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西日本特別諜報班 NST 影の特命  作者: スパイク


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百万ドルの夜に影は二つ

六甲山の夜景は、神戸の誇りだ。

港の光が海に溶け、三宮のネオンが宝石のように連なり、大阪湾までが一枚の絵になる。人はそれを“百万ドルの夜景”と呼ぶ。だが光が強いほど、影もまた濃くなる。


その夜、西日本特別諜報班――NSTは六甲の展望スポットにいた。

元県知事一派の幹部が、海外工作員と“夜景デート”を装って接触するという情報。観光客の波に紛れ、証拠を押さえる。それが任務だった。


主役は迫田ツインズ。

澄香と澪香。撹乱と分断を得意とする双子だ。片方が視線を引き、片方が背後を取る。呼吸も歩幅も揃う、NSTの精密機械。


「相手は神経質や。軽い動きはするなよ」


無線越しに玲奈の声が落ちる。神戸訛りの関西弁は低く、静かだ。怒鳴らないが、逆らえない。


「了解。完璧にやるわ」


澪香が笑う。その軽さが、今夜は裏目に出るとは思わずに。


展望デッキに人が溢れる中、ターゲットが姿を見せた。観光客を装いながらも、歩幅が一定で、視線が無駄に動かない。双子は予定通り動き出す。


その時だった。


「……澄香?」


聞き覚えのある声。三好さつき。

清楚なコート姿で、隣には同年代の男。どうやらデートらしい。六甲の夜景を背景に、少し照れた笑顔を浮かべている。


澪香は一瞬迷い、軽く流そうとした。


「そうだよ」


さつきは嬉しそうに彼氏を紹介する。悪気はない。だが会話のわずかな“違和感”が、ターゲットの視線を引いた。


澪香はやっと切り上げ、任務に戻ろうとする。だが数分後、今度は別の展望ポイントで任務中の澄香に、さつきが声をかけた。


「澄香、さっきもいたよね~?」


澄香が凍る。


「……?」


双子の“入れ替わり”が露呈した瞬間だった。

ターゲットが距離を取る。護衛が間に入り、接触は流れた。


任務失敗。


澪香は唇を噛む。


「……私の判断ミスです、玲奈さん」


返ってきたのは、ため息でも叱責でもない。


「致命傷か?」


「……いえ、まだ追えます」


「なら、プランBや」


玲奈の声は変わらない。六甲の風より静かだ。


「澄香は連絡役を再捕捉。澪香は観光客の流れを作れ。あかりは車両を抑えろ。美咲は通信ログを拾い直せ。出口は一つ塞ぐ」


矢継ぎ早だが、無駄がない。


澪香は顔を上げた。


「……汚名返上します」


「せやな。あんたは賢い。冗談の値段、次は考え」


玲奈はそれ以上言わない。責めない。だが甘やかさない。


澪香は観光客の波に溶け込み、ターゲットを自然に別の導線へ押し込む。澄香が裏から回り込み、通信ログの断片を拾う。港のコード、時間、接触予定地。接触は流れたが、資金移動の証拠は押さえた。


任務は成功でも失敗でもない。

致命傷にはならなかった。


さつきは彼氏と夜景を眺めている。


「神戸って、やっぱり綺麗ですね」


男が笑う。


「君と見るからやろ」


百万ドルの光が、二人を優しく包む。


少し離れた場所で、澪香が深く頭を下げる。


「すみませんでした」


玲奈は夜景を見たまま言う。


「揺れるんはええ。落ちへんかったらな」


長い髪が夜風に揺れる。切れ長の目に、街の光が映る。


怒鳴らない。焦らない。

状況を組み直し、最小の動きで最大の修復をする。


静かなる美貌のボス。


六甲の夜は揺れても、崩れない。

岡本玲奈がいる限り、NSTもまた揺れながら立ち続ける。

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