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『価値なしと呼ばれた第二王子は、王都の裏側で灯りを灯す』  作者: 伊佐波瑞樹


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第57話



 ロイドが目を覚ました時、最初に感じたのは床の硬さだった。


 背中が痛い。


 腰も痛い。


 腕も痛い。


 喉はまだ少し焼けるようで、口の中が乾いている。


 目を開けても、すぐには天井が見えなかった。


 ぼんやりとした視界の中で、棚の影と、作業台の脚と、床に敷かれた毛布が少しずつ形を取り戻していく。


 店の中は、朝だった。


 ただ、いつもの朝ではない。


 避難所として使われた店の空気が、まだ残っている。


 毛布。


 空の器。


 壁際に寄せられた木箱。


 入口近くに置かれた夜間用灯り石。


 床に残る泥の跡。


 子供たちが寝ていた場所の小さな温度。


 それら全部が、昨日の夜をまだ店の中に留めていた。


「……痛ぇ」


 ロイドがかすれた声で呟く。


 すると、すぐ横から声が返ってきた。


「生きてる証拠」


 ミラだった。


 彼女は作業台の近くで、灯り石を一つずつ布で拭いていた。


 昨夜、旧東工房区画の外縁部へ持っていった灯り石だ。


 青い水の飛沫を受けたもの。


 泥がついたもの。


 角に傷が入ったもの。


 それでも、どれも弱く光っている。


 ロイドは上体を起こそうとして、腰に痛みが走り、顔をしかめた。


「……年寄りになった気分だ」


「昨日、無理した」


「無理しないと駄目だったろ」


「うん」


 ミラは否定しなかった。


 ただ、布で灯り石を拭きながら言う。


「今日は無理しない」


「そうしたい」


「する」


「はい」


 ロイドは素直に頷いた。


 少し前なら、店主だから、外に人がいるから、説明しないと、と言って立ち上がっていただろう。


 今も気持ちはある。


 だが、体が動かない。


 そして何より、昨日何度も言われた。


 休むのも必要。


 寝るのも仕事。


 灯りは一人で持たない。


 その言葉が、体の奥に残っていた。


「セドは?」


 ロイドが聞く。


 ミラは作業台の方を目で示した。


 セドは、作業台に突っ伏したまま眠っていた。


 正確には、眠っているように見えた。


 片手には筆。


 もう片方の手は、記録紙の端に置かれている。


 髪が少し乱れている。


 普段なら考えにくい姿だった。


「……寝てる?」


「たぶん」


「珍しいな」


「止めた」


「ミラが?」


「うん」


「強いな」


「必要」


 ミラは灯り石を拭き終え、一つ棚へ戻した。


 その光はまだ少し鈍い。


 だが、磨かれると少しだけ明るくなったように見えた。


 ロイドはその光を見つめる。


「……返ってきたな」


「うん」


「全部?」


「全部」


 ミラは小さく頷いた。


「傷はある」


「そっか」


「でも、光る」


 その言葉が、妙に胸に残った。


 傷はある。


 でも、光る。


 それは灯り石のことだけではない気がした。


 店も。


 街も。


 ロイド自身も。


 セドも。


 ガルドも。


 エルマも。


 昨夜の水路を越えて、傷だらけになって、それでも戻ってきた。


 まだ光っている。


 ロイドはしばらく何も言わなかった。


 やがて、かすれた声で言う。


「ミラ」


「うん」


「ありがとな」


 ミラの手が少し止まった。


「何が?」


「灯り」


「うん」


「あと、店を守ってくれたこと」


「うん」


「子供たちも」


「うん」


「……俺たちが帰る場所、残してくれた」


 ミラは灯り石を布の上に置いた。


 少しだけ、目を伏せる。


「帰ってきたから」


「うん」


「それでいい」


 短い言葉。


 けれど、十分だった。


 店の中に、静かな時間が流れる。


 その静けさを破ったのは、セドの小さな呻き声だった。


「……記録」


 寝言のような声。


 ロイドは思わず笑った。


「起きて第一声がそれかよ」


 セドはゆっくり顔を上げた。


 目元に疲れが残っている。


 しばらく状況を理解できていないような顔をしたあと、手元の筆を見て、紙を見て、ようやく現実に戻ったようだった。


「……おはようございます」


「おはよう」


 ロイドが言う。


「寝たか?」


「少し」


「少しじゃなくて、ちゃんと寝ろ」


「今からですか」


「いや、起きたなら食え」


 ミラが即座に言った。


「食べる」


「……はい」


 セドは素直に頷いた。


 ロイドはそれを見て、目を細める。


「本当に素直になったな」


「皆さんがしつこいので」


「いいことだ」


「はい」


 セドは少しだけ目を伏せた。


 その表情に、以前ほどの硬さはない。


 疲れている。


 傷もある。


 けれど、どこか柔らかくなった。


 ロイドはそう感じた。


 


