動ではない。


 手動。


 誰かが操作している。


 そして、その管理は外部委託。


 黒羽の影が強くなる。


「フィリア」


「うん」


「操作役は、旧東の奥にいるとは限らない」


「どういうこと?」


「封鎖弁を動かす点検口が、外縁部にあるなら」


 ルイスは点検順路を見る。


「操作する人間は、測量坑道の近くまで来ている可能性がある」


 フィリアの顔が変わる。


「ロイドさんたちの近く?」


「うん」


 ルイスはすぐに覚書を書く。


 ――封鎖弁は自動ではなく手動操作の記録。


 ――定時排気調整、夕刻。


 ――外部委託管理。


 ――風停止は夕刻操作と一致。


 ――操作役は旧東奥ではなく、外縁点検口付近にいる可能性。


 筆が止まる。


 近くにいる。


 それをどう伝えるか。


 そのまま書けば、ロイドたちは周囲を見るだろう。


 しかし、追わせてはいけない。


 ルイスは最後に一行足す。


 ――近くにいる可能性がある。追わず、観測者を守って。


 フィリアがそれを見て、静かに頷いた。


「大事だね」


「うん」


「セドさん、追わないかな」


 ルイスは少し黙った。


 以前なら不安だった。


 今も不安はある。


 でも、今のセドにはロイドたちがいる。


「たぶん、止まる」


 ルイスは言った。


「止めてもらえる」


 その言葉に、フィリアは少し笑った。


「信じてるんだね」


「うん」


 ルイスは紙を畳んだ。


「信じてる」


 


 夕方前。


 三回目の観測が始まった。


 昨日、風が止まった時間より少し早い。


 水路側では、マイラたちが洗濯物を取り込むふりをしていた。


 布が揺れる。


 昼前より少し弱い。


 でも、まだ風はある。


 ロイドは少しだけ安心しかけた。


 その時。


 セドが低く言った。


「待ってください」


「何?」


「風の向きが変わりました」


 マイラの布が、それまで下から揺れていたのに、急に横へ流れた。


 水路側からではない。


 古い石積みのさらに奥、斜めの方向から。


 ロイドは息を止める。


「何だ?」


「弁が動いている可能性」


「今?」


「はい」


 マイラが顔を強張らせる。


 セドはすぐに言った。


「観測終了。戻ってください」


 その直後。


 布が、ぴたりと止まった。


 風が消えた。


 昨日より早い時間に。


「戻る!」


 ロイドが叫ぶ。


 マイラたちはすぐに動いた。


 だが、その時、通りの向こうで一人の男が立っているのが見えた。


 灰色の外套ではない。


 黒でもない。


 普通の労働者の服。


 だが、こちらを見ていた。


 無表情に。


 そして、ロイドたちが視線を向けた瞬間、背を向けて歩き出した。


 追える距離だった。


 一瞬、ロイドの足が動きそうになる。


 セドの手が、ロイドの腕を掴んだ。


「追いません」


 強い声。


 ロイドは息を呑む。


「……分かってる」


「戻ります」


「ああ」


 男は角を曲がって消えた。


 ロイドは歯を食いしばった。


 悔しい。


 だが、戻る。


 観測者を守る。


 それが今の優先だ。


 


 工房側でも同じ時刻、異変が起きていた。


 風紙が横へ揺れたあと、急に止まった。


 そして、資材倉庫の裏ではなく、正面通りに近い井戸のそばに、一人の男が立っていた。


 職人の服を着ている。


 しかし、手がきれいすぎる。


 工房の人間ではない。


 ガルドが目だけで見る。


 ハインツも気づいた。


 オルドが小声で言う。


「誰です」


「知らん」


 ガルドは低く答えた。


 男は、こちらを見た。


 見られていることを隠そうともしない。


 そして、口元だけで笑った。


 ガルドの血が熱くなる。


 踏み出しかけた。


 だが、ハインツが腕を掴んだ。


「追うな」


「……っ」


「戻るぞ」


 ガルドは歯を食いしばる。


 男はゆっくり井戸の影へ消えた。


 見送るしかない。


 それが腹立たしい。


 だが、ここで追えば相手の流れだ。


 ガルドは拳を握ったまま、低く言った。


「戻る」


 


 店に戻ると、ルイスからの覚書が届いていた。


 セドは、それを読んだ瞬間、顔を硬くした。


「……操作役は近くにいる可能性」


 ロイドが椅子に座り込む。


「やっぱり」


「はい」


 セドは紙を読み上げる。


「封鎖弁は自動ではなく手動操作の記録。定時排気調整、夕刻。外部委託管理。風停止は夕刻操作と一致。操作役は旧東奥ではなく、外縁点検口付近にいる可能性。近くにいる可能性がある。追わず、観測者を守って」


 沈黙。


 ロイドは自分の腕を見る。


 セドに掴まれた場所が、まだ少し痛い。


 追わなくてよかった。


 本当に。


 ルイスの警告が届く前に、セドは止めた。


 ハインツもガルドを止めた。


 観測者は全員戻った。


「……今日は危なかったな」


 ロイドが言う。


「はい」


 セドが答える。


「男、いたぞ」


「工房側にも」


 ガルドが言う。


「つまり、少なくとも二人」


「あるいは、同じ役割の者が水路側と工房側に配置されています」


 セドが記録する。


 夕方前、風向変化後に風停止。


 水路側、不審な男一名。


 工房側、不審な男一名。


 いずれも追跡せず。


 観測者全員帰還。


 ロイドは最後の一行を見て、また少しだけ息を吐いた。


 全員帰還。


 今日も、それを守れた。


 ミラが言う。


「操作役、近い」


「はい」


 セドは頷く。


「次は、操作役を探す?」


 ロイドが聞く。


 セドは少し考えた。


「探すのではなく、操作の範囲を絞ります」


「どう違う?」


「人を追うのではなく、風の変化と出現地点を重ねる」


「なるほど」


 ガルドが腕を組む。


「追えば罠。場所を重ねれば地図になる」


「はい」


 エルマが地図を見て、静かに言った。


「ミラベルなら、そうする」


 ロイドは深く頷いた。


「じゃあ、明日も観測か」


「はい」


「ただし、不審者を見ても追わない」


「はい」


「観測者を守る」


「はい」


 ミラが灯り石を置く。


 作業台の上に、今日の観測結果が並ぶ。


 早朝。


 昼前。


 夕方前。


 風が動き、止まり、人が現れた。


 黒羽の手は、近くにある。


 それが分かった。


 怖い。


 でも、見えた。


 見えたなら、描ける。


 ロイドは壁の紙を見る。


 帰り道は、見つけるものではなく、描くもの。


 そして、今日、新しい線が一本増えた。


 封鎖弁を動かす者は、遠い闇の奥ではなく、街のすぐそばにいる。


 王都の裏側の闇は、思っていたより近い。


 けれど、灯りもまた、近くにある。


 ロイドは小さく言った。


「明日は、こっちが見よう」


 セドが頷く。


「はい」


「追わずに」


 ミラが続けた。


「見る」


 ガルドが低く言う。


「そして、地図にする」


 エルマはミラベルの認識札の箱へ視線を向けた。


「道を描くよ」


 店の中で、風紙が小さく揺れた。


 窓から入った普通の風だった。


 誰かに操作されたものではない。


 ただの夜風。


 その当たり前の風が、今は少しだけありがたかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