 店の外では、朝の王都が動き始めていた。


 昨日の混乱が嘘のように、空は薄く晴れている。


 だが、街の空気はまだ重い。


 水路沿いの長屋へ戻れない住民たちが、高い通りの家や工房の一角に身を寄せている。


 処理場は一部停止。


 工房街も東側の数件が作業を止めている。


 子供たちは大人のそばから離れない。


 誰もが、東水路の方角を気にしている。


 水の音はかなり弱まっていた。


 青い光も、夜ほどは見えない。


 それでも、完全に消えたわけではない。


 水路沿いには縄が張られ、近づかないように木箱や板が置かれている。


 そのいくつかには、ロイドの店の文面を写した紙が貼られていた。


 東水路、接近禁止。


 子供だけで近づかない。


 黒い鳥の印を見ても追わない。


 異変を見たら近くの大人へ。


 店の紙から始まった言葉が、今は街のあちこちにある。


 字は違う。


 紙も違う。


 でも、内容は同じ。


 その光景を、ガルドは店の外で見ていた。


 腕を組み、眉間に皺を寄せたまま。


 隣にはハインツがいる。


 二人とも顔が怖いせいで、通りの子供が少し距離を取っていた。


「……広がったな」


 ハインツが言う。


「ああ」


 ガルドが短く答える。


「昨日、工房街でも同じ文を貼った」


「見た」


「見習いが自分で読んでた」


「そうか」


「悪くない」


 ハインツはぶっきらぼうに言った。


 ガルドは少しだけ横目で見る。


「お前がそう言うなら、悪くないんだろうな」


「褒めてる」


「分かりにくい」


「お前に言われたくない」


 少しの沈黙。


 二人は東水路の方角を見る。


 昨夜、工房街にも青い水が染み出した。


 炉を止め、見習いを逃がし、端材箱を上げた。


 いくつかの工房は被害を受けた。


 だが、死者は出ていない。


 それは、偶然だけではない。


 準備していたからだ。


 言葉を流していたからだ。


 ガルドはそれを認めざるを得なかった。


「……昔は」


 ガルドが低く口を開く。


 ハインツは横を見ない。


 ただ聞く。


「こういう時、組合の指示を待った」


「今も待つ奴は多い」


「ああ」


「でも昨日は違った」


「ロイドの店が先に動いたからな」


「店だけじゃない」


 ガルドは言った。


「人が、自分で動いた」


 ハインツは少しだけ黙った。


 それから、低く言う。


「それが怖い連中もいる」


「ああ」


「黒い鳥も、組合も」


「ああ」


 ガルドは拳を握る。


「だから、次が来る」


「だろうな」


 重い沈黙。


 だが、二人の間に絶望はなかった。


「で」


 ハインツが言う。


「端材ルートはどうする」


 ガルドが少しだけ眉を上げる。


「昨日の今日でそれか」


「昨日の今日だからだ」


 ハインツの声は硬い。


「処理場の黒い荷箱を見ただろ。あいつらは混乱の中でも回収してた。なら、こっちの流れを止める理由はない」


「強いな」


「怖いからだ」


 ハインツは正直に言った。


「怖いから、工房の端材をあいつらに黙って持っていかれるのが嫌だ」


 ガルドは少しだけ目を伏せた。


 職人が怖いと言う。


 その重さを、今ならよく分かる。


「……細く、いくつも」


 ガルドが言った。


 ハインツは頷く。


「レム工房のオルドも来るだろう」


「ああ」


「うちの見習い、テオが昨日の件で落ち込んでる」


「無理もない」


「だが、あいつはあいつで、端材の分け方を学びたいと言ってる」


「……そうか」


 ガルドは少しだけ表情を緩めた。


「生きてるから学べる」


「そういうことだ」


 二人はまた黙る。


 その沈黙は、昨日までより少しだけ柔らかかった。


 


 王城では、ルイスが医療記録の写しを前にしていた。


 消えた七人。


 勤務者名簿と、負傷者・死亡者・行方不明者の合計が合わない。


 その差。


 七人。


 小さな数字ではない。


 けれど、大きな事件の記録の中では、隠そうと思えば隠せてしまう数字。


 ルイスはその七人の名を、紙へ一つずつ書き出していた。


 まだ確定ではない。


 でも、名簿の照合で浮いた可能性のある名前。


 技師。


 記録係。


 冷却炉管理補助。


 魔石調整士。


 名前の横には、当時の所属と、年齢。


 その一つ一つが人だった。


 ただの記号ではない。


 誰かの家族。


 誰かの師。


 誰かの仲間。


 フィリアは隣で、別の台帳を見ていた。


 彼女の顔も重い。


「……ルイス」


「うん」


「この人」


 フィリアが一つの名前を指す。


「事故後の見舞金記録に載ってない」


「死亡扱いでも、負傷扱いでもない?」


「うん。家族への支払い記録がない」


 ルイスはその名を見た。


 カイゼル・ノート。


 冷却炉管理補助。


 二十九歳。


 行方不明欄にもない。


 死亡欄にもない。


 負傷者にもいない。


 けれど、勤務者名簿にはいる。


 消えた人間。


「……運ばれた」


 ルイスが小さく言う。


 フィリアの顔が歪む。


「生きたまま?」


「分からない」


「でも、可能性はある」


「うん」


 沈黙。


 部屋の空気が重くなる。


 ルイスは拳を握った。


「セドへ伝える必要がある」


「今?」


「……」


 ルイスはすぐには答えなかった。


 昨夜、自分で決めた。


 急がず。


 今書くと焦る。


 外側の人たちは疲弊している。


 ロイドの店も休む必要がある。


 それでも、この情報は重要だ。


 黒羽が旧東工房区画から何を運んだのか。


 物だけではない。


 人。


 消された七人。


 そして、昨夜灰色の男が搬出路へ逃げたなら。


 もしかすると、今もその“人の記録”に繋がる何かが残っているのかもしれない。


「……整理してから」


 ルイスは言った。


「名前だけを投げると、セドは動く」


 フィリアは少しだけ笑った。


「分かってるね」


「うん」


「なら、どう伝える?」


 ルイスは紙を見つめる。


 直接、七人の名前を書くか。


 それとも暗号化するか。


 危険すぎる。


 王城の記録から得た情報をそのまま外へ出せば、ルイス側の動きが見える。


 でも、曖昧すぎれば伝わらない。


「……鳥が運んだのは、物だけではない」


 ルイスは呟く。


 フィリアが静かに聞いている。


「消えた七つの灯りがある」


 自分で言って、胸が痛んだ。


 七つの灯り。


 人を、灯りと呼ぶ。


 それはロイドの店に影響されすぎているのかもしれない。


 けれど、今のルイスには、その表現が一番近かった。


 価値ありとして運ばれたのか。


 危険だから消されたのか。


 利用されたのか。


 まだ分からない。


 でも、彼らは確かにいた。


 灯りのように。


「それ、セドなら分かる?」


 フィリアが聞く。


「たぶん」


「たぶん?」


「うん」


 ルイスは少し苦笑する。


「でも、補足は必要だね」


 彼は新しい紙を取り出した。


 すぐには送らない。


 まず下書き。


 ――事故当日の名簿と、医療記録が合わない。


 ――鳥が運んだのは、物だけではない。


 ――消えた七つの灯りがある。


 ――搬出路の先に、人の記録が残っている可能性。


 書いてから、ルイスは筆を止めた。


 最後に一行。


 ――急がず、でも忘れず。


 それを書いた瞬間、胸の奥が少しだけ落ち着いた。


 フィリアは紙を見て、小さく頷く。


「いいと思う」


「ありがとう」


「でも、送る前に少し寝て」


「……」


「ルイス」


「はい」


「寝て」


「……分かった」


 セドと同じように止められている。


 そう思うと、少しだけ笑えた。


 灯りは、一人で持つものではない。


 休むことも、誰かに止めてもらうことも、その一部なのかもしれない。


 


 午後。


 ロイドの店は、短い時間だけ再開した。


 完全営業ではない。


 扉の前に新しい紙が貼られている。


 本日、短時間のみ対応。


 灯り石販売は必要分のみ。


 水路・旧東工房区画に関する情報は、分かる範囲で掲示します。


 体調不良者・避難者優先。


 店主ロイド


 それを読んだ人々は、以前より静かに並んだ。


 誰かが無理に詰め寄ろうとすると、別の人が止める。


「店主さんたち、昨日寝てないんだから」


「子供がまだ中にいるぞ」


「順番でいいだろ」


 店の外に、そういう空気が生まれていた。


 ロイドは扉を開け、少しだけ驚いた。


「……静かだな」


 客の一人が言う。


「騒いだらミラちゃんに怒られるって聞いた」


 ロイドは吹き出した。


「それは怖いな」


 店内からミラの声が飛ぶ。


「聞こえてる」


「すみません」


 客たちが笑う。


 その笑いに、ロイドの肩から少し力が抜けた。


 まだ笑える。


 水路のあとでも。


 避難のあとでも。


 旧東工房区画の闇を見たあとでも。


 人はまだ笑える。


 それが、思っていた以上に救いだった。


 短時間の営業中、さまざまな情報が集まった。


 水路沿いの被害。


 工房街の浸水。


 処理場の黒い荷箱。


 避難者の体調。


 子供たちの様子。


 その中で、何人かの住民が礼を言った。


「昨日、声をかけてくれて助かった」


「うちの母を運んでくれた職人さんに礼を言いたい」


「子供が店にいてくれて安心した」


「貼り紙、馬鹿にして悪かった」


 ロイドは、そのたびに何と言っていいか分からなくなった。


「いや、こっちこそ」


「俺だけじゃない」


「店のみんなで」


「街のみんなで」


 何度も同じことを言った。


 そのたびに、本当にそうだと思った。


 誰か一人の手柄ではない。


 誰か一人の責任でもない。


 この店は、街の中で灯りを持っている。


 でも、その灯りを支えているのは街でもある。


 セドはその様子を記録していた。


 ただ、今日はミラに言われた通り、途中で筆を置いた。


 休みながら。


 水を飲みながら。


 食べながら。


 そのたびにロイドが笑う。


「やればできるじゃねぇか」


「皆さんが見ているので」


「見張られてるみたいな言い方だな」


「事実です」


「否定できねぇ」


 ミラが短く言う。


「見てる」


「ほらな」


 小さな笑いが生まれる。


 店は、少しずつ日常へ戻ろうとしていた。


 完全には戻らない。


 戻れない。


 けれど、新しい日常を作ろうとしている。


 


 夕方になり、店を閉めたあと。


 セドはロイドへ言った。


「今日、ルイス様から連絡が来る可能性があります」


 ロイドは椅子に座りながら顔を上げた。


「王城側か」


「はい」


「昨日、向こうも動いたんだよな」


「おそらく」


「……ルイス様、大丈夫なのか?」


 ロイドの声には、自然な心配があった。


 セドは少しだけ目を伏せる。


「分かりません」


「そっか」


「ですが、無茶はしていないと思います」


「何で」


「最近、周りに頼ることを覚え始めています」


 ロイドは少し笑った。


「お前みたいだな」


「……そうかもしれません」


 セドは否定しなかった。


 ロイドは少し驚き、そして嬉しそうに笑った。


「いいことだ」


「はい」


「王城の中にも、灯りがあるといいな」


 その言葉に、セドはルイスの顔を思い出した。


 フィリア。


 ノクス。


 バルド。


 王城の記録。


 確かに、ルイスの周りにも少しずつ灯りが生まれている。


「あります」


 セドは静かに答えた。


「きっと」


 その夜。


 店の裏口に、古い本が置かれていた。


 いつものように布に包まれている。


 セドは周囲を確認し、本を拾った。


 店内へ戻り、作業台の上で開く。


 ロイド、ミラ、ガルドも近くにいた。


 もう、一人で読むものではなくなっていた。


 もちろん、原文すべてを見せるわけではない。


 だが、重要な情報は共有する。


 それが今の形だった。


 本の間に挟まれていた薄紙。


 そこには、ルイスの文字があった。


 ――事故当日の名簿と、医療記録が合わない。


 ――鳥が運んだのは、物だけではない。


 ――消えた七つの灯りがある。


 ――搬出路の先に、人の記録が残っている可能性。


 ――急がず、でも忘れず。


 セドは、しばらく何も言わなかった。


 ロイドが低く聞く。


「……何て?」


 セドは紙を見つめたまま答える。


「十年前、消えた人がいます」


 店内が静まり返る。


「七人」


 その数字が、静かな店に落ちた。


 ミラの手が止まる。


 ガルドの顔が険しくなる。


 ロイドは唇を結んだ。


「物だけじゃなかったんだな」


「はい」


「搬出路って」


「昨夜、灰色の男が逃げた場所です」


 沈黙。


 旧東工房区画の外縁弁室。


 青い水。


 灰色の男。


 搬出路の闇。


 そこに、人の記録が残っているかもしれない。


 あるいは、もっと残酷なものが。


 ロイドは深く息を吐いた。


「……第二章、重そうだな」


 誰も笑わなかった。


 けれど、セドは静かに頷いた。


「はい」


「でも、急がず」


 ロイドが紙の最後の一行を見て言う。


「でも、忘れず」


 ミラが続けた。


 ガルドは低く言う。


「行くなら準備してからだ」


「はい」


 セドは紙を丁寧に畳んだ。


 胸の奥に、重いものが沈む。


 七人。


 消えた灯り。


 ルイスが見つけた王城の空白。


 旧東工房区画の搬出路。


 黒羽が今も求める価値あるもの。


 それらが、次の道を示している。


 しかし今夜は、まだ行かない。


 休む。


 記録する。


 共有する。


 準備する。


 それが、今のセドたちの選択だった。


 店の中には、柔らかな灯りがある。


 外では、東水路が低く鳴っている。


 王城では、ルイスも同じ重さを抱えている。


 第二章は、もう始まっている。


 けれど、彼らは以前のように闇へ飛び込まない。


 灯りを持ち。


 仲間と共に。


 足元を照らしながら、進む。


 ロイドは椅子にもたれ、ぼそりと言った。


「飯、食ってから考えよう」


 ミラが頷く。


「正しい」


 ガルドも短く言う。


「正しいな」


 セドは少しだけ目元を緩めた。


「はい」


 消えた七つの灯り。


 その重い言葉を前にしても。


 彼らはまず、生きている者として食べることを選んだ。


 それは弱さではない。


 次へ進むための、確かな準備だった。

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